第二王子アランジール様……ちょっと謎過ぎませんか!?
町はずれの喫茶店に入ると、二階の個室に通される。
秘密の話し合いの場にしては窓もあり、テーブルの上にはアフタヌーンティーのセットが並ぶ。
リーゼルト、リンデール、アンベルは当たり前のように茶会を楽しみ、エンデとローゼリアは茫然としていた。
(な、なんでこんな状況で優雅にされてらっしゃるのかしら……)
「……ところで、エンディミオン様は何故こんな状況に戻ってこられたのですか?」
「はっ……?国の危機だと聞き、リンデール嬢に帰国を迫られたからですが」
「リーゼルト様が国外逃亡をしているこの状況で?」
「兄上はただの外遊だと……」
「そうだぞアンベル。私は国がこんなひどい状況だと知らずにただ外遊に出たのだ。逃亡じゃない!」
頬を膨らませ、リーゼルトは紅茶を一口飲むと満面の笑みを浮かべた。
「やはり紅茶はサイディリアが一番だな」
「……リーゼルト様、あなたは今反王政派に見つかったら真っ先に抹殺されますよ」
「えっ!?なんで私が殺されなければならないんだ、答えろアンベル!」
「あなたが第一王子だからです。それに、国王に一番似ていらっしゃる。私は国王の教育係も務めておりましたが、幼少期からリーゼルト様に顔も言動もそっくりでございます」
アンベルはスコーンを一口齧ると、淡々と述べる。
その様子を見て、リーゼルトは慌ててスコーンを何個も口に入れ、アンベルに頭を叩かれた。
「……、アンベル様は、この国の正確な状況をご存じなのですか」
「アンベル、で構いませんよ。ローゼリア様。ええ、内部に潜伏している者がおりますので」
「潜伏……?」
「今は表向き、城内での勤めを辞めたことになっておりますが、私はその裏で、城下の動きを探る密偵として密命を受けていたのです。そのため、城内にも王の密命を受けた密偵がおりまして、謀反が起こった後、その者から情報を得ていたのです」
リーゼルトのカップに紅茶を注ぐ姿は、普通の上級執事でしかなかったが、ふと手元にあるカップに視線を落とすと、紅茶はまるで一口も口をつけていないように、熱々のまま満杯に注がれていた。
(な、何者なんですのこの方……!)
「で、お前が得ている正確な情報とはなんだ」
「リーゼルト様たちはどのような情報をご存じですか」
「父上が母上に構ってほしくて仮病を使い寝込んでいるふりをして、その代わりに叔父上が執政した結果、厳しすぎて兵士が叔父上を捕らえて、父上を閉じ込めていると」
アンベルはスコーンで汚れたリーゼルトの口元をナプキンでふき取ると、耳元で囁いた。
「その通りでございます」
その吐息にリーゼルトは驚き椅子から転げ落ちた。
「正確には、話の前半部としては、ですが」
(……前半部……?)
「最初はただの愚かな謀反でした。兵たちも本気で王に歯向かうつもりはありませんでした。ちょっとハンドレット公爵に怒りをぶつけたかっただけ……しかし、それに乗じて本物の謀反を企てた者がいたのです」
「……誰だ、それは」
リーゼルトが真剣に問うと、アンベルは紅茶にミルクを足し、スプーンでかき混ぜる。
「アランジール第二王子様……リーゼルト様の弟君、そして、エンディミオン様の兄君でございます」
(エンデのお兄様……!?)
「アランジールが!?何故あいつが」
「さぁ……真意のほどはわかりませんが、アランジール様は昔から繊細なお方……何かご両親に思う所があったのかもしれません」
たくらむように笑うと、アンベルはリーゼルトを見る。
珍しく真剣な表情をして、リーゼルトは俯く。
「アランジール……って、誰でしたっけ」
エンデの爆弾発言に、皆一斉に視線を向ける。
「お前……!兄上のことを忘れたのか!」
「いや、一応存在は知っていますが、あの人、ほとんど引きこもっていましたし、それに私は8歳で国を出たので、兄上よりもアランジール兄様の記憶などないに等しいです」
「何!?もう一度言ってくれ!リーゼルト兄様と!」
「あなたのことは兄様などと呼んでおりません」
(……確かに、エンデが我が家に来たのは幼い頃……もしアランジール様が引きこもりだとしたら、記憶にないのも頷けますわ)
「……というか、引きこもるような方が……謀反を企てたのですか?」
ローゼリアの一言に、一斉に騒ぎが止む。
「確かに。アランジールは大人しい奴だぞ。食事も部屋に運ばせるくらい部屋から出ない」
「家臣たちにも王子として認識されていないので、廊下をアランジール様が歩いていても、誰も気づいていないこともございます」
「なんならしばらく城からいなくてもだれも気づいていないぞ」
(……それって、逆にどうなんですの……)
アランジールの正体がつかめず、ローゼリアは理解することを放棄した。




