またの名を……悪役令嬢ですわ!
「この方が……アランジール様……!?」
アランジールは口をもぐもぐ動かしながら、慌てて敷布を体に巻き付ける。
透き通るような白い肌はローゼリアよりも美しかったが、病的に見えた。
食べ物のかすが部屋の隅に山盛りになっている。
「全く……兵も家臣も使用人もいなくなって……何で僕が部屋の外に出なくちゃいけないんだ」
「アランジール、お前、部屋の外で何が起こっているのか知らないのか」
「よくはわからないが、父上の寝室の方から金づちで壁を叩く音が聞こえた。それに、叔父上の叫び声がおそらく下の階から聞こえた。おそらく父上は閉じ込められて、叔父上は捕まったのか?」
(この方耳良すぎじゃありません事……?)
「よく音だけで状況が把握できますね」
「ずっと部屋に引きこもっているとな、音で部屋の外の状況を把握しないといけなくなるんだ」
「でも食料は?厨房から取ってこられたものですよね、ご自身で取ってこられたのですか?」
「ああ。誰も食事を運んでこなくなったから、背に腹は代えられず、屋根裏を伝って厨房の屋根裏まで移動した。真夜中だったから誰にも会わなかった」
当たり前のように奇妙な生活を暴露するアランジールに、驚きよりも呆れてしまった。
(この方、引きこもることへの執着が凄すぎますわ……)
「アランジール兄様。私どもはあなたが謀反を起こした、と聞いているのですが」
「謀反?なんだそれは。僕はただずっと引きこもっていただけだぞ。というかお前は誰だ?」
「はぁ……九年前に王宮を出たエンディミオンでございます。あなたの弟です」
「エンディ……ミオン……エンディミオン……ああああ!わが弟エンディミオン!!!僕が知らぬ間にいなくなったエンディミオンか!!!」
エンデを指差し、震えて叫び声をあげると、アンベルは再びアランジールの口にスコーンを押し込んだ。
「エンデ……」
実の兄に忘れられていたエンデを気遣うようにローゼリアが心配げに見つめると、エンデは冷たい目をしてアランジールを見つめていた。
「しかし、密偵がアランジール様を謀反を引き継いだ人物と伝えてきたのは気がかりですね」
「おそらく、王は相変わらず部屋に籠り切り、ハンドレット公爵もどこかに捕らえられている。そんな中唯一普通の生活を城内で行っているアランジール様が何か企んでいると思ったのでしょう。最近雇ったばかりの者なので、アランジール様の習性についてまだ知らないのです」
「僕はただ部屋にいただけだ」
悪気がない様子でアランジールがすっとぼけると、一同黙ってしまった。
「そんなことだろうと思って、こうしてリーゼルト様とエンディミオン様を連れてきてみたのです」
「お前、何故父上と叔父上が閉じ込められていると知っていて助けようとしなかった!」
「なぜこの僕が父上と叔父上を助けなければならないんだ!小さい頃からリーゼルトリーゼルトと……そしてエンディミオンがいなくなればエンディミオンではなく引きこもり王子を他国に追い出せばよかったと言われ……そんな親族を何故助けなければならない!いい気味だ!」
敷布をきつく巻きつけながら、アランジールは高笑いする。
するとそんなアランジールの前につかつかと足を進める人物がいた。
「な、何だお前は……」
ローゼリアはアランジールの前に立つと、怯える彼をじっと冷徹な目で見つめ、素早く平手でその白い頬を打った。
「痛あああああ!!」
「いい年をして見苦しいですわよ!!!!!」
ローゼリアの割れた声が部屋を轟かす。
アランジールは怯え、涙目になりながら震え始めた。
「あなたエンデよりも年上なのでしょう?なのに部屋に引きこもり、食べた物も片付けず、親や親族の窮地に気付く頭がありながらもいい気味だと笑うその根性!王子としてあるまじき醜悪さですわ!」
「な、何なんだ君は……」
「私はレーゼンベルク王国アレクシュタイン公爵令嬢、ローゼリア・アレクシュタイン。またの名を、悪役令嬢ですわ!!!」
(……決まりましたわ……あれ、でもこれって悪役令嬢って名乗ってよろしいのかしら……?)




