婚約破棄イベントのための王子……って可哀そうすぎません!?
「ラスティ様、そのお手紙は今手元にありますか!?」
「え、あ、ああ……」
ラスティは胸元に手を入れると、サイディリアの封印がなされた手紙を取り出す。
その手紙を奪い取ると、急いで中身を確認する。
”親愛なる私の従弟、ラスティへ……”
久しぶりだね、元気にしているかい
そういえばこの間、君の国にひっそり潜入したんだが気付いてくれたかな?
そうそう、エンディミオンが愛しのご令嬢を連れて国に帰ってきてくれたんだよ
父上と母上にも挨拶を済ませたぞ!二人ともエンディミオンに想い人が出来て喜んでいた!
ところで、ローゼリア嬢は君の婚約者だと聞いたが、本当なのか?
本当なら、婚約を破棄して欲しい。頼む。婚約破棄してくれないと私がエンディミオンに嫌われてしまう。
(勝手に婚約破棄のイベントを進めないで下さいますかー!?)
ローゼリアは青ざめながら、手紙を引き裂いてしまいたい衝動を必死に抑えた。
「……君がどうしても婚約破棄をしたいのであれば……いや、でも、その……」
「あ、あの……」
(この手紙の九割がでたらめだなんてこの雰囲気で言い出せませんわー!)
「そんなくだらない手紙に振り回されて、ようやくご自身の思いに気付いたのか、ラスティ」
噴水に揺らめく人影が徐々に大きくなっていく。
「エンデ……!」
「エンディミオン……!」
エンデは呆れ顔をしながらこちらへ歩いてくると、ラスティを押しのけ、ローゼリアとの間に座った。
(ため口……!?でも従兄弟なのだから、当たり前、なのですわよね……)
「全く……考えなしでお嬢様を振り回すとは……お嬢様、ラスティに何もされませんでしたか」
「失礼な。何もしていない。……というか、何をしたらいいかわからない」
悩むラスティの姿に、エンデは腕組みをし、呆れたように眺める。
「さっきの話、少し聞いたけど。……俺もお嬢様も大切だとか、お前は舐めているのか」
「!そんなおかしなことじゃないだろう、私はお前もローゼリアも大切で……」
「俺は、お嬢様かお前か選べと言われたら、俺は間違いなくお嬢様を選ぶ。というか、そんな覚悟もない奴にお嬢様を渡すわけにはいかない。お前はどうなんだ」
(ちょっと……エンデ、言い過ぎですわよ……!そんなあからさまなカマかけしなくても……)
焦るローゼリアをよそに、ラスティは真面目に深く考え込む。
ローゼリアはそんなラスティを呆れ顔で見守るエンデを見た。
(……こんな厳しいことを言ってますけど、こういう顔の時のエンデは、別に怒っているわけではないんですよね……)
そんなエンデの袖を摘まみ、引っ張ると、エンデはラスティから顔を逸らさずにローゼリアの手を握った。
「で、どうなんだ。お前はお嬢様を本気で幸せにする気はあるのか」
「……すまない、今はまだ……答えが出せない」
子供のようにしょんぼりするラスティの姿に、エンデも諦めた様子でローゼリアを見る。
「ラ、ラスティ、そんなに落ち込まないでくださいませ」
「……いいんだ、ローゼリア。ただ……本当に私が君を愛していることは、どうか信じて欲しい……」
「ラスティ様……」
顔が近づく二人をエンデが両手で引き裂き、突き放す。
「別にラスティがお嬢様のことを好きなのは否定しないよ。知っていたからな」
「エンディミオン……」
「というか、お前にはまだお嬢様の婚約者でいてもらわねばならない」
「え?」
「ね、お嬢様」
満面の笑みを浮かべるエンデの顔に、ローゼリアは一瞬首を傾げた。
「あ……ああああああ!!!」
(婚約破棄イベントをさせるためにラスティ様をこのまま泳がせようとしてますのこの男……!鬼ですわ……!)
エンデの恐ろしい思考に(いやでも婚約破棄イベントをしたいといったのは私ですからね……というか、そもそも婚約破棄をするのにふさわしい相手としてラスティ様を選んだのですし)と、自分が非道なことをしていることに、今更ながらに気付いたローゼリアなのであった。
ラスティが小さな唸り声を上げながら居室へ戻っていくと、エンデは空を見上げて一息ついた。
「お嬢様申し訳ございません、色々と巻き込んでしまい」
「いえ、もとはと言えば、私が理想の悪役令嬢には理想の婚約者が必要だと、ラスティ様に婚約を申し込んだのが悪いのよ……」
「別にお嬢様が望まなくても最初から決まっていたのですよ」
「でも、エンデは私の婿としてこの家に来たのでしょう?」
「そんなわけないじゃないですか。お嬢様は一人娘ですから、アレクシュタイン家を継ぐための要因としてきたのですよ
(……そうでしたわ、エンデもサイディリアの王子でした……まさか嘘だとは)
「まぁ、アレクシュタイン公爵は私がお嬢様に好意があることを知っていて、私が婿に入ってもいいなどと冗談を言っていたりもしましたが」
(もうどれが嘘で冗談かわかりませんわ)
「……もし、私がラスティ様と結婚すると言ったら、あなた、どうするおつもりだったの」
「そしたら……お嬢様が本当にラスティ様を好いているのであれば頑張って祝福いたしますが、もしかしたら、サイディリアへ誘拐してしまったかもしれません」
冗談めかして笑うエンデに、ローゼリアは顔を赤らめた。
エンデはローゼリアの耳元で囁く。
「是非ともお嬢様の満足する婚約破棄イベントを計画いたしましょうね」




