おもしれー女に最高級のパンを食べさせますわ!
「お嬢様、何をしておられるのですか」
「見てわからないかしら、最高級の小麦粉と、最高級のバターを選ぶためにカタログを見て吟味している最中でしてよ」
「はぁ……今度は一体何があったんですか、学園ですか?」
ローゼリアはよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに身を乗り出す。
「聞いてエンデ!ヒロインが現れたのよ!庶民、地味、そして何よりおもしれー女、ですわ!私、あの方とお知り合いになりたくてよ」
「おもしれー女……?何ですかその下品な言葉は」
エンデが苦虫をかみつぶしたような表情をすると、ローゼリアは恥ずかしそうに「こほん」と咳をした。
「あなたが知る必要のない単語ですわ。聞き流してくださいませ」
アイレリアはローゼリアの思い描く理想のヒロインだった。
おそらく庶民出身、茶褐色の瞳を持ち、茶髪でポニーテールを結っている。よくいる下町の娘の容貌そのもの。そして何よりおもしれー女……。
(前世の私みたいですわ……)
ローゼリアは目を閉じ、前世の自分を思い浮かべる。アイレリアの天真爛漫な言動、ふるまい、容姿……それは、前世で思い描いていた理想の乙女ゲームの主人公そのものだった。
普通のオタク女子だった前世では、寝ても明けても好きなキャラとの妄想に明け暮れ、乙女ゲームの主人公に自己投影しては、おもしれー女という単語に夢見る日々を送っていた。
(まぁ、私は現世では貴族なのでおもしれー女は卒業してしまいましたが)
「そうだわ、王室御用達のお店に連絡いたしましょう!そうすれば最高のパンが出来るはずだわ」
「それで、そのヒロイン?とやらがローゼリア様に最高のパンを作るよう命令したのですか」
「そんなわけないわ!彼女に最高のパンをお腹いっぱい食べさせたくて私が勝手にしていましてよ!」
「それは、最高である必要はあるのですか」
「当たり前よ、理想の悪役令嬢になるためには些細なことも妥協は許されないわ。私は最高のパンを作り、ヒロインはそれを食べて感激し、私に尊敬のまなざしを向ける……ああ、今から楽しみですわ」
恍惚の笑みを浮かべるローゼリアに、エンデは冷めた表情を向ける。ローゼリアはカタログを閉じるとシェフの元へ駆けて行った。




