村長宅にて(1)
遅くなりました
レンドさんは晩にまた来ると言ってギルドに戻ったので、それまでマーサさんの手伝いをすることにした。マーサさんは別に良いよと言ってくれたけれど、この世界のことを知りたいから! と押し切ったのだ。
とはいえ外作業は午前中、つまり暑くなる前ににするらしく、今からするのは家庭内での作業とのこと。その中で洗濯と掃除を手伝うことになったのだが、マーサさんの家には洗濯機や掃除機があり、やることと言えば元の世界とあまり変わらない感じだった。ちなみに洗濯機や掃除機は魔石で動くタイプで、魔石1個で洗濯機は1ヶ月、掃除機は1年間動くらしい。しかし掃除機なんてハンディタイプなのに吸引力が強く、元の世界より優れているなと感じるくらいの性能だ。
「でも、そんなに簡単にこういう製品や魔石って手に入るの?」
そんな疑問に対しマーサさんは丁寧に答えてくれる。
「こういう魔石機器はギルドでカタログ注文したら冒険者が届けてくれるのさ。都市だったら魔石機器専門店があるからそこで買えるんだけれど、田舎だとそうはいかないからね。そしてこういう家事用具に使う魔石はギルドで銅貨5枚…… だいたいギルド付きの食堂で一回食べられるくらいの値段で手に入るよ。村の近くの牧場でも鶏や牛といった魔物を育てているから大量に手に入るのさ」
鶏や牛が魔物と聞いてびっくりして詳しく聞いてみたら、翻訳魔法の能力のせいで名前は同じに聞こえるけれど、元の世界のものとは異なる生き物と言うことがわかった。鶏と言っても大人の腰くらいまでの高さを持つ大きなものだし、牛といっても妊娠しなくても牛乳を搾れるちょっと変わった魔物。ちなみに味は転移者お墨付きらしい。元の世界と同じ名前なのに実態が少し違うのはちょっと違和感があるけれど、異世界の単語を覚えなくてすむのはありがたいな。
ちなみにマーサさんの家には冷蔵庫もあった。元の世界の一人暮らし用冷蔵庫と同じ形とサイズで、魔石1個で1ヶ月動くとのこと。さすがに神域のとは違い、冷やすだけで時間経過は当然あるみたい。
ついでに冷蔵庫の中身を見せてもらったのだけれど……
「こ、これは……!」
「醤油、味噌にバターとマヨネーズだね。最近話題の調味料さ」
この世界にはマヨネーズが存在した。これではマヨチートできない!
でも異世界で探す定番である味噌や醤油が存在するのは嬉しい。それに出汁に醤油使うから、召喚能力をごまかす為にも存在するのはありがたい。
そして生活する上で大事なトイレ! 漏らしてばっかりだからいらないだろ? なんて意見は受け付けない! いつも漏らしているように見えるかも知れないけれど、何も無いときはキチンと神域のトイレで済ませてるよ!
そんなトイレは水洗だった。きちんとトイレットペーパーも存在しているし、ウォシュレット機能まで付いている優れものだった。排水は村の下水処理場へ流れたあと、スライムが分解処理してくれるとのこと。こういう汚物は肥料にしないのかと聞くと、鼻で笑われた。ちゃんとした肥料が安く買えるから、感染症の可能性もある汚物の利用は禁止されているんだと。
なんだかんだお手伝いと言うよりはこの世界の標準を学ぶ時間だったけれど、一通り家事を手伝った後、シャワーを浴びてきな、とシャワー室に放り込まれた。お風呂はというと、暖めるのに魔石が大量に必要なためお金持ちの道楽らしい。庶民は普段は家のシャワーで済ませ、たまに銭湯に行くくらいとのこと。お風呂を愛するボクとしては、お金持ちになって風呂付きの家に住みたいところ…… と思ったけれど、神域があるから別に家に付いてなくても良いのか。
シャワー自体は蛇口をひねるとホースを通ってシャワーヘッドからお湯が出るという、元の世界でありふれた仕組みだった。そしてシャワー室にはリンスインシャンプーやボディーソープも備え付けてあった。何故シャンプーとわかるかというと、元の世界と同じようなプラスチックらしき容器に、「リンスインシャンプー」とか「ボディーソープ」と大きく日本語で、その下によくわからない文字がつらつらと書かれていたからだ。
シャワーを浴び、置かれたタオルで体を拭いて用意してくれていた服…… 幼児向けのもこもこしたパンツとキャミソール、白いブラウスに紺のプリーツスカートで、まるで制服みたい…… に着替えた後、マーサさんに聞いてみると、大きな文字はブランド的なデザインで、その下の文字で「リンスインシャンプー」などと書かれているらしい。転移者や転生者が書くデザイン…… ボクにとっては文字だが…… と言うことで、本物の証らしい。
「そしてここがアンタの部屋ね」
とシャワー上がりに連れてこられた部屋は、ピンク色の壁紙にカーテンの部屋。そこにあるのは小さな物書き机に大きなタンス、かわいらしい羊のぬいぐるみが置かれたベッド。
「えーっと、ここは……」
「そうさ、娘の部屋だったところさ。亡くなってからそのままにしてたけど、気味が悪ければ改装しても良いよ」
「いえ、そういうわけでは…… そんな思い出の部屋に住ませてもらっても良いのかなと」
「いいんだよ、もうアタシの娘になったんだからね。それにそろそろ未練を断ち切って忘れないと」
ハハハ、と笑うマーサさんは、どこか無理しているようで。だからお節介かも知れないけれどアドバイスをしてあげることにする。
「未練を断ち切るのは良いですけど、忘れるのはダメですよ」
「えっ?」
「だって、マーサさんが忘れちゃたら誰が思い出してあげられるんですか。誰からも思い出されなくなったときが死ですよ? 思い出してくれる人がいる限り、その人の中で生き続けているんですから」
それを聞いたマーサさんは、そっか…… とつぶやき、部屋の中で座り込む。その肩は微妙に震えており、ボクはそっとしておいてあげようと一足先にリビングに戻ることにした。
「ごめんね、迷惑掛けちゃって」
数十分後、目を赤くしたマーサさんがリビングに戻ってきた。
「いえいえ、すっきりすることも大事ですから」
「ありがとね。なんだかユウの方が年上みたい」
「や、やだなぁ。ボクまだそんな年じゃないですよぅ」
ただ単に、前世に親を亡くしたときに経験したからアドバイスできただけで。確かに見た目よりは精神年齢高いけど、それだってマーサさんよりは若いよ?
それからは落ち着いたマーサさんと会話といった名目の情報収集を楽しんでいた。ボクは相づちを打つのがメインだったけれど、なかなか有意義な情報が手に入れられたと思う。この国の情勢とか。
なんやかんやで一時間くらい話していただろうか、玄関からコンコンとノックの音。はーい、とマーサさんが部屋から出ていく。そして数分後、レンドさんを連れて戻ってきた。
今月中には続きを上げたいところ
(ギルド長(1)のギルド長の反応は唐突だったので、少し加筆しておきました)




