あなた、それは情報屋というのではなくって……?
「さてアンネリー様、何からお教えいたしましょうか」
「はぁ?あんたん家に連れ込んで何させるつもり?」
ローゼリアに引きずられるようにしてアレクシュタイン家に連れてこられたアンネリーは応接室の長いテーブルに肘を突き、悪態をつく。
「あそこまで堂々と宣言したのです、アンネリー様を教育申し上げなければ、有言不実行になってしまうでしょう?」
「……あんたって、本当に変な女」
「そこはおもしれー女でしょう!」
(あ、違いました。私は悪役令嬢になりたいのでおもしれー女になることはないのでした)
「まずは言葉遣いですわね。そうですわね……どうせですから、聖女のため息を教科書にしましょうか」
「……知ってる」
「え?」
「言葉遣いだとか、テーブルマナーだとか……男爵家に引き取られたとき、すごく厳しくしつけられた。私は庶民だから、庶民らしさが一切残らないようにって、否定されながら教育されたわ」
アンネリーが俯くと、ローゼリアはかける言葉を失い、狼狽える。
(そうですわよね、アンネリー様本性さえ出さなければ立派なご令嬢としての振る舞いは出来ている。短期間でそれが出来ているのは、血のにじむ努力があったでしょうに……)
「でも、せっかくだから、公爵令嬢のあなたの教育とやらを受けて差し上げますわ。あなたは悪役令嬢になりたいようですし。仕方ないからあなたにいじめられるヒロイン役を演じてあげる。……癪に障るけど、一応二度も助けてもらったしね」
「アンネリー様……!」
(なんというツンデレ……!私、目覚めてしまいそうですわ……)
ローゼリアは青い本を抱きしめ、天を仰いだ。
するとドアをノックする音が聞こえ、返事をする。
「お嬢様、夕食はこちらへお運びするとよろしいですか」
「あらエンデ。そうね、アンネリー様の分もお願いいたしますわ」
「かしこまりました。どうか、熱が入りすぎませんように」
エンデが扉を閉めると、ローゼリアは一息つく。
(エンデはアンネリー様のことを警戒しているみたいですから、気を付けなければ……ん?)
「アンネリー様……?」
アンネリーは扉を向いて、目を輝かせている。
(そうでしたわ、アンネリー様はエンデが推しでした……!)
「エンデ様の執事服姿……執事の仕事をしている……」
「そ、そう、ですか……」
「こんな姿が見れるなんて……あんたに引きずられてここに来てよかった……!」
感激する言葉とは裏腹に、アンネリーは頭を抱え、肘でテーブルを叩く。
(げ……限界オタクですわ……)
「あー!本物の執事姿……!素敵すぎるマジで!本物のアンドリュー様じゃん!え、あんた、これを毎日見てるわけ……?」
「ええ……私の執事ですので、毎日私に仕えて給仕しておりますわ」
「お給仕されてるとかなんなのよ、あんた悪役令嬢のくせに聖女みたいな生活してんじゃん!あーくっそ、私も男爵家じゃなくて公爵家に生まれればよかったあ!」
アンネリーは上を向き、大口を開け、大の字になって叫ぶと、深いため息をつく。
「うちの男爵家はさ、身分も低いし、お金だってない。正妻との間に子供がいないから、妾の子の私なんかが引き取られてさ、貴族とはいえ、あんたとは全くの正反対な生活なわけよ」
「そうだったのですか……」
「でもさ、男爵家に引き取られる前に、聖女のため息に出会ったわけ。貴族って素敵、聖女みたいに王子様に愛されているのに最後は執事との真実の愛を取るなんて最高!って思いながら男爵家に引き取られたんだけど、現実そんな甘くなくて、学校では虐められるし、男爵家にいい縁談なんてこないし……正直、庶民に戻りたかったわ」
テーブルに体を預け、肩ひじをつく。首を鳴らすと、ローゼリアを見つめた。
「でも、エンデ様に出会って、こんな素敵な人いるんだって思った。……まぁ、私には手の届かないお方だけど、存在するだけで救われる命ってあるわよね」
(わかる、わかりますわ……アンネリー様、本当にオタクの才能ありすぎですわ……)
「まぁ、エンデ様の欠点と言えば、あんたみたいな悪役令嬢の執事ってところくらいかしら」
悪役令嬢と呼んでくれるアンネリーに、ローゼリアは満足げに腕を組み、噛み締めるように何度も頷く。
「本当、あんたって変な女。悪役令嬢って呼ばれて喜ぶなんて」
「何度も呼んでくださいませ、私は悪役令嬢でございますから」
「でも、あんたって、見た目は悪役っぽいけど、中身はまるで……」
その時、会話を切り裂くようにドアが豪快に衝撃音を発しながら開いた。
「お嬢様は悪役令嬢と呼ばれたいという変わった夢をお持ちのお方なのです。どうぞ悪役令嬢という噂を学園内でお広めくださいませ」
エンデは夕食が乗ったカートを押しながら、作り笑いをしながら会話に入ってくる。
「エ、エンデ……様……」
「アンネリー様。お嬢様は少し変わったお方なのです。出来ればこれからもお嬢様と仲良くしていただき、できれば、その会話の内容を私にまでご報告いただけますと助かります」
「は、はい!」
(あら……アンネリー様……エンデにうまいこと使われていません事……?)
ローゼリアは少し首を傾げながら、エンデのしたり顔を見つめた。




