デストロイファームに学校をつくろう
朝食を済ませたあと、俺は早速行動を開始した。
「タケル様。何をしているんですか?」
「ああ、学校を開こうと思ってさ」
「それって、魔法学校ですか?」
「あー。あれは魔法について学ぶ場所かな」
「ん? じゃあタケル様の学校って、なんですか?」
「うーん。改めて聞かれると難しいんだけど……かっこいい大人になるための場所、かな」
「もみじも、かっこいい大人になりたいです!」
「ああ、もみじなら素敵な大人になれると思うぞ」
「えへへ、照れます」
もみじは頬を赤くしながら、それでも嬉しそうに尻尾を揺らした。
この世界で「学校」と言えば、大抵は魔法学校を指すらしい。魔法学校に進む以外の子供たちは、学校には通わず、身近な大人から常識を教わって育つ。ただ、仕事が忙しくてほったらかしの家庭もある。
マリーから聞いた話では、街の子供たちの多くは、まともに読み書きを教わる機会がないらしい。酒場を手伝うために数字だけは覚えたが、文字は食材など、酒場に関係するもの以外はほとんど読めないという。
元の世界での教員の経験が役に立つかもしれない。
「今日は教室を作ろうと思う! みんなで学ぶ部屋のことだな」
「タケル様。うちにはそんな広い部屋ありませんよ?」
「そうだな。だから、外に作るぞ」
「外、ですか?」
二人でファームの中を歩き回り、ちょうど良さそうなスペースを見つけた。一本の大きな木と、教室にちょうどいい広さの空き地。ただし、腰くらいの高さまで雑草が生い茂っている。
「よし、今日は草取りだ!」
「鬼火で燃やしたほうが早くないですか?」
「ファームが本当にデンジャラスになっちまうだろ」
俺は苦笑しながら首を振った。
「それに、こういうのは、ちまちまやってくのが楽しいと思うんだよな」
「タケル様との思い出、ですね!」
もみじが嬉しそうに笑って、さっそく雑草に手をかける。
「よーし、こっちの列は俺がやるから、もみじはそっちを頼む」
「はい! 負けませんよ!」
どちらが多く抜けるか、なんて張り合いながらの作業は、思った以上に骨が折れた。土に根を張った雑草は、見た目より頑固で、何度も尻もちをつく羽目になる。
途中で小さな虫が飛び出すたびに、もみじがびくりと肩を跳ねさせた。
「ひ、ひゃい……大丈夫、です……」
震える声で、目を瞑りながら続けている。以前のように悲鳴を上げて逃げ出さないあたり、少しは成長したのかもしれなかった。
「無理してないか?」
「し、してません! これくらい、平気です!」
強がる声とは裏腹に、尻尾の毛が心なしか逆立っている。それでも根を詰めて手を動かし続けるもみじを見て、俺はそれ以上何も言わないことにした。
途中、休憩がてら水を飲みながら、もみじがぽつりと呟く。
「タケル様の生徒、いつかたくさん来てくれるといいですね」
「そうだな。まあ、マリーだけかもしれないけどな」
「もみじもですよ。そうしたらマリーさんと私で、ふたり占めですね!」
「そうだな。それもいいのかもな」
太陽が傾き始める頃には、空き地はすっかり見違えるほど綺麗になっていた。
「よし、仕上げだ」
俺は、街で買った材料を組み合わせて作った黒板を、木の幹に立てかけた。はっきり言って綺麗ではないが、それでも自分の手で作ったものには、それなりの愛着が湧く。
「もみじ、ちょっと座って」
「はい!」
黒板の前に立つ俺の正面で、もみじがちょこんと座り、こちらを見上げてくる。
胸に込み上げてくるものがある。教え子たちと過ごしていた日々を思い出す。
「もみじ、ありがとうな」
「タケル様の学校、楽しみです!」
まだ、教室を作っただけだ。この世界の常識も、俺はまだ十分に分かっていない。教える中身だって、これから手探りで決めていくことになるだろう。
それでも、俺にできることをしていきたい。
夕暮れの光に照らされた空き地と、隣で無邪気に笑うもみじの顔を見て、俺はそう思った。
明日から、マリーが算数を学びに来る。
俺も勉強しよう。時間はこれからたくさんあるんだ。
そう考えると、不思議とわくわくしてくる自分がいた。




