悪役令嬢アンネリー……って噂、本当ですの!?
ローゼリアは食堂でスープを一匙口に入れると、飲み込むと同時にため息をついた。
(どうしたら私が悪役令嬢と呼ばれ、本来悪役令嬢と呼ばれないお方をお救いすることが出来るのでしょうか……)
「これでは風評被害もいい所ですわ」
「何が風評被害なんだい、ローゼリア」
突如後ろから声をかけられ、慌てて飛びのく。
振り向くとそこには金色の髪を耳にかけながら顔を近づけるラスティがいた。
「ラ、ラスティ様……ど、どうかなさいましたか」
「おや心外だね。久しぶりだというのに随分余所余所しい」
「そ、そんなことありませんけれど……ちょ、ちょっと近くありませんこと……?」
吐息さえもかかりそうな距離に、ローゼリアは椅子を引く。
するとラスティは隣に座り、椅子を寄せる。
「婚約者なんだから、別におかしいことはないだろう?」
首を傾げながらこちらを覗き込むラスティに、ローゼリアは言葉を失う。
(流石王子キャラ……非の打ちどころのない顔の良さですわ)
「ラスティ様。お嬢様が引いております。おやめください」
「エンデ、お前は毎日ローゼリアと一緒なんだから少しくらい私と二人きりにさせてくれないか」
エンデはラスティの背後に立つと肩を掴み、ローゼリアから離すように後ろに引いた。
「お嬢様の気持ちを慮れないような方に婚約者は務まりませんよ?」
(はぁ~……お互い王子同士でご友人なのですから仲良くして欲しいですわぁ……ん?)
「あれは……」
喧嘩をする二人を置いてローゼリアは席を立つ。
ランチの乗ったトレイをもって、食堂に入ってきた地味な少女をじっと見つめ、様子を伺う。
すると席に座った少女の周りを意地の悪そうな令嬢たちが取り囲む。
「あーらアンネリー様、今日も一番お安いランチをお召し上がりなのかしら?」
「本当悪役令嬢なのに貧乏くさいこと。あ、男爵令嬢ですものね、失礼いたしました」
令嬢たちは口々にアンネリーを小馬鹿にする。
(あれは、悪役令嬢と呼ばれているアンネリー男爵令嬢……!)
「悪役令嬢だというのに、婚約者の一つもいらっしゃらないとは。まぁこんな瘦せこけたご令嬢に声をかける殿方などいるわけがございませんけれどもねぇ」
(馬鹿の一つ覚えのように悪役令嬢悪役令嬢と……許せませんわ……!)
ローゼリアは憤慨し、集団につかつかと真っすぐ歩いていく。
「失礼!?こちらに悪役令嬢がいらっしゃると聞こえたのですがあなた方かしら!?」
(あなた方はただの意地悪なご令嬢でしかありませんけれどもね!)
「ロ、ローゼリア・アレクシュタイン様……!?」
アンネリーにつっかかっていたご令嬢は三人ともローゼリアの方を向くと、慌てて挨拶をし、蜘蛛の子を散らすように去って行った。
(根性のないご令嬢たちですこと)
ローゼリアが安堵のため息をつくと、後ろから同じような重いため息が聞こえてきた。
「あなた、大丈夫でしたか?あ、初めまして、私はローゼリア……」
「口突っ込んでこないでくださいますか」
ドスの効いた声に、ローゼリアは固まった。
「え?」
アンネリーはローゼリアを刺すように視線を向けると、さっとフォークを向けた。
反射的に後ろに体を逸らすとバランスを崩し、後ろへ倒れそうになる。
「大丈夫か、ローゼリア」
「ラ……ラスティ様」
ラスティはローゼリアの腕を掴むと自分の胸に抱き寄せた。
普段表情をあまり表さないラスティの厳しい表情に、ローゼリアは身を縮めた。
「アンネリー嬢、私への婚約者への加害は国家への反逆とみなすぞ」
低く野太い声がローゼリアの身を震わせる。
(ん……?って、国家……?)
「ラ、ラスティ様……それは言い過ぎでは?」
ラスティの袖を掴み嗜めると、何故かアンネリーが厳しい目を向けてくる。
「別によろしいですよ、ローゼリア様。その覚悟で私は今ラスティ様に歯向かっておりますから」
「ほほう、随分いい根性をしている」
(アイレリアの次はアンネリー様ですの……?どうしてラスティ様は女生徒と喧嘩ばかりしてしまうのかしら)
「……はぁ、いい加減にしてくださいよ。お嬢様が怖がってらっしゃるではないですか」
ラスティの腕にすがみつくローゼリアの腰に腕を回し引き寄せると、エンデはローゼリアの前に出る。
するとアンネリーは一歩引いて顔を逸らせる。
(あ、ら……?もしかして)
「申し訳ございませんでした。では、私はこの辺で」
アンネリーはトレイを持ち上げると、視線を合わせずに食堂を去る。
ラスティは追いかけようとするが、ローゼリアに襟を掴まれその足を止めた。
(アンネリー様……一体どんな方なのかしら……気になりますわ)




