初めての召喚
神域を出る際に、ドアノブにあるダイヤルをかちかち回し、経過時間を1秒にしてみる。そうして出てみると、入ってきたときとあまり変わらない太陽の位置。太陽の位置だけでは今ひとつわからないけれど、きちんとダイヤルが機能しているなら、こちらから見たときには入って1秒で出てきたように見えるはず。
さてさて、お風呂ですっきりしたし、おまちかねの召喚タイム!
種類に制限があるし、あまりうかつに召喚したくは無い。しかし、ほとんどのうどん屋さんにあるメニューか。お風呂でぽかぽかしているし、冷たい方が良いなぁ。よーし、時々無性に食べたくなって、商店街に用事があったときには割と寄っていたお店のうどんを呼び出してみよう。イメージして…… いかん、思い出すだけでよだれが……
「サモン、牛肉ぶっかけ!」
……何も起こらない。うむむ、まぁあの店のメニュー的には牛と豚が区別されているけれども、ほとんどの店は区別してないもんな。それなら
「サモン、肉ぶっかけ!」
醤油蔵を改装したお店の、甘辛く煮付けられたお肉の載ったぶっかけをイメージしてみるも、何も起こらない。確かに肉ぶっかけ無い店もわりとあるけれど、肉ぶっかけ自体がダメなのか、それとも方法が間違っているのか……
次は、チェーンだけれど独自のメニューもあるお店のぶっかけをイメージしてみる。あそこはわかめもセルフトッピングなので、わかめ、天かす、ネギの載ったぶっかけをイメージして……
「サモン、冷ぶっかけ!」
そう発言した途端、目の前に光を放つ球体が現れ、美味しそうな出汁の香りが漂ってきた。その光がだんだん弱まっていき……
現れたうどんは、そのまま重力に引かれて地面に落下した。
「え、ちょっと!」
地面に転がる麺。その上には指定したとおり、わかめ、ねぎ、天かすが、思った通りの量で乗っている。
(うわぁ、もったいない。でも麺を粗末にするなんてありえないことだよ! 発電に利用するところもあったくらいだし、このまま捨てるなんてもったいない!)
しかし、落としてしまった麺を食べるのは衛生的にどうだろう。洗えば何とかなるかな?
そう悩んでいると、スーちゃんが麺の上に飛び乗った。そして、だんだんとうどんを飲み込んでいく。そして数十秒後、そこには出汁のしみこんだ地面のみが残っていた。
「スーちゃんありがと。無駄にしなくてすんだよ」
気にしないで、って感じで突起を振るスーちゃん。
処理してくれるのはありがたいけれど、スーちゃんにはできれば地面に落ちてないのを食べさせたい。
そういや倉庫に机と椅子があるんだっけか。
それを思い出したので、青い石に触れながら、お店によくある机と椅子を思い浮かべ、来いと念じる。
すると目の前が光ったかと思うと、折りたたみテーブルとパイプ椅子が現れた。
小学校のバザーなんかでよく見るやつだ。思っていたのとは違いやすっぽいけれど、とりあえず机と椅子は出てきた。これでさっきみたいな失敗をしても、机の上には残るはず。
今度は先ほどのイメージに加え、どんぶりと箸も入念に思い浮かべ、「サモン、冷ぶっかけ」と呼び出す。今度はどんぶりに入ったうどんが召喚された。わかめにネギ天かすと乗っており、お箸も付いている。成功だ!
「スーちゃん食べる?」と聞いてみたものの、さきほどのうどんで満足だったらしく、もういらないよーとふるふる震えている。
「なら遠慮無く」
椅子に座って箸を手に取り、麺をすする。うむ、やはりうどんは最高!
無心になって半分くらいすすった後、我に返る。サイドメニューも試さなきゃ!と。
「しかしサイドメニューか……」
やはり定番は天ぷら。でも結構店によってバリエーションがあるんだよなぁ。
ん、まてよ。メニューでは天ぷら一律の値段を掲げているところもあるな。
となれば、まず試してみるのは、釜玉で有名なお店のじゃがいも天ぷら。あまりじゃがいもを置いてある店は少ないし、同じ味は他で見かけたことが無い。これが召喚できるなら、サイドメニューは割と融通が利きそう。
「サモン、じゃが天!」
先ほどの失敗を思い出し、お皿もキチンとイメージした上で唱える。
すると目の前に光の玉。そして光が消えた後には緑の混じった天ぷらが皿の上に置かれていた。
「やった、召喚成功!」
さっそくかじりつく。甘く煮込まれたジャガイモの味。さながら肉じゃがのジャガイモを天ぷらにしたよう。そしてアクセントに磯辺の衣。磯辺が良い味している。この磯辺があってこそのじゃが天だよ、うん!
はふぃ、と満足していると、スーちゃんがじっとこちらを伺っている。「食べる?」と聞くと、ぴょんぴょんと跳ね、机の上に乗ってきた。
そこでもう一つ召喚し、スーちゃんに差し出す。喜んで飛び乗り、吸収するスーちゃん。
そんな様子をほほえましく見つつ、今度は揚げたての天ぷらで有名な店の半熟卵天を思い浮かべ、
「サモン、卵天!」
と唱えてみる。こちらは失敗。やはり先ほどのは天ぷらというくくりでメニューにあるからOKで、今回の卵天みたいにメニューに記載されているのは無理なのか。
天ぷらを食べると飲み物がほしくなるなーと、だいたいの店においてある水を思い浮かべ、「サモン、お冷や!」と呼び出す。光とともに氷の浮かんだコップが現れる。よかった、メニューに無くともセルフのものならいけるみたいだ。
試しに「サモン、わかめ」と皿に載っているわかめを思い浮かべ、召喚してみる。するとどんぶりの上に光が集まり、わかめが追加された。別皿を思い浮かべたはだけどそれは無理で、追加なら可能なのかな。
そんな実験を行いつつも、うどんを食べ終わる。
「ごちそうさまでした!」
手を合わせて感謝をすると、どんぶりが消えた。周りにこぼしてしまった天かすも消えている。
ごちそうさまの合図で召喚した物が消えるのか。おなかはいっぱいなままだし、食べたものは消えないみたい。これは後片付けが楽で良いなぁ。
ふぅ、と一服していると、背筋になにか冷たい感覚が走った。
慌てて周りを見回すも、なにも変わった様子はない。スーちゃんも、どうしたの?といいたげな感じでこちらを見ている。
何だったのだろうかと考えるも、わからない。しかし、悪寒はまだ続いている。
そういや、お供えしなきゃな と思い出すと、悪寒は消えた。
もしかするといまのは神様の催促か? と思った途端に悪寒再び。
はいはいお供えしますよ! と慌ててお供え台を呼び出し、冷ぶっかけ(わかめ、ねぎ、天かすのせ)を召喚し、台におく。そして、どうぞお納めください、と念じる。悪寒が消え、どんぶりが光り輝く。ひときわ強く輝いたかと思うと、光が晴れたときにはそこにはなにもなかった。
やはりさっきのは神様の催促だったかと気づき、食い意地の張った…… と続けそうになって、その言葉を慌てて振り払う。今の感じからだと絶対に読み取られるじゃん……
しかし、改めてお供え台を見ると、細かな模様が入っていてなかなか立派である。地域のお寺においてあっても違和感が無さそうなくらいには。
とりあえず役目が終わった机と椅子、お供え台を倉庫に送り返す。
今ので召喚はなんとなくわかった。本当はもっと試したいけれど、いかんせん今の状態では先ほど召喚した1玉と天ぷらでお腹いっぱい。前の体だったら3玉余裕だったんだけどなぁ。
今召喚しても食べられないので、次は夜に試すことにしよう。
それまでは、このあたりを散策してみようかな。
やっとうどんを召喚できました。
続きは鋭意執筆中