きましたわきましたわきましたわきましたわ!
「うおおおお……こ、この輝くパンは何ですか……」
翌日、ローゼリアは学園に山のように積まれた黄金に輝くパンをシェフに用意させた。ローゼリアが両手を叩くと廊下に待機していた使用人たちが教室へやってきて、大量のパンを置いて去って行った。
「わが!アレクシュタイン家の総力を結集して作らせた最高級のパンですわ!さぁ、思う存分お召し上がりなさいませ!」
ローゼリアが高笑いをするよりも先にアイレリアはパンを口いっぱいに頬張っていた。
「あ、あなた……本当にたくさんお召し上がりになられるのね」
「はひ。うちはびんぼうなうちへ、ひょうふぁいもおおくへ」
「きちんと召し上がってからお話になって」
「はひ……」
アイレリアは急いでパンを飲み込むとまずはローゼリアに一礼した。
「家は下町でパン屋を営んでいるんですが、兄弟も多くて、あまり満足に食べられなかったんです……学園から入学のお誘いがきたときは、ただでご飯が食べられると思って、それだけで入学を決めてしまったんです」
「そしたら、食堂のご飯も購買も有料、しかも貴族価格だった、と」
「はい、昨日は入学したテンションでつい、親に持たされたお金を全て購買のパンにつぎ込んでしまって……だから、本当にローゼリア様には感謝しています。ありがとうございます」
アイレリアが頭を下げると、ポニーテールが勢いよくしなった。細く、棒切れのよう手足、色艶のない肌。ローゼリアは同情を感じつつも、その感情を切り捨てた。
「はぁ……全く、計画がなってなさすぎますわ。貴族の中に庶民が混じるのがどんなに大変なことかわかりまして?」
「確かにそうなんですが……私が学園に入れば、家の食い扶持の減るかな、って思って……」
そう言って照れ笑いをするアイレリアを見ると、ローゼリアは雷に打たれたような衝撃を受けた。
「あなた、朝夕はちゃんと食べていて」
「あっ、はい。寮は一応食事が出るので」
「あ、学園が長期休暇になると皆さま実家に帰るらしいので、自炊になるそうですが」
「我が家にご招待いたしますわ!奇しくも我が家は学園の敷地近くにありましてよ。我が家で朝食を食べて、我が家で昼食を食べて、我が家で夕食を食べるがよろしいわ!」
怒っているような口調になり、ローゼリアはつい突然口を噤む。
すると、アイレリアは突然笑い出した。
「ははっ、ローゼリア様、面白すぎます!本当に公爵令嬢なんですか?
「んんっ、私は生まれも育ちも公爵家ですわ。疑いようのな事実です」
「はぁ……こんな人が王妃様になったら、庶民も幸せな生活がおくれるようになるのかな……」
そう呟くと、アイレリアはローゼリアの手をそっと取った。
「なっ、何ですの」
「すべての光よ、かの者に」
アイレリアがそう小さく唱えると、小さな光が二人の手を包む。
温かく懐かしいその光に包まれている間は、心が静かに落ち着いた。
「こ、これは」
「今日のパンのお礼です。私、なんか珍しい光魔法の使い手らしくて、でも、まだちゃんと魔法としては使えなくて」
照れながら苦笑いするアイレリアを見て、ローゼリアは茫然と立ち尽くす。
「光、魔法……」
(きましたわきましたわきましたわきましたわヒロインの王道特殊能力光属性……!なんとまぁこの方は私の期待を裏切らないのでしょう……!)
「あ、あなたはやはりヒロ……」
「だから、明日からは毎日肉体労働でお返しいたしますね!」
アイレリアは貧弱な腕をまくると、その体に見合わない立派な筋肉を見せつけた。
「え、あの、別に、その……」
対価が欲しいわけではなく、ただ、理想の悪役令嬢としての格を見せつけたかっただけなのだが、アイレリアには通用しなかったようだ。
「それにしてもこんなにお優しいなんて、やはりローゼリア様は聖女様なのですね」
「へっ?」
(聖女……?私が?)
「そ、それはあなたではなくって……?光属性なんて、め、珍しくてよ」
「いえ、ローゼリア様は間違いなく私の理想の聖女様です!上流貴族の令嬢でありながら文武両道。お姿も麗しく、私のようなものにもお優しい。しかも第一王子の婚約者様!これ以上ないくらい聖女様だわ!」
(えっ、それって私の理想の悪役令嬢ではなくって……?)
「あれ、ローゼリア様……?ローゼリア様!?」
ローゼリアは口から泡を吹き、倒れこんだ。




