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初めての振る舞い

 「さて、食事系の転移者とか言っていたな。どういうことができるんだ?」


 スーちゃんに体当たりされた鼻を押さえ、涙目になりながらも聞いてくるレンドさん。あのスーちゃんの突撃、結構痛かったんだ……


 さて、どこまで説明しようかと悩んでいると、レンドさんから助け船。


 「あぁ、知り合いから食事系の能力者は、傷が付かないという特質と、何か変わった食べ物を召喚できるらしいと聞いている。あぁそうだ、傷が付かないのは魔力のおかげらしいから魔力切れには気をつけろよ。それは置いておいて、どんな食べ物が召喚できるんだ?」


 どんなものが召喚できるのか、と聞かれたので、召喚できるものを答える。


 「うどん、という麺類が召喚できます。あとはトッピングとかです」


 「麺類!?」


 マーサさんが食い気な反応をしてきた。ちょっと。顔が近い!


 ついつい勢いに気圧されて椅子ごと後ろに下がってしまう。怯えていると勘違いされたのか、ごめんごめん! と慌てて謝られた。


 「いいですよ、ちょっと驚いてしまっただけですし。それよりマーサさんは麺類好きなんですか?」


 と聞いてみると、待ってました!とばかりに語り出すマーサさん。


 あまりに長かったので話を要約すると、新婚旅行で王都に行ったときに食べた、味噌を使ったシャッポロラーメンが忘れられないそうだ。麺は手に入らないのでご無沙汰だが、味噌なら最近手に入るようになったらしく、最近は味噌で作ったスープをご飯の上に掛けて食べているらしい。それはねこまんまや!


 ご飯や味噌があるという情報を偶然手に入れてしまった。味噌があるなら醤油もあるだろう。異世界ものだと味噌や醤油を目指して四苦八苦するなんて話は多いので、ここで味噌があると知れたのはありがたい。


 まぁまぁ、とおいしさを延々と語るマーサさんを止め、ラーメンの魅力はわかったので、同じ麺類のうどんも試してみますか? と聞くと、もちろん! と弾んだ返事。そこで、ボク、スーちゃん、マーサさん、レンドさんの4人分のかけうどんを召喚することにした。


 「サモン、かけうどん4つ。どんぶり入りで箸載せて!」


 机の上に現れる4つのかけうどん。湯気が上がり、いりこの芳醇な香りを鼻に届けてくれる。


 どうぞ、とうどんを配る。そこで気づく。スーちゃんはどんぶりを持ち上げて飲み込むから良いとして、他の二人は箸を使えるのだろうか、すするという食べ方はできるのだろうか、と。

 転移前の世界では、外国人は麺をすすれない、なんて話もあったくらいだし、この世界でもそうかもしれない。


 そう思って聞いてみると、こちらの世界では、転移者によってもたらされた米食文化とともに橋が広まったので、今やだいたいの人が箸を使えるらしい。また、ラーメンが最近の上流階級のブームらしく、上流階級の人は麺をすすることが出来るらしい。そしていかに音を立てて食べられるかが流行っているのだという。


 なんだか元の世界とは逆だな、なんて思いつつ、どうぞ、と進めるものの、誰も手を付けない。なにかダメな匂いでもするのかな? と焦っていたけれど、どうもこちらを見つめられている。その目にあるのは怒りや困惑では無く、興味で……


 そうか、これはお手本をみせてくれってことかな。


 そう思い、箸を手に取り、うどんをつかみあげ、一気にすすり込む! 


 うどんは飲むものだ、なんて言うけれど、ボク自身は軽く噛む。箸でつまんだ2、3本を勢いよく口へすすり込み、すべてが口に入ったところで2、3回咀嚼し飲み込む。それでも県外の知り合いの食べる速度よりは圧倒的に早く、一緒にうどん屋に行ったときには、それは飲んでると言っていいスピードだ、なんて言われらっけ。それはさておき。


 ボクが手本代わりに何回かすすり込むと、レンドさんとマーサさんはこわごわとすすり出す。ただ、さすがに飲み込むような食べ方では無く、噛む回数は多め。


 「ふむ、これがウドンとやらか。ずるずるっとした食感で、噛むと少し弾力があっておもしろいな。なかなかいける」


 「そうさな、そして出汁の香り…… 魚かな。これがまた良い香りだ」


 なかなか高評価な二人。スーちゃんもどんぶりを持ち上げて飲み込んでいる。そうだ、せっかくだし、二人には冷たいのも試してもらおう。


 サモン、冷やかけ2つ、どんぶり入り! と唱えて出した冷やかけを、こちらもどうぞ、と二人に勧める。


 「おぉ、こっちは麺が先ほどより固めになってるな。しかし、固いわけでは無く、より弾力が増したと言った感じかな。俺はこちらのほうが好きだな」


 「出汁が冷たいから、こっちの方が飲みやすいね。ただアタシとしては麺は暖かい方が好きだったかな」


 そんな評価。もう一杯試してみます? と聞いてみたけれど、今はもうお腹いっぱい、との返事。ふむ、マーサさんには今度あつひやを勧めてみようかな。


 「こんなに美味しいのだったら、朝を少なめにしておけば良かった」


 「アタシだって一緒だよ。来ると知っていたらそうしてた」


 悔しそうな目で空のどんぶりを見つめる二人。


 「これからまだまだ食べられますから!」


 そう慰めの言葉を掛けると、そうさね、とマーサさんの明るい声。しかしレンドさんの反応は無い。


 「レンドさん?」


 「いや、迷惑を掛けた上にご飯をたかるのはどうかと思ってな……」


 よどんだ顔で答えるレンドさん。確かにいろいろあったからあまり関わりたくは無いなと思うけれど、うどんを気に入ってくれたのは嬉しい。それにうれしそうな表情で食べてくれるから、今後も食べてもらいたくはある。


 「好きになってくれたのは嬉しいですから、食べる分を召喚するくらいはかまいませんよ」


 「え、いいのか? しかし迷惑を掛けるわけにはなぁ……」


 一瞬嬉しそうな顔をしたけれど、また悩むレンドさん。真面目すぎて面倒くさい。


 別にボクとしてはレンドさんに無理に食べてもらう必要も無いし、放っておいてもいいかな…… なんて思っていると、いいアイデアが思い浮かんだ。


 「じゃあレンドさん、こうしましょう。あまり詳しくはいえないんですけど、ボクはスキルのためにもうどんを広めたいんですよ。でも転移者とはバレたくない。なので、食べる代わりに良い方法を考えてくれませんか?」


 「わかった! 考えてくる! だから今日の夜も頼む!」


 レンドさん即答。負い目があって悩んでいたけれど、本当はよっぽど食べたかったんだな。


 レンドさんはいても経ってもいられない! といった様子で部屋を出て行った。これにはマーサさんと二人で苦笑い。


 マーサさんが片付けようとしてくれたので、大丈夫、と制止し、ごちそうさま、と唱える。するとすべてのどんぶりが消え、テーブルの上は綺麗に。これをみたマーサさんは、


 「便利な能力だねぇ……」


 とあきれた感じで呟いていた。

続きは27日朝予定

※散策(3)に、冷蔵庫内は時間は流れない、神域は人が居る場合は時間が流れ、居なければ流れない、という実験を追加しました。


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