私は聖女ではありませんわ!
屋敷での夕食後、ローゼリアは深いため息をつく。
「それで、最高級のパンは、ヒロインとやらに召し上がっていただけたのですか」
エンデは全て悟ったかのように語り掛ける。
「召し上がってはいただけたのですが、それどころではなくなってしまったのよ……」
さらに深いため息をつくと、ローゼリアはテーブルに項垂れる。エンデは呆れたような表情をして、ローゼリアの肩にショールをかける。
「そもそも、ヒロインとやらはローゼリア様がおっしゃる悪役令嬢と何の関係があるのですか」
エンデが軽く投げかけると、ローゼリアは勢いよく飛び起きた。
「エンデ、ようやく私の話に興味を持ってくれたのね……!」
エンデの両手を握ると、エンデは恥ずかしそうに顔を背けた。
「別に、興味がなかったわけでは」
「いえ、あなたはいつも呆れ顔で私に興味なさそうにしていたわ」
ローゼリアは唇を曲げ、拗ねた様子を見せる。
「はぁ……はいはい、興味を持ちましたのでご説明をお願いいたします」
「仕方ないわね、教えて差し上げますわ」
ローゼリアは立ち上がり、雄弁に語り始めた。
「この世界はいわゆる乙女ゲームの世界なの。主人公のヒロインと様々な美青年たちとの恋物語を描く作品よ。そしてその相手役の代表格は王子。王子にはもちろん婚約者がいて、ヒロインの恋敵となる」
「それが悪役令嬢ってやつですね」
「ええ。あなた、呑み込みが早いわね」
「ローゼリア様、以前から思っていたのですが、ヒロインに悪いことをするから悪役なのであって、悪いことをしないご令嬢は、ただの恋敵なのでは」
冷静な突込みに、ローゼリアは固まった。
口を開けたままエンデを見つめる。
(た、確かにそうかもしれない……!)
ローゼリアは頭を抱え、俯く。そういえば、アイレリアにも聖女と言われた。
「ね、ねぇエンデ。あなたが思う聖女とはどんな人だと思う?」
「はぁ、そうですね……まず万物に優しく、文武両道。庶民出身の聖女も稀にはいますが、大体は格式ある貴族であることが多いですね。あっ、ローゼリア様が目指しているのは聖女様なのですか」
「違ーう!私は、私は悪役令嬢になりたいのですわ」
「……ならば、そのヒロインとやらに悪役として立ち塞がってみては」
「そんな悪いことをする令嬢は私の理想とは反しましてよ」
「はぁ……じゃ、ヒロインとやらをまずはラスティ様と出会わせるのはいかがですか。恋仲となる予定なのでしょう?」
ローゼリアはエンデの一言にハッとした。
「確かにその通りだわ!」
(ヒロインと攻略対象者の邂逅……楽しみですわ……!)
目を輝かせるローゼリアに、エンデはまたため息をつき「本当懲りないお方だ……」と頭を痛めた。




