私はあなたの所有物じゃありませんわ!
(ラスティ様か、エンデかなんてどう選べばよろしいのかしらね……)
ローゼリアはあの日から物思いにふける日が増えて行った。
エンデに声をかけられても、窓から空を眺め、ぼんやりしていた。
(というか、私が選ぶ立場だなんておこがましすぎますわ。私はただの悪役令嬢だというのに……)
ずっと理想の悪役令嬢を求めて研鑽を積んできた。
勉学、武芸、魔術、全てにおいてかなりのレベルなはずだ。
では、次に何をすればいい?何をすれば理想の悪役令嬢になれる……?
「お嬢様、失礼いたします」
朝の用意をもって、エンデが部屋に入ってくる。
ローゼリアは当たり前のように椅子に座ると、髪をエンデに任せる。
(……というか、王子様にこんなことをさせていてよろしいのかしら?)
「なんですかお嬢様」
「……いえ、あなたは王子なのに、執事として働かせていてよろしいのかしらと思って……」
珍しくしおらしい様子のローゼリアに、エンデは吹き出し笑いをする。
「な、何かおかしくって!?」
「いえ……お嬢様がそんなことを真剣に考えているとは思わなかったので」
嬉しそうに笑うエンデに、ローゼリアはふくれっ面で仁王立ちする。
「王籍を出たとはいえ、一応、私より上の立場なのですから、こんなことしなくてもよろしいのに」
ローゼリアはエンデから櫛を奪うと、自分で髪を解き始める。
しかしローゼリアの癖毛は櫛に絡まり、毛玉が出来てしまった。
「全くもう……私が致しますので返してください」
ローゼリアの手をさりげなく触るようして櫛を奪うと、エンデは優しい手つきで髪を解き始める。
(一体……どこでこんな技を覚えてきたのでしょう!)
「……恥ずかしいわ、私」
「何故ですか」
「あなたがいないと髪の毛すら解くこともできないのね……」
落ち込み、顔を伏せるローゼリアに、エンデは綺麗な花柄のリボンを結ぶと耳元で囁いた。
「……そのままでいていただけると助かります。私なしでは生きていけないなんて、最高の愛の言葉ですから」
(……何を言っているの、この男……)
斜めを見上げると、不気味なほど満面の笑みを浮かべるエンデと目が合う。
(この男を選ぶのは危険なのではないかしら……!?)
「……あなた、もし私がこのままラスティ様と結婚いたします、と言ったら、誘拐するとかなんとか言っておりましたわよね……」
「ええ、まぁ……でも、そんなことをしたらアレクシュタイン家も混乱いたしますし、現実的ではありませんかね」
「そ、そうよね!……で、それでね、もし、私がラスティ様を選んだらあなたはどうするの?私以外の方と結婚して、アレクシュタイン家を継ぐのでしょう?」
「……そう、なってしまうかもしれませんね」
まるで、考えたくないと言わんばかりの暗い表情に、ローゼリアは少し困惑した。
「そしたら……あなたと会うこともなくなってしまいますね」
「いえ、もしそうなったらお嬢様の執事として王宮に出仕いたしますけど」
(心配して損しましたわーーー!)
エンデは綺麗にリボンで結われたローゼリアの髪を一房手に取ると、口元へ運んだ。
「お嬢様、私がお嬢様の執事として働き続けているのは、こうしてお嬢様のそばに居続けられる理由になるからなのですよ。ご存じでしたか?」
「えっ……あっ、あ……」
(この男、ラスティ様の初心なところを煎じて飲ませたいですわー!)
学園へ向かうと、校門が見えてきたところで着の陰に隠れて様子を伺う。
(よし、今日はラスティ様がいらっしゃいませんわね……!)
小さく拳を握ると、校門をくぐる。
するとそこには白馬に乗ったラスティが待ち構えていた。
「おはようローゼリア!」
「ラ、ラスティ様……この馬はどうなさいましたの……」
ラスティは白馬から降りると、子供のように無邪気な表情を浮かべ、ローゼリアに話しかける。
「エルディム-ンだ!小さい頃から育てている。もう老馬になってしまったが、私の愛馬なんだ」
「あの、そうではなくて……何故馬を学園に連れてこられたのかと……」
「この間の逢引が成功しただろう?だから、リシリュー宰相が出している恋愛指南書を読んでみたんだ。そしたら、まずは自己開示が大事だと書いてあった!だから、私の大切な愛馬を知ってほしくて連れてきた。家族の次に大事な馬だ」
(リシリュー様、ご婚約に浮かれて恋愛指南書なんて出されましたのー!?)
ローゼリアは頭を抱え、一旦考えた。
「ラ、ラスティ様、もう少し、時と場所を考えた方がよろしいかもしれません……」
「何だ、ローゼリアは馬があまり好きではないのか」
「いえ、そういうわけでは……」
「なら乗ってみるか!」
「あ、いえ……是非後で……エルディムーンもこのような人が多い場で困惑しているでしょうし」
「エルディムーンは老馬だからもう何事にも動じないんだ。だから大丈夫だぞ」
「だからこんなところで迷惑だと言っているんですよ、ラスティ様」
ローゼリアに突っかかるラスティを馬に乗せると、エンデはローゼリアの身を抱えた。
「エンデ!お前は関係ないだろう。私はローゼリアに話しかけているんだぞ」
「そのお嬢様が困っているから助け船を出させていただいたのです」
「……困っている……?本当か、ローゼリア」
(そんな子犬のような顔をされては困りますわラスティ様)
「あ、いや、その……」
「はぁ……はっきり物が言えないなら、私にお任せください」
いつものように深いため息をつくと、エンデはローゼリアの腰を所有物のように強く捕まえる。
(……何故でしょう、何だか腹が立ちますわ……)
「……その物言いはないんではなくって?エンデ」
「は?」
「ラスティ様だって悪気があってこんなことをしているわけではありませんわ。それに、私、あなたがいなくても生きていけますわ!」
ローゼリアは馬に乗ると、ラスティの背中にしがみつく。
「お嬢様!?」
「エンデ、私少しばかりラスティ様とお散歩して参ります。あなたは授業をしっかり受けて、私たちの後を追ってこないように」
エンデにきつく言い渡すと、ラスティは手綱を引いた。
するとエルディムーンはのそのそ……とゆっくり歩きだした。
(これじゃロバと変わらないじゃありませんかー!)
明日は定休日です
1話に追加で少し足しました。




