あなた、絶対に勝つおつもりですわね……
(……私が理想の悪役令嬢を目指すのに、たくさん周りの方を巻き込んでしまいましたわね……)
「はぁ……」
部屋のバルコニーに出ると、月夜を眺め、手すりにもたれかかる。
「お嬢様、いくらお屋敷の中といえども、そのような夜着で、外に肌をさらすのはいかがなものでしょうか」
後から自分が来ている上着をローゼリアの肩にかけると、エンデは隣に並んだ。
「エンデ……私って、自己中心的だったかしら……」
「え、まぁ……」
「まぁ!?」
「だってそうでしょう。悪役令嬢なんてよくもわからない概念で行動するし、その概念とやらを広めようとするし、私がお嬢様を思っていることにもお気づきになっておられませんでしたし……」
(最後のは自己中心的とは違いませんこと?)
「私、正直、ラスティ様のことをただの舞台装置としか思っていなかったのよ。……失礼だったわ。この世界はゲームの中ではないのに」
「ゲーム……?」
「あ、いえ、お気になさらず!……とにかく、ラスティ様に対して失礼だったわ!まさかラスティ様が私を思ってくださっていたなんて知らなかったのよ」
「ラスティは不器用ですからね」
「エンデは知ってましたの?」
「ええまぁ……ラスティを見ていて、お嬢様をずっと目で追っているのに気づきました」
(私には軽蔑の目を向けているようにしか見えておりませんでしたわ……)
「でも、まぁ、こうしてラスティも自覚したし、お嬢様にもラスティの思いを知っていただいたので、ようやく私も全力でラスティと戦えます」
「戦う……?」
「ええ、お嬢様争奪戦、ですかね」
「え……」
不気味に笑うエンデに、ローゼリアは血の気が引いた。
「……剣でも交えるおつもりですの……?」
「いえ、剣だったら私が勝ってしまいます。ラスティは運動音痴ですから」
(確かに……剣を持っているラスティ様の姿を見たことがありませんわ……)
「では、何をするおつもり?」
「……お嬢様、覚えていらっしゃいますか、理想の悪役令嬢5箇条その4、婚約者に対する愛情が深いこと」
「あ……」
(最近思いだした、忘れていた条文ですわ……)
「お嬢様、ラスティと一緒にお出かけされたことは?」
「ありませんわ」
「舞踏会などの場所以外でお茶を嗜んだりして、会話を楽しまれたことは?」
「ありませんわ」
「お嬢様からラスティを何かにお誘いしたことは_?」
「ありませんわ」
「でしょうね」
(この男……全部知っていて聞いてきましたわね……!)
エンデは手すりに肘をつくと、ローゼリアの頬に手を添え、優しく微笑む。
夜風がエンデの黒髪をさらった。
「……私はお嬢様の全てを知っています。朝が弱くてしょぼしょぼになる寝顔も、好きな紅茶がミルクティーなことも、コルセットをきつくしめるドレスがお嫌いなことも……理想の悪役令嬢を目指して、自分を厳しく律して、研鑽を積んでいることも」
エンデの指先がローゼリアの薄い肌を撫でる。
「ですが、それではフェアではないでしょう。ラスティはお嬢様のことを知らない。それに、理想の今夜機破棄イベントとやらを起こすには、お嬢様がラスティに婚約破棄をされたら落ち込んでしまうほど、ラスティに愛情を注がなければならない。……でしょう?」
ローゼリアはそんなエンデの手から逃げるように顔を背ける。
「あなたはそれでよろしくって?いわば相手に塩を送ることになりますのよ」
「おや、それではまるで、私に勝ってほしいみたいな言い分ですね」
「そんなことありませんわ!ただ……あなたとラスティ様は従兄弟で親友でしょう?……私のせいで仲違いするのは嫌なのよ……」
(私のせいで二人が仲違いをするのであれば……私は、理想の悪役令嬢を諦め……)
胸を押さえ、エンデがかけた上着の端を握る。
するとエンデはローゼリアの手を温めるように手を重ねた。
「安心してください。例えどちらかがお嬢様と結ばれることになろうとも、俺たちの仲が悪くなることはありませんよ。まぁ、多少喧嘩はするでしょうがね」
月を背負い、困ったように破顔するエンデに、ローゼリアは胸の鼓動が早くなる。
(エンデってこんなに可愛いんですの……!?)
「とにかく、少しラスティと向き合ってください。これは恋敵ではなく、従兄弟のエンディミオンとしてのお願いです。私の方からもラスティに頑張るように言ってみますので。……ただ、私も手加減はしませんよ。全力で二人の邪魔をして見せますから」
(前言撤回ですわ。なんて恐ろしいのこの男)
「……まぁ、ちょっと、ラスティ様にお声がけしてみますわ」
「どうぞよろしくお願いいたします」
エンデは気味悪く微笑むと、ローゼリアの頬に軽く口づけた。
「な、ななななな」
ローゼリアは後退りし、バルコニーの手すりにぶつかりそうになるとエンデが腰を抱える。
「楽しみですね、お嬢様」




