ついに……!悪役令嬢と呼ばれましたわー!
(ど、どういうことですの……私のことを悪役令嬢と呼んで下さるなんて……)
ローゼリアは目を輝かせながらアンネリーを見つめる。
「な、何ですの……気持ち悪いわね……」
(あら、この言葉遣い……もしかして)
「アンネリー様、ごきげんよう。この間は大変失礼いたしました。私はローゼリア・
アレクシュタインですわ」
「……知ってます。第一王子の婚約者様ですよね」
目線を下げ、不貞腐れたように唇を曲げると、アンネリーは本を後ろ手に隠す。
「アンネリー様は、聖女のため息がお好きなのですか?」
気軽に尋ねると、アンネリーは視線を泳がせ、逃げ場を探そうとする。
(わかります、わかりますわ……オタク仲間かどうかわからない人に踏み込まれた時ってどう返すのが正解か悩むんですのよねぇ……)
腕組をしながらしみじみと頷くと、ローゼリアは「あっ」と何かを思いついたかのように表情を明るくした。
「この場所、原作にしか登場しない聖地なのですよね」
「……!あなた、この本を読んだことがあるの……!?」
「ええ!舞台を見てハマってしまいまして……」
うっとりとそう語ると、急にアンネリーの表情が曇った。
「舞台から……原作に……?」
(あ、あら、もしかして……これは……地雷を……)
「舞台版なんて大事なシーンがすべてカットされていて全くの別物ではないですか!私、舞台版から入った新参が大嫌いなのよ!」
(ただの原作ファンではなく原作厨な上に古参勢でしたわーーーーーーーー!)
言葉を失うローゼリアに、アンネリーは歯をむき出しにして前のめりに頭を突き出す。
「それに、あの悪役令嬢がどうのこうのって作品が急に流行り出して……聖女のため息の舞台がことごとくその悪役令嬢がどうのって作品に乗っ取られて……ふざけんじゃないわよ!」
おおよそ令嬢とは思えない言葉遣いにローゼリアは言葉を失う。
「それに……作者様が宰相様ですって!?作者が表に出てくんじゃないわよ!作品が汚されるじゃない!あまつさえ舞台挨拶でプロポーズですって!?」
「ま……まぁまぁ……アンネリー様落ち着いて……」
激昂するアンネリーに手を差し伸べようとすると、厳しく払われる。
「触らないでこの悪役令嬢!何で私があの憎い作品のキャラクターの呼び名で呼ばれなきゃならないのよ!悪役令嬢はどっちかっていうとあなたの方でしょう!?」
金切り声で発せられた言葉……それは、ローゼリアが最も欲しがっていた言葉。
「アンネリー様……何故私を悪役令嬢と呼んで下さるのですか……?」
「は?何それ。そんなもんあなたが悪役令嬢そのものの姿をしているからでしょ!?あなたみたいな方が王子様の婚約者だなんて……ただ悪事がバレていないだけで、本当は悪いことをしているんじゃなくって!?」
「なん……です……って……」
酷い誹謗中傷にローゼリアが慄くと、アンネリーは一瞬我に返り、バツが悪そうに視線を逸らした。
しかしローゼリアはアンネリーに近づき、両手を強く握る。
「な、何なの!?」
「私を悪役令嬢と呼んで下さるなんて……!」
ローゼリアは感激あまり熱い涙を流し、アンネリーに感謝をする。
(ついに、ついに私を悪役令嬢と呼んで下さる方がいらっしゃいましたわ……!)
「な、何なのあなた……悪役令嬢なんて呼ばれて喜んでるなんて頭がおかしいんじゃないの!?」
「頭がおかしくてもよろしいです」
「じゃ、やっぱり何か裏で悪事を働いてたとか!?誰かを虐めてたりとか」
「違います……私はヒロインを虐めない悪役令嬢ですからぁ」
「は?何それ意味がわかんないんですけど!?じゃ、あなたは何!?ただの王子様の婚約者ってこと!?」
「婚約者ですけど、これから婚約破棄予定ですぅ~~~」
(あっいけない、本音をついしゃべってしまいました)
「は……?はぁ???」
混乱し、逃げようとするアンネリーの手をローゼリアは放そうとしなかった。
恐怖のあまりアンネリーはローゼリアの手をぶんぶんと振り回す。
すると突然、ローゼリアは腰を抱えられ、後ろに体を引かれる。
「お前、お嬢様に何をした」
「エンデ……!」
体中に薔薇のとげと花びらをつけ、見たことのない怒りを見せるエンデがアンネリーを睨んだ。




