本当、はた迷惑な家族ですわ
「あ、悪役令嬢~~~?なんだその邪悪な二つ名は」
「悪役令嬢……つまり、最強の令嬢ということですわ」
「何で僕がお前みたいな知らない令嬢に叩かれなきゃいけないんだ!」
「お嬢様をお前などという輩は私が許しませんよ」
ローゼリアの背後でエンデが目を光らせると、アランジールは更に顔色を青くした。
「とにかく、ぐちゃぐちゃ御託を並べていないで、まずは立ち上がりなさい」
「何でお前の言うことを聞かなきゃならないんだ」
「アランジールお兄様」
「……はい」
アランジールが立ち上がると、ローゼリアは体を覆う敷布を取り去り、動揺するアランジールの手を取り部屋の外へ連れて行く。
「うわああ何をするんだやめろ!」
「こんな場所に引きこもっているからこんな捻くれた考え方をするようになってしまうのです。まずは外にでましょう」
「嫌だ!僕は外に出たくない!外は怖い!誰にも会いたくない!」
暴れるアランジールの腰をエンデが蹴ると、アランジールの体が部屋の外に投げ出され、ローゼリアの手から離れた。
「あ……あ……あああああ……」
誰もいない廊下に嗚咽が木霊する。
アランジールは何度も頭を左右に振り、辺りを確認した。
「……あれ、誰もいない」
「当たり前でしょう。使用人も家臣もいなくなってしまったのですから」
「それもそうか。……でも広い所は嫌だあああああ怖いいいいいい明るいし誰かに会ってしまうかもしれない怖すぎるうわあああ」
(はぁ……困りましたわね。もう部屋の中に戻してしまいましょうか)
ローゼリアがため息をつくと、アンベルは床にしがみつくアランジールに近づき、耳元で囁いた。
「今なら城のありとあらゆるところを調べ放題ですよ」
その言葉に、アランジールの耳が立つ。
「よし、行こう」
(……どういうことですの……?)
ローゼリアが首を傾げていると、アンベルは一人で先に進むアランジールを放置してローゼリアに微笑む。
「アランジール様は建築に興味がおありなのです。しかし現在は設計図を眺め、ミニチュアを作るにとどまっています。本当は自分の目で見て、触ってみたいと思っているはずです」
目を輝かせて壁を触り、窓から城下を眺めるアランジールの姿に、ローゼリアは肩を下した。
「お嬢様、私共は仕方がないので父上たちの様子を見に行きますよ」
「見に行く?助けるではなくて?」
「叔父上は助けなければならないかもしれませんが、父上たちはおそらく……無事、だと思われるので」
エンデは顔を背けると、小ばかにしたように鼻で噴出した。
地下牢に行き、ハンドレット公爵を解放する。手首にかけられた手錠は近くに鍵が落とされていたため、どうやら公爵は一人で手錠を外したらしい。それに牢の鍵も鍵穴に刺さったままになっていた。
「逃げようと思えば逃げられたのだが……家臣たちの怒りを受け止め、反省するために、一人、ここで瞑想をしていたのだ」
と公爵はしみじみ語るが、エンデは「迷惑なのでそういうのは騒ぎにならないように一人でやってください」と正論を述べた。
次にアランジールの首根っこを掴んで引きずりながら王の寝室に向かうと、中から甘ったるい恋人のような睦言が聞こえてきて一斉に足を止める。
「リリアンヌ、少し頭が痛くなってきたよ」
「あら大変ですわね。薬をご用意いたしましょうか」
「いや、熱がある気がするんだ。熱を測ってくれないか。君の額で」
「あらまぁ。今日も甘えん坊さんですね」
ローゼリアは恐る恐るエンデを見上げると、エンデの顔からは血の気が引いていた。
リーゼルトは魔法で扉に打ち付けられた板を吹き飛ばすと、扉を開け、飛び入る。
「父上!母上!恋人ごっこをしている場合ではありませんよ!」
「……!リーゼルト!お前何故ここに。うるさいから外遊に出すようにお前を唆すよう家臣たちに命令しておいたのだが」
「うるさい!?私は優秀なので外遊をしていたにすぎませんよ!」
「あの……私とお嬢様に迷惑をかけた方々は黙ってもらえませんかね……」
エンデが怒りの様相で仁王立ちすると、リーゼルト及び国王はすぐさまその場で正座した。
リーゼルトの足がしびれて動けなくなるほどまでエンデの説教は続き、ローゼリアはアンベルに誘われ、王の寝室のテーブルでお茶をいただいていた。
どうやら国王は兵の反乱には気づいていたようだが、それよりも王妃との生活を邪魔されたくないという思いから放っておいたとのこと。食事は窓から動物を操る技を使って運ばせていたらしい。
(本当……はた迷惑な家族ですわ……)
紅茶を口に入れると、怒り狂っているエンデの姿を眺める。
(あんなに怒りを露わにする姿は初めて見ますわ……やはり、家族相手だと自然に感情を発露できるのかしら)
「……エンディミオン様は変わられましたね」
「え」
「以前はあまり感情を表に出されない、静かなお子でした。口数も少なく、リーゼルト様に生気と言語力を吸い取られて生まれてきたなどと言われていました。リーゼルト様はあの通り、黙って座っていることが出来ないお子でしたから」
「そうなのですか」
(まぁ、あのように賑やかなお兄様と引きこもりのお兄様がいらっしゃったら黙っていても過ごせそうですしね)
「……ローゼリア様、誠に感謝いたします」
「え、どうしましたの」
「エンディミオン様があのようにお健やかにお育ちになられたのは、間違いなくあなた様のおかげでございます。……どうか、エンディミオン様をよろしくお願いいたします」
「いいですか!?次にこのような騒動を起こしましたら俺は二度とこんな国に戻りませんからね!」
「やめろエンディミオン!リリアンヌが悲しむ!」
「そもそも俺はもうアレクシュタイン家の養子です!この国の王子ではありませんので!」
「そんな……エンディミオン……そんなことを言われたら私は……」
「おいエンディミオン!リリアンヌが倒れてしまったではないか!」
「知りませんよ!母上は風邪一つひかぬ、国一番の健康体で有名ではありませんか!放っておきなさい!」
(……エンデ、一人称が俺になっていましてよ)
騒がしいやり取りをする家族+αに呆れながらも、普段見慣れないエンデの姿に、ローゼリアは満足してスコーンを一口齧った。




