ギルド長(4)
戻ってきたレンドさんは、見慣れた石を渡してくれた。おっかなびっくり、手を伸ばして受け取る。レンドさんは恐いが、レンドさんにとってはボクの横で怪しいことをしないかレンドさんをにらんでいるマーサさんのほうが数倍恐いだろう。そう考えると気が少し楽になる。この世界にきて5個目となるその石は、レモンのような透き通った黄色をしていた。
レンドさんの指示に従い腕輪にセットする。素人でも簡単に取り付けられるようになっているらしく、ほんの数十秒で取り付けることが出来た。
「それがアイテムボックスの石だ。アイテムボックスといっても、その腕輪とギルドに置かれている箱をつなぐ機能だ。つなげる距離とつなげておく時間によって消費魔力が大きく増えるから、たいていの人は拠点の街の支部に箱を置いておる。早速使ってみるといい。使い方は魔力を流すだけだ」
その言葉に従い、魔力を黄色の石に向かって流す。すると文字盤のところに、黒い円盤のようなものが浮かび上がった。
「それが出し入れ口になる。手を突っ込んでみな」
謎の円盤に触るのは恐いが、思い切って触れてみる。何の抵抗もなく、手が飲み込まれる。意を決して突っ込んでみると、文字盤のあるであろう部位を通り過ぎ、奥まで進んだ。肘まで入っているが、何も突き当たらない。ゆっくりと抜いてみる。腕、拳、指、と何事も無くこちらの世界に戻ってきた。
「何も無い空間ですね。」
「そうだ、だいたい縦横高さが2mってところかな。ギルドに厳重に保管されている個人用の箱で、外からは開けられないし、許可無く持ち出せないようになっている」
レンドさんが詳しく説明してくれる。ここにスライムを入れることて、中のものをスライムに取ってきてもらったり整理してもらうことができる。それをアイテムボックスと呼んでいるのだと。スライムなら魔力に含まれたイメージである程度の意思疎通が出来るし、食料や水がいらず魔力の補充だけでいいから維持も楽なのだそうだ。
「おまえさんの場合はすでにスライムを使役しているのだから、それを入れれば使えるぞ」
レンドさんはそう言うが、短いとはいえいままで一緒に旅をしてきた相棒を入れるのは気が引ける。肩でふらふら揺れているスーちゃんを見ると、何? といった感じで動きを止める。うん、こんなかわいい子を入れておくのはかわいそう。
「すみませんが、この子は入れたくないです。他に方法はありませんか?」
「うーむ、中は広いからスライムに頼むのが定番だからなぁ。新しく捕まえてくるとか」
ボクの返事に、うーむと悩み出したレンドさん。その様子を見つめるボクのほっぺがつんつんとつつかれる。
「なーに、スーちゃん?」
そう振り向くと、スーちゃんは任せて! といった感じでぴょんぴょん跳ね、肩から飛び降りテーブルの上へ。何をするのかと眺めていると、移動したスーちゃんは。突起をにょきっと2本つきだした。そしてテーブルにあった、リンゴを切ってくれたときのナイフを片方の突起で器用に持ち上げ……
「なっ!?」
もう片方の突起をずばっと切り落とした。
「何しているの、スーちゃん!」
その様子にボクは慌ててしまうが、スーちゃんは何事も無いようにゆらゆらしている。そして切り落とされた断片も、ちっちゃいスーちゃんみたいで、ぴょんぴょん元気にはねている。
しかし、マーサさんとレンドさんが静かだ。ナイフで自分を切って分裂なんて、よくあることなのかな、そちらをうかがうと、驚き顔で固まっていた。
「マーサさん、レンドさん……?」
「あぁ、すまんね。アタシとしたことが驚いちゃったよ」
先に戻ってきたのはマーサさん。あはは、と笑っている。
レンドさんはというと、
「スライムが道具を使うとは…… そんなことは聞いたことが無いぞ……」
などとぶつぶつ言っている。
「あの。レンドさん……?」
声を掛けてみるが、レンドさんは自分の世界から戻ってこない。困惑していると、いつの間に腕に乗っていたスーちゃんが、ぺちぺちと腕輪を叩いている。
アイテムボックスを開けと言うことかな? と開いてやると、先ほどのちっちゃいスライムが飛び込んでいった。手を入れてみると、箱の中からスライムが手を撫でてくれている。これからよろしく、といった挨拶だろうか。
スライムに魔力を流してあげて、手を引き抜き、アイテムボックスを閉じる。そして目線を腕から前に向けると、
「うわ!?」
レンドさんが真剣な表情でこちらを見つめていた。おもわず椅子ごと後ずさる。
「ユウ殿、そのスライムを分けてくれないだろうか。もちろん相応のお金は出す」
堅苦しい呼び方になっている。それだけ重要だと思っているのだろう。相応なお金というのはわからないけれど、この様子だろうと少なくはないだろうし。
今はマーサさんにお世話になっているとはいえ、お金はこの先必要になるかもだし、冷静に考えれば受けるのが正解だろう。でも今まで一緒にいたスーちゃんが、分身とはいえ他の人の手に渡るのはなんか嫌だ、と思ってしまう。
いやいや、先ほどの分裂はスーちゃんの意思だし、ここはスーちゃんの思うように行動して貰った方がいいかな、と思い直す。スーちゃんに丸投げというのは申し訳ないけれど、スーちゃんはボクの相棒であって従者ではないと思っているし、スーちゃんに任せるよ!
「スーちゃんが思うようにしてくれればいいよ」
と、こっちを向いているスーちゃんに話しかけると、それを聞いたスーちゃんは、レンドさんの方に近づいていく。うん、やっぱり気持ちよりお金だよね…… と少し悲しくなりながらも、スーちゃんの決断を受け入れることにする。
「おぉ、分けてくれるのか、ありがたい」
スーちゃんは、そう言って喜ぶレンドさんの鼻に突撃。そして反射の勢いでこちらまで飛んで戻ってきた。不意打ちだったからか、レンドさんが、ぐぇ!?なんて奇妙なうめき声を出している。
戻ってきたスーちゃんは、肩に登ってきて、そんなわけないでしょ、といった感じでボクのほっぺをぺちぺち二往復で叩く。そしてこちらを見つめるようにじっと待つこと数秒。ほっぺに近づいてすりすりしてきた。
他の人のところには行きたくないってことなの? と聞いてみると、すりすりの速度が速くなった。ボクと同じ気持ちだったのか。まったくボクをを喜ばせてくるスーちゃんはかわいい!
嬉しくなってスーちゃんを撫でていると、マーサさんの大きな笑い声が。
「はっはっは。スライムにまで嫌われてやんの。ユウちゃん、そのスライム…… スーちゃんって言うの? 大事にしてやりなよ」
もちろんです! と返事をすると、マーサさんはうんうんと頷いてくれた。
続きは15日の朝予定。やっとうどんを振る舞えます。




