この国本当にまともな人物がいませんわー!
「お嬢様、こんな男の言うことを聞く必要などございません。もうお屋敷へ帰りましょう。私が付き添いますので」
「えー!エンディミオン帰ってしまうのかい!?じゃ私も」
「……まさか、アレクシュタイン家の屋敷へ着いてくるつもりじゃないでしょうね」
「うん。ちょうどずっと潜伏できるを探していたところなんだ」
エンデはリーゼルトの言葉を聞くと、天を仰ぎ、意味を噛み締める。
「潜伏と言っても、そこまで長居をするつもりはないよ、そろそろ帰るつもりなんだ」
「帰るって、まだ内乱が終わっていないのでしょう」
「内乱?なんだそれは。ただ父上が軽い風邪をひいて、その代わりに叔父上が執政したところ、あまりにも厳しく取り締まるがゆえに、何故か家臣から、叔父上が父上に謀反を起こし、王座を奪取したと揶揄されてしまっただけだぞ」
「父上は監禁され、叔父上は捕縛されたと」
「父上はただ軽い風邪なだけなのに母上に構ってほしくて部屋に閉じこもっていただけで、叔父上の捕縛は知らんぞ」
「で、兄上たちは恐れをなして消息を絶ったと聞いていますが……」
「ただの外遊だ。ちょっと、外の世界を見たくてな」
堂々と胸を張るリーゼルドに、二人が呆れて救護室を出ようとすると、リーゼルドは当然のように二人の後をついてくる。
「エンデ?何だか後ろから足音が聞こえるような気がするのですが」
「振り向いてはいけません。相手の思う壺です」
エンデはしっかりローゼリアの背中を抱く。
(う、嬉しいですけれども……背中の視線が気になりますわ~~~)
後ろから聞こえる謎の愉快な歌に思わず振り返りそうになるが、エンデに耳を押さえられる。
愉快な歌は延々と続き、屋敷に着くころにはローゼリアもうんざりしていた。
「あらリーゼルト様遅かったですわね!」
「おやリンデール嬢、早かったな」
応接室に通すと、そこには使用人たちを何人も携えて、まるで我が家のように豪勢なティータイムを楽しむリンデールの姿があった。
(そ、そうでしたわ……リーゼルト様のインパクトが強すぎてリンデール様のことを忘れていましたが、この方もまだうちにいたんでした……)
ローゼリアが青い顔をしていると、エンデが顔色を覗き込む。
「お嬢様、この方々は放置して、我々は部屋で休みましょう」
そう言ってエンデはローゼリアの手を取る。
するとリンデールはティーカップを置き、エンデを呼び止める。
「エンディミオン様、あなたをサイディリア王国へ戻すため多少話を脚色したことは謝りますわ。でも私、嘘はついていなくってよ」
「は?何が嘘ですか」
「全てよ。最初は国王の軽い風邪での休業によるハンドレット公爵の執政、と我が国らしい平和な話でしたけれども、何故そんな話が他国まで轟くほどの内乱騒ぎと噂になっているかご存じかしら」
「……さぁ、私はもうサイディリア王国の者ではございませんので」
リンデールは応接室の入り口にいるエンデに向かって堂々と歩いてくる。
すると縦ロールを手で払うと、真剣な眼差しでエンデを射抜いた。
「謀反を起こしたのは、家臣でしてよ」
エンデの手から力が抜け、ローゼリアの手が宙に揺れる。
「怠惰な国王の仮病につきっきりの王妃様に、いつも怠惰な国王に慣れきっている家臣をこれを機に叩き直そうと、短期間で厳しくしすぎたハンドレット公爵。国王に慣れてしまっている怠惰な家臣たちは怒り狂い、ハンドレット公爵を捕縛し、こうなった原因の国王を部屋に閉じ込めてしまったのですわ」
(それもなんだか……ですわぁ……)
理解が追い付かず笑いさえも出ない。
エンデは、本気になって損した、というように呆れた表情をして額を押さえた。
「エンディミオン様にお帰りいただき、まともな政務をしていただかなければ、サイディリア王国は終わりですわ」
「あなたたち、頭おかしいんですか?」
真面目にエンデが問うと、リーゼルトとリンデールは顔を合わせて「はい」「うん」と返事を合わせた。
「サイディリア王国にまともな人間がいるわけないだろう。だからこうやって外遊で見分を深め、できればいい人材を国に持ち帰ろうとしているんだよ」
「ですから、エンディミオン様をこうしてお誘いしているのです。家臣たちの怒りを収めるにはエンディミオン様を連れ帰るしかありません!」
「何で私が巻き込まれなきゃいけないんですか……別に兄上でもいいでしょう……」
「私は父上にそっくりだから帰ったら多分私も監禁されてしまうな!」
(本当、サイディリア王国の方々って何故こうもおかしいんでしょうか……ついていけませんわ)
「はぁ……では、お嬢様もご一緒に」
「え?何ですの」
「お嬢様も一緒にサイディリア王国へ来ていただけませんか」
「私がサイディリア王国に!?」
エンデは跪き、ローゼリアの手を取り、視線を上げる。
「お嬢様、サイディリア王国に悪役令嬢の存在を広めたくはありませんか?」
「え、別に……」
「世界中に広めたいですよね?」
「あ、その……は、はい……?」
戸惑いながら返事をすると、エンデは不気味なほどきれいな笑みを浮かべ、振り返った。
「アレクシュタイン公爵に許可を取った後、準備が出来次第王国に参りますので、とりあえずお二人はお帰り下さい」
「何を言う、一緒に王国に帰るぞ!」
「そうですわ、どうせですから一緒に」
「先、に、お、帰、り、く、だ、さ、い」
不気味な笑みで圧をかけると、リーゼルトは窓から庭へ姿を消し、リンデールは指を鳴らし、家臣たちにティータイムのセットを片付けさせると、礼もなく出て行った。
ローゼリアは脱力し、その場に倒れこむと、エンデが軽々とその体を持ち上げる。
「お嬢様、申し訳ございません。……あなたがいなければ、帰る勇気すら持てなかったのです」
消えゆく意識の中、エンデは小さく弱音を吐く。
ローゼリアは夢の中で窓から何度も出入りをするリーゼルトとティータイムで紅茶を何倍ものむリンデールにうんざりした。




