まさか……その髪色は……!
翌日、正装に身を包むと、鏡に映る自分の姿に首を傾げた。
(サイディリア王国に行ってから少し日に焼けた気がしますわ……なんであの国の方々はあんなに色白なのでしょうか……?)
白粉に隠れたそばかすに深いため息をつくと、扉をノックする音に返事をする。
「お嬢様、ご用意は……」
エンデは部屋に一歩立ち入ると、ローゼリアの姿に言葉を失う。
いつも身に着けている派手なドレスではなく、白を基調とした繊細で清楚な出で立ちが珍しかったのだろう。
「もう準備出来ておりますわよ。……って、あら、エンデも」
エンデもいつも正装をするときに来ている騎士服ではなく、金の細やかな刺繍が施された、白を基調とした装いをしており、ローゼリアは目を輝かせた。
「まぁ……あなたの髪に映えますわね。素敵よ」
「あまり見ないでください。……お嬢様の方がお美しいです」
(サイディリアから帰ってきてから、幼い表情を見せることが多くなりましたわね、エンデ)
「にしても、こんな服を送って寄こすなんて……本当余計なことをする兄です」
「リーゼルト様に他意はないのよ。私としては、リーゼルト様の婚約者となられる方が見てみたいですわ」
「……兄上の婚約者、ねぇ……」
「リンデール様あたりなのでしょうか」
「いや……あの二人は合わせてはなりません。……リンデールは……アランジール兄様辺りがちょうどいいのではないでしょうかね……」
呆れた会話を続けながらも、エンデは無意識にローゼリアの髪に結われたリボンの開きを直す。
(格好は王子様でも、執事としての行動が身についてしまっているのね)
*****
「緊張しますわね……」
「お嬢様はあまりラスティ様に会いに行ったりしていませんでしたしね」
「ええ……ラスティ様も私に興味がなさそうでしたし、まぁ、そこがよろしかったのですが」
「そこがよろしかった?……ああ、あの悪役令嬢の掟のようなものですか?」
「そうですわ、私に興味を持たない、高位の貴族の婚約者であることが私の理想の悪役令嬢の条件でしたので」
「では、私は元王子ですが、条件には当てはまりませんね」
「え、もう王子ではないからですか?」
「いえ、私は最初からお嬢様に執心しておりましたので、当てはまらないかと」
(本当……サイディリアに行ってからますます強気ですわね……)
エンデが圧をかけるように微笑むと、ローゼリアは深いため息をつき、王宮の門をくぐる。
中に待機していた使用人に案内され、王の居室へと案内される。
「謁見の間ではありませんのね」
「まぁ、内容が内容ですから……」
あっけらかんとしているエンデに唇を曲げると、ローゼリアは俯きながらしょんぼりとする。
するとエンデはローゼリアに手を差し伸べ、穏やかに微笑みかける。
その手に引かれて居室まで行くと、扉の前でさっと手を離した。
「ローゼリア・アレクシュタイン公爵令嬢及び、エンディミオン・サイディリア改め、エンディミオン・アレクシュタインが参りました」
エンデが名乗ると、中から小さな声で「どうぞ」と聞こえ、使用人が扉を開ける。
「失礼いたします」
エンデが頭を深々と下げるのと同時に、ローゼリアも頭を深く下げる。
「中へお入りなさい」
上品な声が聞こえると、ローゼリアは顔を上げる。
そこには、ラスティによく似た美しい金髪の凛々しい殿方と、薄青い髪色の穏やかな雰囲気の女性が座っていた。
「国王陛下、王妃陛下、お久しぶりでございます。アレクシュタイン公爵家の一女、ローゼリアが参りました」
カーテンシーをいつもより丁寧に行うと、国王陛下は手を振り「そんな堅苦しい挨拶はよい」と二人を呼び寄せ、椅子に座らせた。
「この手紙はもう読んだのだったか」
国王はラスティが持っていた手紙を差し出す。
「ええ……この刻印は……」
「君には馴染み深いだろう。サイディリア王家の刻印だ」
「はい……この度は私の兄が大変失礼いたしました」
エンデがしおらしく頭を下げると、国王は余裕を含ませ、軽く笑う。
「君は、サイディリア王家の子ではないような性格をしているようだな」
国王のその言葉に、ローゼリアはすぐさま反応する。
「国王陛下、大変申し訳ございませんがそのお言葉は!」
「ああ、違う、違うんだ。勘違いさせてしまったな。申し訳ない。そういう意味じゃないんだ」
(そういう意味じゃないってどういうことですの!エンデはご家族に複雑な思いを持っているというのに)
ローゼリアが怒りを見せると、国王は王妃と顔を見合わせ、笑いあう。
「ローゼリア嬢、私を見て、何かお気づきになりませんか?」
王妃が子供をあやすようにそう聞くと、ローゼリアは怒りを忘れて首を傾げた。
(王妃様を見て……?どういうこと?特に変わりないと思うのですけれども……)
「お嬢様、髪の色をご覧ください」
「髪の色……?綺麗な薄青色ですが……」
「何かを思い出しませんか」
「うーん、レーゼンベルク王国には珍しい髪色ですけれども……あっ」
(もしかして……サイディリア王家の髪色……!?)




