王子?いえ、それは私の執事ですわ!
休憩時間になると、ローゼリアは横目でアイレリアの様子を伺う。しかし、自分を取り巻くご令嬢たちを無視することは出来なかった。
「ローゼリア様はラスティさまの婚約者ですわよね」
「ラスティ様って、普段はどんなご様子なのでしょうか」
令嬢たちはローゼリアと言うより、婚約者のラスティが気になるようだ。
(あなたたちにも婚約者がいるでしょうに……それでも王子という存在に夢を見てしまう。その気持ちはわかりましてよ……)
そう納得するものの、早くラスティの話題を止め、アイレリアに話しかけたいと体が疼く。
「お嬢様、クラスには慣れましたでしょうか」
聞きなれた声が聞こえた。教室の外に視線を向けると、そこにはエンデが立っていた。
「エンデ!どうしてここに」
「公爵閣下から、お嬢様の様子を報告するよう仰せつかっておりますので」
エンデは突然現れた上級生に驚くクラスメイトをかき分け、ずかずかとローゼリアの元へ歩いてくると、耳元で小さく囁いた。
「それで、お嬢様の言う”ヒロイン”とやらは見つかったのですか」
あまりの距離の近さに体が飛び跳ねる。思わず椅子ごと激しく後退りし、後ろに転げた。
「お嬢様、この姿はさすがに悪役云々の前に、ご令嬢としてどうかと思いますが」
「あああああなたが耳元で囁くからでしょう!いいから早く自分の教室にお戻りなさい!」
ローゼリアが入口を指差すと、エンデはつまらなさそうにため息をついて教室から出て行った。
すると、ご令嬢たちはそわそわしながらローゼリアに群がる。
「ローゼリア様、つかぬ事をお伺いいたしますが……エンデ様とはどういったご関係で……?」
まるで麗しの王子様を見るかのようなうっとりした目つきで話しかけられ、ローゼリアは首を傾げた。
「エンデ……?家の使用人ですわよ」
「えっ!使用人!?」
「確か、ラスティ様のご親友ですわよね」
ご令嬢たちの騒めきの元がエンデであることに、ローゼリアは今一つピンとこなかった。
「エンデがラスティ様のご親友……?エンデはただの私の執事ですので、その関係でラスティ様に仲良くしていただいているのではなくって?」
そういうと、ご令嬢たちは腑に落ちない、といった表情で顔を見合わせていたが、公爵令嬢であるローゼリアのいうことは否定できず、会話を続けた。
「でも、エンデ様も素敵よね。艶のある黒髪、海のような青い瞳、この国では見たことのない美しさですわ」
「なんでも、隣国の尊い身分の方なのでは?という噂もあるとか」
「あら、あなた方はエンデ様派なのですか?私はやっぱりラスティ様ですわ。金髪碧眼、The王家の血筋と言った感じで本当に素敵……あっ、申し訳ございません、婚約者のローゼリア様の前でこのような軽薄な言葉を」
「……いえ、身内を褒められるのは僥倖ですわ」
エンデとラスティ、自分を取り巻く男性二人がご令嬢たちに人気である現実に、ローゼリアは思考が止まってしまった。
(ラスティ様はわかっていましたが、まさか、エンデまで……)
ローゼリアは妙な胸騒ぎが止まらなかった。




