私は悪役令嬢と呼ばれたいのですわー!
「って違いますわ!!」
自宅の部屋で一人突っ込みを果たすと、エンデは表情を変えずに変えたシーツを回収する。
「何が違うのですか」
「はっ」
(エンデに見られてしまいましたわ……!)
エンデを意識してしまったが最後、薄着姿で部屋に二人きりでいるという、日常の生活すらも恥ずかしく感じてしまい、そっとショールを手に取り、肩にかけた。
「悪役令嬢ですわ!劇でのフリージア様はあんなに気高く美しかったのに、何故悪役令嬢として広まっていますの」
「いや、悪役、ですからねぇ……実際、正当な理由があったとしても、物語上悪いことをしているわけですから」
「でも、だからと言って、私ではない他のご令嬢が誹りを受ける理由にはなりませんわ!」
「お嬢様は、責任を感じていらっしゃるのですね」
「いいえ!私はただ私が悪役令嬢と呼ばれたいだけですわ!!!!!」
ローゼリアが枕に顔を埋めて唸ると、エンデは渋い顔をして変なものを見るような目を向ける。
「なぜ私は悪役令嬢と呼ばれないのでしょう」
「流石に本物の王子の婚約者を悪役令嬢と呼ぶのは憚れるのでしょう。実際、悪役令嬢と呼ばれているのは少し格の低い、まぁ、ようするに、虐めるのに都合の良いご令嬢のようですし」
「アンネリー男爵令嬢、ですか」
今学園で悪役令嬢と呼ばれているのはアンネリー男爵令嬢である。品行方正、見た目も清楚で大人しく礼儀正しい、と評判だ。
「なぜ彼女のようなご令嬢が突然悪役令嬢などと呼ばれているのかしら」
「彼女をそう呼びたい方がいらっしゃるのでしょう」
「その方は悪役令嬢に何か思い入れでも!?」
「あ、いえ、ただ悪口をいいたいのでは……」
二人の間を沈黙が漂う。
「そうだったんですの!!!?」
「悪役令嬢はただの口実で、ただ彼女を貶めたいだけなのではないでしょうか」
「悪役令嬢は悪口ではなくってよ!!!」
「……私にそう言われましても……」
エンデはため息をつくと、窓を開け、空気の入れ替えをする。
窓際に置かれたフリージアの一輪挿しが風に揺れる。エンデはその花軸を軽く抑え、そっとつぼみを撫でる。
「……エンデ、あなたから見て、私はそんなに悪役令嬢に見えませんか?」
ローゼリアは拗ねたような声を出す。
するとエンデは窓の外に放つように独り言を叫んだ。
「物語のような悪役令嬢には見えませんねー」
ローゼリアはベッドに潜り込み、更に呟く。
「あなた覚えていらっしゃる?私は悪役令嬢になりたくてよ」
「忘れた日はございませんよ」
「なのにみんな私を悪役令嬢とは呼んで下さらないの」
「それはお嬢様の素行がよろしすぎるからではないですか」
「私は悪役令嬢と呼ばれたいのよ……」
肩まで布団をかぶり、顔を埋めると、エンデは窓を閉め、カーテンを引いた。
ゆっくりローゼリアの元へ歩いてくると、そっとローゼリアの髪を触る。
「私はこのあたりで失礼いたしますね、悪役令嬢ローゼリア・アレクシュタイン様」
じっとローゼリアを見つめ、髪に軽く口づけると、エンデは何事もなかったかのようにそっと部屋を出る。
(な、ななな……何なんですのあの男……!!!?)
窓から入った冷たい空気が部屋の中に充満し、ローゼリアはベッドの中に頭まで潜り、しばらく悶絶しながら転がり続けた。
(あっ……今日も転生のことを話すのを忘れてしまいましたわー!)




