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村(1)

 そういうわけで、木の陰に隠れてそーっと覗く。


 おっ、ほっかむりを被った恰幅の良いおばちゃんが集落の方から歩いてきた。畑に向かっていき、中でしゃがんで何かしている。草抜きかな?


 他の人はどうしているのかな~ ときょろきょろしていると、肩をたたかれる。もー、スーちゃん今村を見ているんだから待って…… と肩を覗くと、そこには人の手が。後ろからたたかれたらしい。


 何者!? と驚いて距離を取る。慌てて距離を取ったせいで村に背を向ける体制になっている。向こうからどう見られているか気になるけど仕方ない。


 そこにいたのは金髪の男だった。20歳くらいかな、チャラそうな雰囲気。そしてなんだか気持ち悪くなるようなニヤニヤ顔。


 「○×□~~」


 よくわからない言語で何かを言われ、肩をずむっと掴まれ、森の方に引っ張られる。


 わたた、とバランスを崩してしまったところを左手でギュッと抱きしめられる。ちょっとまって、左手がおしりを揉んでる! これってそういうことなの!? ボク、男とそんなことするつもりは無いよ!


 必死で首を振るも、手は止まってくれず、それどころかニヤニヤと気持ち悪い顔を近づけてくる。キスしようっての!? そんなのイヤだ!


 顔を横に背け、気持ち悪い顔から目をそらす。そして両手で相手の体を押し、がんばって押し離そうとするも、全然押し返せず離れてくれない。


 「誰か助けて……!」


 とか細い声を上げる。意味が伝わらなくてもいいから、誰かが気づいてくれたら……!


 その思いが通じたのか、背後から「○×△!!」と怒鳴り声が聞こえた。


 何を言っていたのか意味はわからないけれど、それを聞いた男はボクをドンと突き離し、森の中へと駆け出していった。


 助かった……! と安心すると同時に、生暖かいものがジョロジョロと……


 すかさずスーちゃんが掃除してくれる。うぅ…… いつもありがとうねぇ……


 そうこうしているうちに、、最初に見かけたほっかむりのおばちゃんが何事か言いながら駆け寄ってきてくれた。先ほどの声はこの人だったらしい。そしてボクの腰あたりが濡れているワンピースに何かを察したのか、そっと抱きしめてくれた。知らない人なはずなのに、なんだか安心する。あれ、なんだか目から涙が…… 


 抱きしめられたまま背中をぽんぽんと優しく叩かれ、うわーん! と声を出して泣いてしまうのだった……




 ぐすっ、ぐすっ…… と涙も落ち着いたところで、ありがとうございます……! と精一杯の笑顔でお礼。言葉が伝わらずとも、気持ちは伝わるはず!


 そんなボクに、良いってことよ!って感じで自分の胸を叩くおばちゃん。そして手を差し伸べてくれたので、ボクはそれに捕まって立ち上がる。


 無事立ち上がったボクを見て、腰あたりに染みができているのに気づいたらしく、一瞬驚きの表情をするおばちゃん。おばちゃんは服の背中に手を入れ、なにやらごそごそしてカーディガンを取り出し、肩からかけてくれた。長いので、軽く引っ掻けだけでちょうど染みは隠れた。


カーディガンで染みが隠れているのを見てか、うん、と頷く。そしておいで、といった感じにこちらを見て手招き。建物の方へ歩いて行くおばちゃん。


 折角の縁だし、お世話になろう。おばちゃんが悪人だったりしたら目も当てられないかもだけれど、助けてくれたわけだし、たぶん大丈夫。


 そう考えて、おばちゃんの後を追いかけることにした。


 


 おばちゃんは一軒の家の前で立ち止まり振り返った。振り返ったときは険しそうな顔をしていたが、ボクが付いてきてくれたことを見て安心したのかほっと笑顔に。


 ドアを開けて招いてくれる。さっと周りを見回すと、道を歩いていた人全員…… といっても3人しかいないけど…… が、驚いた顔をしてこちらを見ている。そんな顔で見られると、なにかまずかったかな、もしかしてお漏らしがばれちゃったのかな、とちょっと不安になる。そんな気持ちが顔に出ていたのか、驚いていた人たちが慌ててどうぞどうぞ、といった感じの仕草をする。その様子を見るに、このおばちゃんはこのあたりのお偉いさんなのかもしれない。


 おばちゃんのほうを改めてみると、困ったわね…… といった顔でこちらを見ている。


 ええい、お世話になるって決めたじゃないか!


 そう決意し、おばちゃんの元へ。おばちゃんはほっとした表情を見せて、家に迎え入れてくれた。


 玄関を抜け、案内されたところは大きなリビングっぽい部屋。この家では、屋内でも靴を履いたままらしく、靴のまま案内された。


 壁際においてある木の椅子の座面をぽんぽんと叩き、こちらを見る。つまり座って待ってなさい、といったところかな。


 うん、とうなずき、これ以上汚さないようにカーディガンを外し、椅子に座る。するとおばちゃんはにこっと笑って部屋を出て行った。


 待っている間に部屋を観察。窓ガラスに暖炉、壁に備え付けられた本棚にはいくつか本が並んでいる。部屋の真ん中には立派な木の机に革張りの椅子。部屋の隅には冷蔵庫っぽいデザインの金属の箱。天井には明るく光る円盤。なんだか外より涼しいな、と思ったら、窓の上にエアコンみたいな箱が付いており、そこから冷たい風が出てきているみたい。


 タブレットの説明通り、前の世界と変わらない感じの生活水準だな~。と思いながら待っていると、おばちゃんが戻ってきた。なにやら白い布とお湯の入った洗面器サイズの桶を持っている。部屋に入ってくるとまず桶を床に置き、白い布を渡された。これは…… タオルとパンツ?


 押しつけるやいなや部屋を出て行き、数分後、黄色い布を持って戻ってきた。


 目の前で広げて見せてくれたそれは、襟や裾にフリフリのついたワンピース。それを渡してきて、桶を指さし体を拭くフリをするおばちゃん。服を着るフリまでしたあと、にっこりと笑顔を向けて部屋を出て行った。


 リュックサックを床に下ろし、指図されたとおりに体を拭く。そして持ってきてもらったパンツを穿き、ワンピースを着る。


 着替え終わると部屋を出た。そこでおばちゃんは待ってくれており、ボクを見るなり、うん、うん! とうなずき、今度はちょいちょいと手招きをしてから家の外へ出て行く。


 おばちゃんのについて家を出て歩くこと数分。また別の建物の前で立ち止まる。そしておばちゃんはドアを開けてこちらを手招き。手招きされるがままに建物に入る。


 入ってみると何かのお店なのだろうか、広い空間には喫茶店みたいに椅子や机が置いてあり、奥にはカウンターがあった。カウンターでは50歳くらいに見えるおじさんが一人。


 おばちゃんがなにやら伝えると、おじさんは頷いてカウンター裏にあるドアの中へ。しばらく待っていると、手にブレスレットみたいな者を持って戻ってきた。


 「ほら、これだろ?」といいつつそれをおばちゃんに渡す。


 よくわからない言語と同時に、そういう日本語が聞こえてきた。


 受け取ったおばちゃんは「そうそう、ありがとう」と返事。こちらも先ほどまでのよくわからない言語のと同時に日本語が聞こえてくる。


 これはどういうことだと驚いていると、おばちゃんは、


 「これは冒険者の腕輪なんだけど、翻訳機能が付いているのよ」


 と言いながら、その腕輪を渡してくれた。


 戸惑いながらも受け取り、じっくりと観察。円盤とチェーンの組み合わせで、見た目は腕時計そのもの。文字盤の部分には針では無く、数字に当たる部分には、くぼみが12個。そのうちの一つには、ペンダントに付いていたような石が付いている。


 しげしげと眺めていると、おじさんが説明をしてくれる。


 「その腕輪を付けていると、意識しなくとも翻訳機能が使えるようになる。こちらがどんな言葉で話しても認識できるし、君がどんな言葉で話しても周りの人は理解できるようになる優れものだ」


 そんなすごい物を初対面の人に渡して大丈夫なのだろうか、と困惑していると、


 「それは冒険者ならみんな持っている物だから気にしなくていい。今回のはお試しで貸しただけだから、今後使い続けたいなら冒険者登録してもらう必要があるが」


 とのこと。


 どうしようか、と今までお世話してくれたおばちゃんを見ると、


 「冒険者登録して損は無いから、登録しておきなさい? 費用とかも気にしなくて良いわ」


 と笑顔で返される。


 「よし、じゃあ登録する前に軽く面談があるからおまえさんは付いてきてくれ」


 そういいつつ奥の部屋へと入っていくおじさん。まだ登録するとも何とも言ってないんですけど? 


 すっとおばちゃんの方を見ると、大丈夫よ、と言って背中を押される。


 この様子だと登録するしかなさそうだ。確かにあの腕輪の翻訳機能は欲しいし、ここはお言葉に甘えよう。


 ボクはおばちゃんに向かって「ありがとうございます」と一礼した後、おじさんの入った部屋へと入っていくのだった。


続きは7/7の朝9時ごろ予定


7/6 21:30 カーディガンをかけてあげる描写を追加

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