私をダシに惚気ないでくださいませ!
「悪役令嬢様よ」
「悪役令嬢がいらっしゃったわよ」
「まぁ見て今日も意地の悪いお顔をしてらっしゃいますわ」
学園内にひそひそ声が木霊する。
ご令嬢たちは柱の陰から、自分たちが勝手に悪役令嬢認定したご令嬢をあざ笑う。
「……はぁ~……こんなはずではありませんでしたわぁ……」
まるで令嬢とは思えないような崩れた顔をしてローゼリアは空を見上げる。
「どうなさいましたの、ローゼリア様」
アイレリアが顔を覗き込むと、ローゼリアはさらに深いため息をつく。
「どうもこうもございませんよ、ようやく悪役令嬢という概念が世間に広まったものの、その悪役令嬢の概念は何故か悪い方向に、しかも何故か私ではないご令嬢が悪役令嬢と呼ばれる始末……」
「あの御本、ローゼリア様が一枚嚙んでいたなんてびっくりしましたわ」
「はぁ……どうしたらよろしいのかしら」
劇は初演からしばらく満員御礼で、庶民どころか貴族ですら劇場に入れないほどの盛り上がりを見せた。貴族は次々に舞台のセットや小道具のリアリティさに感激したり、悪役令嬢に対し「いるいる」と相槌を打ち、庶民はヒロインに感情移入した。
「ローゼリア様、ごきげんよう」
その声に振り向くと、周囲が騒めく。
「きゃー!アレクシア様よ」
「ご結婚おめでとうございますー!」
女生徒の黄色い声を浴びると、アレクシアは赤面し、立ち止まったまま耐える。
ローゼリアは素早く駆け寄り、アレクシアの手を取り、空き教室へ案内した。
「ご挨拶が遅れもうしわけございませんでした。リシリュー宰相との結婚発表、おめでとうございます」
「……あっ……いえ……」
赤面し照れるアレクシアは、以前のような険がとれ、本来の美しさがより際立っていた。
アレクシアはそっと顔を隠すように手の甲を掲げ、指に嵌っている指輪を見せる。
「それは……結婚指輪ですか」
「あっ、いえ、その……お恥ずかしながらまだ婚約指輪……です」
「そうですか~」
ローゼリアは満面の笑みを浮かべ、にやにやと可愛らしくなったアレクシアを見つめる。
(リシリュー様は見る目がありますわねぇ)
先日、劇は大千秋楽を迎えた。ローゼリアも関係者席で涙を浮かべながら観劇していた。
その大千秋楽での舞台挨拶で、この物語の作者がリシリュー宰相であること、アレクシア様が婚約者であることが発表されただけでなく、リシリューはアレクシアに舞台上で公開プロポーズをしたのだった。
会場は歓声に包まれ、アレクシアが小さく返事をすると、舞台上に大量の花束が投げ込まれた。
(あれからですわね、アレクシア様への世間の評価が良い方へ変わったのは……)
ローゼリアはしみじみと思い返す。
「この世界では結婚指輪という概念はないようですが、あの人が指輪を用意していて……結婚指輪があれば婚約指輪はいらないといったのに」
そう言って恥ずかしそうに起こるアレクシアはどこか嬉しそうだった。
「転生者同士ならではですわね……あっ!」
そういえばエンデに転生者の説明をするのを忘れていた。
(あれ、でもエンデもあれ以降何も言ってきませんわね……)
「どうかなさったの?」
「あ、いえ……エンデに転生者とは何かと聞かれ、説明していなかったな、と」
「あらそうですの。転生者ではない方に転生について説明するのは骨が折れそうですわね」
「そうなのです……」
もし転生を説明して、自分は別の世界の別人がローゼリアの器を乗っ取っているのだと言ったら、エンデはどんな顔をするだろう。もしかしたら、今は好いてくれていても、この好意を翻すかもしれない。
(私は……エンデに嫌われることを恐れているのかしら……)
「ローゼリア様は、エンデ様のことを大切に思っていらっしゃるのですね」
「えっ?」
アレクシアはローゼリアの手を取り、優しく握る。
「転生について話したら引かれるのでは、と恐れているのでしょう?ならば、早く決着をつけてしまった方がよろしいです。杞憂している時間が勿体ありません。私とリシリュー様のように」
(……はぁ?……私とエンデをだしにのろけられてしまいましたわ……)
ローゼリアはアレクシアの変わりように、ほっと胸をなでおろす。
(やはり、王子様はヒロインを救ってしまうのですね)




