私こそが悪役令嬢ですから!しっかり覚えなさい!
(……はぁ、なんだかよくわからなくなってしまいましたわ……)
アンネリーに詰められたローゼリアは、結局じっくりと話をする余裕もなく休憩時間を終え、学園内に帰ってきてしまった。
アンネリーが聖女のため息の原作厨でエンデのことを作中の執事アンドリューと重ねて推しのように思っていて、しかもエンデに相応しいのは庶民のアイレリア!という思想の持主……
(……でもまぁ、アンネリー様が悪役令嬢の要件に当てはまっているとかではなくただの陰口ということがわかってよかったですわ……)
「って……よくないですわ!!?」
(アンネリー様が悪役令嬢じゃないのに悪役令嬢と呼ばれ、アンネリー様の悪役令嬢に対する印象が悪いものになっているのはよろしくありませんわ!)
ローゼリアは席を立ち、右往左往と教室内をうろつく。
(ど、どうにかアンネリー様のことを悪役令嬢呼びするご令嬢を止め、私が本物の悪役令嬢であることをアピールしなくては……!)
「ローゼリア様……?どうかなさいましたか?」
アイレリアが後ろから声をかけてくる。
確かにアイレリアは庶民出身、聖属性の能力持ち、おまけにおもしれー女……私が認めたヒロイン……
(そういえば、アンネリー様も庶民出身でしたのに、何故アイレリアがエンデに相応しいと思ったのかしら……?)
「ねぇアイレリア、あなた、アンネリー様のことはご存じかしら」
「アンネリー様……ですか?悪役令嬢と呼ばれているあの方ですか」
「そう、まぁ悪役令嬢ではないのだけれど、その方ね」
「あの方も庶民出身とのことですが、私と違って、タラティーノ男爵の御落胤とのことで、学園に入る前に養子に入られたようですが」
(なるほど、最近養子に入られたのね……ですからあの言葉遣い……)
「ありがとうアイレリア。よい情報を得られたわ」
ローゼリアは心を決めると、教室を勢いよく飛び出した。
*****
アンネリーの教室へ行くと、生徒たちはほとんど下校しており、アンネリーと数少ないご令嬢たちが残っていた。
(アンネリー様は、っと……あ、いたいた。って……あれ?)
アンネリーを例の意地悪なご令嬢たちが取り囲んでいる。
ローゼリアは柱の陰でその様子を見守った。
「アンネリー様?今日もエンデ様を窓から眺めていらっしゃいましたわよねぇ」
「悪役令嬢のあなたなんかに想いを寄せられても困ってしまうのでは?」
「ああお優しいエンデ様……執事とはいえ、公爵家にお仕えしている身、しかも元隣国の王子様……まぁ、庶民上がりのあなたとは同じ空気を吸えているだけでもありがたく思いなさい」
(こ、この方々、エンデと話したこともないでしょうに、何を勝手にエンデを語っているのかしら……)
ローゼリアは少しむくれながらも、早めに割って入ることにした。
「ちょっとあなたたち?何勝手に私の執事のことを話していらっしゃるのかしら~?」
「ロ、ローゼリア公爵令嬢様……!?」
(本当、顔を見ても全く存じ上げないご令嬢たちですわ……でもまぁ、私の方がきっと爵位は上でしょうから偉そうにふるまってみましょう)
ローゼリアは胸を張り、きれいに巻かれた金髪の長い髪を手でたなびかせると、声高に高笑いする。
「……あんた」
「おーっとそこにいらっしゃるのは小汚い男爵令嬢ではありませんかー!ご機嫌いかがかしらー!?」
アンネリーの口を塞ぐように顔を近づけ、わざと大声を出す。
「ロ、ローゼリア公爵令嬢様……こ、この悪……アンネリー様に何か御用なのですか?」
意地の悪いご令嬢がゴマをするようにローゼリアに尋ねると、ローゼリアはしたこともないほど鋭い視線をご令嬢に向け、射るように睨んだ。
「この男爵令嬢はこの!この公爵令嬢の私に汚い言葉遣いをいたしました。聞けば庶民出身というではないですか、これでは社交界デビューしたとしても恥をかいてしまうでしょう。で、す、か、ら、私のような公爵令嬢がビシ!バシ!とご指導申し上げて、素敵なレディーに仕立てあげようと思うのです!」
「は……はぁ……?」
小声でアンネリーが「何言ってんのあんた……」というが、ローゼリアは「しーっ」とアンネリーを黙らせた。
「ですから、あなた方が悪役令嬢などとこの方をなじることはしなくてよろしくてよ?だって悪役令嬢は、家柄が良く!美しく!文武両道、全てに優れている!ついでに婚約者もなんかすごい人!の私のような方を言うのですから!!!さぁアンネリー様、私は悪役令嬢でございますから、あなたを厳しく、ビシ!バシ!とご指導いたしますわよ!」
「……どういうこと……?」
アンネリーは混乱のままため息をつき、意地悪なご令嬢たちも混乱のまましばらくしてその場を立ち去った。
(悪役令嬢の正しい定義を教え込み、しかも意地悪要素をちょっと入れることで、私が悪役令嬢であることをしっかりと印象付ける……完璧だわ、完璧すぎますわ……!)
ローゼリアは満足げにご令嬢たちが逃げて行った跡を眺めた。




