食いしん坊なのはいいことですわ!
ローゼリアがエンデと出会ったのは、ローゼリアが6歳の時だった。
突然父親であるアレクシュタイン公爵がローゼリアより一つ年上のエンデを連れ帰り、この子を我が家で預かる、と言ったとき、ローゼリアは癇癪を起こした。
「この家を継ぐのはローゼリアじゃなかったの!」
大事なぬいぐるみを投げ捨て、ベッドに潜り込む。久々に帰ってきた父親からいきなり同じ年頃の男児と暮らせと言われても、すぐ納得できるほど大人ではなかった。
「……大丈夫?」
透き通る声に、ローゼリアは布団から顔を覗かせる。
その瞬間、ローゼリアの心は七色に輝き、時を止めた。
この国では珍しい艶のある黒髪に、大きな蒼玉のような瞳。まるでローゼリアが大切にしている人形のような美しさだった。
「あなたは……?」
「僕はエンデ。これからあなたの執事としてお仕えする者です」
「執事……?養子じゃなくて?」
「執事です。ローゼリア様のお側仕えとして明日から働かせていただきます」
エンデはそういうと、柔らかな笑みを向ける。ローゼリアは反射的に癇癪を起こした自分を恥ずかしく思った。
「これからよろしくお願いいたします」
差出された手を恐る恐る取り、小さく会釈すると、エンデはローゼリアの涙をハンカチで拭った。
(あれ、この後、私、エンデに何か言ったような……)
昼食を食べ終わると、ローゼリアは教室で一人、思いに耽っていた。
(いつか、エンデも婚約者が出来る時がくるのかしら……というか、エンデはなぜ使用人なのに学園に通っているのかしら、やはり、私を見張るために……!?)
エンデの高笑いを想像し、身を震わせていると、教室の外が騒がしくなっていることに気が付いた。
「こら、そこの令嬢!購買のパンを買い占めおって!」
「だって購買のパンなんてご令嬢たちは買わないでしょう!?だったら私が買い占めても問題はないわ!」
「だからと言って買占めは良くありませんぞ!」
「仕方ないわ!食いしん坊に育てた私の両親を恨むのね!」
ローゼリアには想像もつかないやり取りに、血の気が引いていく。すると、その怒声は教室の中へ入ってきた。
「ローゼリア様、匿ってください!」
そう言ってアイレリアはローゼリアの後ろに隠れる。その両腕には大量のパンが抱えられていた。
「こらパン泥棒!」
「私の御前で何事ですの!」
ローゼリアは購買の店主の前に立ち塞がり、騒々しい空気を切り裂いた。
「あ、貴方は確か…ロ、ローゼリア様……」
「そう、私は公爵令嬢ローゼリア・アレクシュタイン。第一王子、ラスティ様の婚約者でしてよ!」
普段は王子の威光を借りることなどはないのだが、そんなこだわりを考えている余裕もなかった。
「私の教室に何か用がありまして?」
「あっ、いえ、失礼いたしました!」
ローゼリアの毅然とした態度に、購買の老父は慌てて出て行った。
「ふぇ~……ありがとうございますぅ……」
「あなた、まさか本当に泥棒ではないのでしょうね」
「まさか!働かざる者食うべからず!等価交換してまいりました!」
(この方は一体何をおっしゃっているのかしら……)
初めて出会う人種に、ローゼリアは目を泳がせた。
「私、燃費が悪くって……このくらい食べないとお腹がすいちゃうんです。でも、毎日こんなに買ってたらお金がもったいないですね。さすが貴族の通う学園の購買部……パンすらもロイヤリティ溢れてますわ」
ローゼリアには理解のできない世界ではあったが、哀愁漂うアイレリアの姿に庇護欲が搔き立てられた。
「ならば、明日から我が家自慢のシェフが作ったパンを大量に持ってこさせましょう。もちろんお代はいりませ……」
「んー!このパンめっちゃ美味しーい!さすがロイヤリティー!バターがケチられてない!こんなパン食べたことないんだけど」
ローゼリアは、明日、必ずアイレリアをうならせるパンを作らせよう。そう思ったのだった




