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ギルド長(2)

 来客のノックにマーサさんが部屋から出て行く。そして、はーい、とドアを開ける音。それに続いたのはそんな声。訪問者はレンドさんだったようだ。部屋のドアに耳を押し当て、玄関の様子をうかがうことにした。


 「っと、レンドか。なにしに来たんだい殺人鬼のおじさん」


 マーサさんの怒気の含まれた声と、レンドさんのうろたえた声がしている。


 「いや別に殺すつもりは無かったよ。現にあの子は死んでないだろ?」


 「体はね。でも精神は別だよ。アタシの持ってた果物ナイフですら怖がってる。精神的なダメージはかなりのものだろうね」

 

 「そ、それはすまん…… それならなおさらあの子に謝りたいな…… 会わせてもらえないか?」


 「ダメだ。いきなりナイフを突き刺すやつなんて恐くて仕方ないだろ?」


 「いや、ちょっと噂話が本当か確かめたかっただけなんだよ……」


 びしっと拒絶するマーサさんに対するレンドさんの返答は、声のトーンが低くて聞こえづらかった。なのでドアを開けてそーっとのぞき見る。


 玄関には土下座しているレンドさんと、こちらに背をむけて仁王立ちしているマーサさんがいた。こちらからは顔が見えないが、語気から察するに、かなり本気で怒っているようだ。


 「噂話!? そんな不確定な情報で女の子にナイフを突き立てたってのかい!?」


 激怒が最高点に達してそうなマーサさんに、腰が引け気味とはいえレンドさんが会話について行っている。


 「いやまぁそうだけど、信憑性は高かったからんだ。なんせ王都の同期が実際に見たって言うんだから」


 「なに、ユウちゃんのことをかい?」


 怒りをすっと抑えたのか小声になるマーサさん。大声だと聞こえてしまってはマズいと思ったのだろう。ドアを開けて聞き耳たてているので、ここからは小声でも聞こえるんだけれどね。外に聞こえないようにと言う配慮だろうか。それにあわせてレンドさんも小声になっている。


 「いや、別人だけど同じような境遇のやつの話だ」


 「同じような境遇? それってどういう…… いやちょっとまって、ここではマズいな。続きは応接室で話そうか」


 「ああ」


 聞き耳たてているのがバレるのは気まずい。そこで慌てて頭を引っ込め、ドアをそーっと閉める。


 ドアの向こうでは、パタパタと2人の足音が聞こえ、そして向かい側の部屋のドアが開く音、そしてドアが閉まり、カチャリと鍵の掛かる音が聞こえた。


 話の続きが気になり、ドアをそーっと開け、向かい側の部屋のドアに耳をひっつける。


 しかしドアは厚いのか、中の音は全然聞こえなかった。


 仕方ないので部屋に戻り、椅子に座って待つ。


 何を話しているのだろうか。レンドさんは転移者という事実を誰にも話さない、と言っていたけれど、本当に話さないのだろうか。今までの話の流れからすると話しそうな気がする。


 しかし、王都の同期の話かぁ。同じ境遇の奴ってのは、神様の言っていた王族にとらわれ捧げ物をくれなくなった転移者なのだろうか。その話を知っているのならレンドさんに聞きたいところだけれど、正直レンドさんと直接話すのは恐い。初対面の印象では恐くなさそうな人だったのに、いきなりあんな豹変するんだもん。


 もしレンドさんがしゃべってマーサさんにバレちゃったのなら、こっそり逃げなきゃかなぁ。それなら今のうちに逃げちゃえば良いのだろうか。でも、レンドさんがしゃべるかどうかわからないし。捕まるにしても、知らないボクに優しくしてくれたマーサさんにお別れの挨拶くらいはしたい。捕まったって逃げ出すチャンスくらいはあるだろう。途中で神界に逃げ込むのもいいかも。


 捕まったときの逃げ方をあーでもないこーでもない、と考えていると、話が終わったのだろうか、ドアをノックして、マーサさんとレンドさんが入ってきた。マーサさんの顔は暗く、レンドさんの頬は赤く腫れている。


 レンドさんに近づかれるのは恐いので椅子から飛び降りて後ずさり。


 マーサさんは後ずさりするボクを見て、ごめんなさい! と土下座。


 え、まって、なんでマーサさんが土下座するの!? なにも悪いことしてないよね!? それとも事実を知って捕まえなきゃってやつ!?


 顔から血の気が引くのが自分でもわかる。


 「ユウちゃんごめん! ユウちゃんが転移者ってことや、その体の秘密を知ってしまったの。ユウちゃんは必死で隠そうとしていたのに……」


 あぁ、レンドさん言っちゃったんだ。誰にも言わないって言っていたのにという淡い希望が崩れ落ちる音と、やっぱり言っちゃったんだ、という虚無感が襲ってくる。


 気づいたら力が入らなくて、床にへたりと座り込んでしまっていた。あぁ、やっぱり捕まっちゃうんだ。だからマーサさんがこんなに謝っているんだ……


 その様子に気づくことも無く、マーサさんは話を続ける。


 「だけどね、あたしはこの国のヤツらなんかにユウちゃんを渡したくないんだ」


 そこで言葉を句切り、ボクの方へ顔を上げる。険しい顔をしている。国に渡したくない、というのは嬉しいけれど、なにか辛い条件があるのだろうか……。


 「だから、あたしの娘になって欲しい!」


 ……はぇ? どういうこと? 


 ぽかーんとしていると、レンドさんの助け船。


 「娘と行っても戸籍上の娘って話だ。戸籍は本来なら生まれたときにしか取れないからな。捨て子とかそういう事例もあるから村長は戸籍を発行する権限も持っているんだが、村長は転移者を見つけたら国に報告する義務がある。そうすればすぐに国の支配下になって戸籍は発行されない。つまり本来なら転移者は戸籍を取れないってワケだ」


 「でもそれだったらマーサさんは……」


 「あんな国にユウちゃんを渡してたまるもんですか!」


 立ち上がり怒りをあらわにするマーサさん。またレンドさんの助け船。


 「マーサは夫と娘を国に奪われたに等しいからな」


 「えっ……」


 驚いて絶句。するとレンドさんが説明してくれた。


 「害獣退治は国が一個小隊を送ってくるような大事なんだけど、こっちを辺境の村だからと軽く見て、新人を数人しか送って来なかったんだ。しかも倒したとか言ってすぐに帰ったしな。証拠の品を頼んでもかたくなに拒否してたからおかしいと思ってたんだが、村の子どものための薬を探しに行ったときに出やがったんだよその害獣。本当は倒してなかったって訳だ。マーサの娘はその時に亡くなってな。夫は村長だったから国に文句を言いにいったけど骨になって帰ってきたよ。国と軍の争いに巻き込まれたらしいけど、そんなのはこっちにゃ関係ない」


 「まぁそんなわけで村長を引き継いだのは良いけれど、国に操を立てるつもりなんてさらさら無いのさ。それにこんなに娘に似た子を引き渡すつもりなんて無いよ。ああ、別にお母さんとか呼ばなくて良いからね。マーサさんって呼んでくれれば良い」


 ボクを見てにやりとするマーサさん。なんとなくだけれど、お母さんと呼んで欲しい、といった感じを語調から感じたので、


 「ありがとうございます。これからよろしくお願いします、お母さん!」


 と返事をしてあげる。それにマーサさんは一瞬ぽかーんとしたけれど、すぐに持ち直し、


 「あいよ! 任された!」


 と、にかっと笑いながら答えてくれた。


続きは鋭意執筆中。12日朝に更新予定

内容は決めているからアウトプットするだけなのですが、これが意外と時間がかかる…… できれば連日投稿したいところですが、なかなか大変ですね。一週間以内には投稿します。転移者ってバレたから、2人にはうどん食べさせたいですし。あと数話先にはなっちゃいますが……


話は変わりますが、評価pt上がるのすごく嬉しいですねコレ。評価ptで10ptとか上がってるの見ると、テンション上がって、「書くか!」って感じにしてくれます。

そして感想があったときも、感想書いてくださってありがとうございます……! ってなります。


そんなわけで、良いなーと思ったらブクマなり評価なりして頂けるととても嬉しいです。

 

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