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ギルド長(3)

 「すまなかった!」


 あのあマーサさんに誘導されて、ダイニングテーブルに三人で座ることになった。向かい側に腰掛けるレンドさんは恐いけれど、マーサさんが横に座ってくれていることで、落ち着いていることができる。


 皆が座るやいなや、頭を下げて謝ってきたレンドさんに、


 「で、謝るだけかい?」


 鋭い目つきで問うマーサさん。


 「いや、もちろん私に出来ることならなんでも」


 レンドさんは頭を下げたまま答える。


 「ならまずはアイテムボックスだね」

 

 そんなマーサさんの言葉に驚くことがあったのだろうか、レンドさんは頭をがばっと上げ慌てて反論し始めた。


 「そ、それは無理だ。あれは貴族や村長なんかのお偉いさんか、よっぽどのベテラン冒険者でないと貸し出せない」


 「アタシはギルド長が独断で渡せると風の噂で聞いたんだけどねぇ」


 「そりゃ貸し出せなくは無いが、届け出する必要があるから確かな身分がないことにはな。今日会ったばかりの他人にほいほい貸し出せるものでは無い」


 レンドさんはマーサさんの射貫くような視線に気圧され、たじたじになりながらも、ギルド長として不正は出来ないと反論をしている。


 しかし、この世界ではアイテムボックスは貸し出し式の貴重品なのか。とはいえ、ボクは神域をアイテムボックス代わりに使えるし、無理に借りる必要は無い。アイテムボックスがあった方がごまかしには便利かもしれないけれど、こんな一般人が気軽に持てるものでは無いし、見られると怪しまれかねないかも。


 そう考え、そんな貴重なものじゃなくても…… と断ろうとする。マーサさんはそれを察したのかボクの口に手を当てて、しゃべらないように制止してきた。


 むぐ、と声にならない音を上げてしまったが、マーサさんの条件を撤回させようとあれこれ言っているレンドさんは、焦っているのかこちらを気にすることは無かった。


 マーサさんに止められたこともあり、わざわざここで出しゃばってレンドさんを擁護しなくても良いかと思い直す。よく考えればレンドさんはボクを刺してきた加害者。指された被害者のボクがわざわざ助けてあげる義理も無いや。


 そういえばマーサさんはカーディガンをどこからともなく取り出していたけれど、つまりあれはアイテムボックスから取り出していたのかな。


 そんなことを黙ったまま考えているうちにも2人の話は進む。未だマーサさん優勢で話が進んでいるようだ。今もレンドさんを責め立てている。


 「へぇ~? あんな、ナイフ見るだけで怯えてしまうようなトラウマを与えておいて?」


 「そ、そう言われても規則だからな……」


 「村長の娘なら問題ないだろう?」


 「実の娘なら良いが、養子は無理なんだ。アイテムボックス目当てで養子になるヤツが多かったから、養子には与えられないように規則が変わってな」


 その返事に、マーサさんはにやりと笑う。


 「あら、何を勝手に養子だなんて決めつけているんだい? あの子は実子だよ」


 「実子!? いやいや、今さっき養子にならないかと言っていたじゃ無いか」


 「アタシは娘にならないかと言っただけだ。養子じゃなく戸籍上も実の娘にするつもりだよ」


 「しかし、それは改ざんに……」


 「それがどうしたんだい? かわいい娘を守るためさ。だいたい、これは行方不明だった娘が戻ってきたから、籍を復活させただけさ」


 娘は口止めのために行方不明扱いにされているからね、とマーサさんがぽつりと呟く。


 「それならまぁ…… いや、今その事実を知ったからには貸し出しは……」


 「あら、なんでもするんじゃ無かったのかい?」


 「しかし、バレると大変なことに……」


 「なに、アタシは娘が帰ってきただけ。そしてアンタはアタシの娘にアイテムボックスを与えるだけ。なに、国も記録残しているはずがないし、問題ないでしょ」


 記録が残っていたところで騒ぎ立てたら向こうの立場が悪くなるだけさ、と笑うマーサさん。それを見て、レンドさんはため息をつきつつ、


 「仕方ない、村長の娘ユウにアイテムボックスを貸し出そう。取りに行ってくる」


 そう言いつつ立ち上がろうとするレンドさんに、マーサさんは追い打ちを掛ける。


 「もちろん貸し出し料は永久無料にしてくれるよね?」


 「それはいくらなんでも。貸し出すだけで大幅譲歩なんだぞ」


 「譲歩ってなんだい、お詫びだろ? お詫びなら無料だろうが」


 「いやまぁ、お詫びではあるが……」


 あれやこれやと押し問答の末、後任に迷惑は掛けられないとのレンドさんの主張が認められ、ギルド長がレンドさんである限り無料にしてくれることになった。できる限りレンドさんにがんばってもらわねば……


 さあこれで話は終わったとばかりに立ち上がろうとしたレンドさんに、マーサさんからさらなる追い打ち。


 「次はそうだね。」


 「マーサ、いまのでも十分大きいと思うがこれ以上要求する気か?」


 「当然。女の子を殺そうとしたのはそんなものじゃ収まらないからね。だから最初にまずは、って言っただろう?」


 仕方ないな、とぼやきつつ受け入れるレンドさん。今度こそと立ち上がろうとするレンドさんにマーサさんがとどめ。


 「最後にもう一つ」


 「なんだよ、まだあるのかよ……」


 「この子……ユウを守ってやってくれ」


 真剣な目でレンドさんを見つめ、頭を下げるマーサさん。あわててボクもお辞儀をする。


 「あー…… わかってるさ。今度は失わせない。俺の名にかけてな」


 そう言い切るレンドさんは、ちょっと格好よく見えた…… そのあとにこっちへ向かってにこっとしたのには、ナイフを刺してきたときの顔が重なって見えて恐かったけど。


 ついつい椅子ごと後ろへ下がってしまうボクを見て、レンドさんは何ともいえない表情。だが元はレンドさんの自業自得なので助け船は出さない。


 そんなレンドさんにマーサさんは、


 「まずは打ち解けてもらえるよう頑張るんだね」


 と苦笑いで語りかけていた。





 レンドさんがギルドから戻ってくるのを待つ間、マーサさんとお茶をしながら過ごすことになった。そこでマーサさんに、


 「勝手に内容決めちゃってごめんね」


 と申し訳なさそうに謝られた。


 「いえ、ボクでは適切な対価がわかりませんし、マーサさんが適切だと思うものを伝えてくださったのなら良かったです」


 と返事。


 あ、でも、今後の生活費の賠償金をもらっておけば良かったかな。食事や寝泊まりにお金がいるし、なんて呟いたら、横に座っていたマーサさんに引っ張られ、抱きしめられる。

 胸に顔を押しつけられている状況。転移前ならドキドキが止まらなかっただろうが、なぜだか今は不思議と心地よく感じられた。マーサさんは抱きしめたまま話を続けている。


 「アタシの娘なんだから、そんなのは気にしなくて良いよ。家族なんだからウチで一緒にご飯を食べて、ウチで寝泊まりしてくれれば良いさ」


 あ、でもユウがウチで過ごすのがイヤなら、生活費くらい出してあげる、と言うマーサさん。不安なのだろう、抱きしめる力が弱くなっている。ボクは安心させてあげようと。家族だから一緒に過ごしたいな、と言って抱きしめ返す。


 残念ながらマーサさんの表情まではわからないけれど、よしよしと撫でてくれる背中の感触に、安堵の気持ちを感じるのだった。

続きは13日の夕方予定。


文字数の割に話数が多いので、あとで2話を1話にまとめるなどで話数を減らすかもしれません。

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