この執事、只者ではありませんわー!?
「……で、城には真正面から入れないわけですよね。どういう算段だったのですか」
「わからん!考えていなかった」
「リーゼルト様ってば、いつもお考えがないんですから」
(この方々についてきてよろしかったのかしら……)
首都の外れの山道に降りると、街並みを眺め、リーゼルトはたくらみを含んだ笑みを浮かべる。
ローゼリアは呆れ顔でエンデを見上げると、エンデはローゼリア以上に苛立ちを隠した表情をしていた。
「それで、これからどこに行くんですか」
「街中に、以前城内で働いていた使用人が住んでいる。そこを訪ねてみる」
「訪ねてみる?ちゃんと事前に話は通しているのですよね」
「アポはとっていない!まぁ何とかなるだろう!」
リーゼルトが高笑いすると、森の住人たちは一斉に空へ羽ばたき、エンデは顔を青くする。
「はぁ……こんなところで話していても話が進みませんわ。とりあえず、その方の家に向かいましょう」
ローゼリアは先陣を切って街中へ降りる。
その横にエンデが並ぶと、リーゼルトは仁王立ちして二人を見つめる。
「リンデール嬢、あまりにも分が悪い勝負ではないか?」
「あら、私まだ諦めておりませんでしてよ」
ほほほ、とリンデールが軽く笑い声をあげて歩き出すと、リーゼルトは眉を下げてリンデールの背を追った。
「すごい賑わいですわね……城内で謀反が起こっている国なのでしょうか」
「まぁ、噂程度には国民も知っているでしょうね。でも今が楽しければいいという国民性なので、興味がないのでしょう」
「その通りだ。そして国民は我ら王侯貴族のことをあまり知らない。ただ平和に楽に暮らせればいいのだ」
(何なんですのこの国民性……)
ローゼリアがうんざりしていると、リーゼルトは宿屋の前で足を止めた。
「ここですか?」
「ああ、ここに昔、私の執事であるアンベルが住んでいるはずだ」
「アンベル……あの方が」
「エンデ、ご存じですの」
「ええ……兄に常に付き添っている、大変穏やかで優秀な執事だったと記憶しております」
(エンデがここまで言うのなら、素晴らしい方ですのね)
ドアをノックせずに開けると、リーゼルトは大きな声を上げる。
「アンベル!久しいな」
リーゼルトが足を踏み入れると、中は真っ暗だった。
中は埃と金属の匂いが立ち込めており、暗闇から突然剣が飛んできた。
「お嬢様、伏せてください!」
エンデはローゼリアの頭を押さえると壁に隠れる。
頬にかすり傷を負ったリーゼルトは、すぐさま扉を閉めた。
「リーゼルト様、こちらでございます」
路地裏から渋い老人の声が聞こえると、リーゼルトはエンデに目配せし、その路地裏へ逃げ込む。
そこには一人の老紳士が立っており、挨拶をすることもなく、素早い動きで四人を先導する。
町の大通りに着くと、その男は目深にかぶったフードを取り、こちらを振り向いた。
「アンベル、お前の宿は客を剣で歓迎するとは不敬にもほどがあるな」
「もうしわけございません。礼儀のなっていない使用人に占拠されておりまして、教育が追い付いていないのですよ、殿下」
物腰の柔らかな老紳士は微笑むと、深く礼をする。
「皆さま、私のせいで危険な目に合わせてしまい大変申し訳ございませんでした。ご挨拶が遅れました。私はアンベル。リーゼルト殿下の執事兼教育係をしておりました」
アンベルはずっと足を蹴り続けるリーゼルトを無視してエンデとローゼリアを眺める。
「黒髪に蒼い目……もしやあなたは……エンディミオン殿下」
「ええそうです。お久しぶりです」
「こんなに大きくなられて……!どことなく王妃様に似ておられるようなないような……」
(……?なんだか含みがあるような言い方ですわね?)
「あなた様は……ローゼンベルク王国、アレクシュタイン公爵令嬢、ローゼリア様でございますか」
真偽を見極めるようにじっとローゼリアを見つめるアンベルに、つい圧される。
ローゼリアの肩をエンデが支えると、小さな声で返事をした。
「ええ、そうでございます。初めてお目にかかります。ローゼリア・アレクシュタインでございます」
「そうですか。あなたがエンディミオン様の良い方なのですね」
(ん……?どういう意味ですの)
意味を含ませた言い方をすると、アンベルはリーゼルトの尻を腕に乗せると、片腕でリーゼルトを高々と掲げた。
「やめろ!アンベル」
「次期王となられる方が足癖を直せなくては困りますから」
「目立つだろ!また狙われたらどうするんだ」
「そしたら私がすべて返り討ちにいたしますのでご心配なさらなくて結構ですよ」
アンベルは健やかな笑顔を浮かべ、リーゼルトを見上げる。
(あのリーゼルト様を手玉に取るなんて……この執事、只者ではありませんわ)




