転生者ってどう説明すればよろしいんですのー!?
エンデの純粋な疑問に、ローゼリアは口を閉ざし、なるべく目線を合わせないように努力した。
(転生者って、どう説明したらよろしいんですのー!?でも、エンデにはここが乙女ゲームの世界であるなどと説明しておりますし、今更……という気もしないでもありませんが……しかし、私が前世の記憶があることなどを知ったら、どう反応するのでしょうか……)
思いを巡らせながらも舞台上のアレクシアの演技に目を奪われる。
「……それにしても素晴らしいですわ」
エンデへの説明はさておき、劇の出来に感嘆の声を漏らす。
アレクシア嬢の熱演はもちろん、他のキャストも一流で、リシリューの本気を感じさせた。
舞台セットも本物の王宮を再現したかのように細やかで、見ているだけで舞踏会のモブになれた気持ちになれた。
「この舞台のために、リシリュー様は私財を投げうったようですよ。しかも初演から数日は無料で庶民に提供されるとか」
「えっ……何故そこまで」
エンデはローゼリアをじっと見て不機嫌そうにそっぽを向く。
「……それは、リシリュー様に直接お伺いされた方がよろしいのでは」
珍しくローゼリアに冷たく当たるエンデに、ローゼリアは震えた。
(な、何故エンデは怒っておりますの……!?)
舞台上の悪役令嬢フリージアは王子には婚約破棄されたものの、最後はフリージアをそばで支え続けた従者で隣国の貴族である幼馴染の男と結ばれ、舞台オリジナルの展開を迎えていた。
「やれやれ、お嬢様は私がいないとだめなんですから」
と、男はフリージアの手を取る。
(ん?何故か既視感がありますわね……)
ローゼリアはそっとエンデを見た。エンデは少し口角を上げて、鼻で笑った。
*****
「素晴らしかったですわ……!」
楽屋へ行くと、ローゼリアは目を閉じて左右に揺れて喜びを表現する。
「是非、この舞台を流行らせましょう……!そして悪役令嬢という概念を流行らせるのです……!」
「悪役令嬢を流行らせる……?ローゼリア様は悪役令嬢という存在を広めたいのですか」
「ええ、そうです、私は理想の悪役令嬢になるためには、まずこの世界に悪役令嬢という概念が必要だと思ってこの作品を作ったので……あっ」
アレクシアの表情が曇る。
(そうでしたわ、アレクシア様は悪役令嬢という役割に誇りを持ってはいるものの、いい思いはしていないのでした……)
「こほん……失礼いたしましたわ」
「いいえ、構いません。この作品がなければ、私も自分の役割に押しつぶされていたのかもしれません。作品を通して、私は自分という存在に改めて自信が持てましたわ。作中のフリージアも誇り高く気高い悪役令嬢でしたしね」
アレクシアが満面の笑みを浮かべると、あまりの衝撃にローゼリアは気絶し、後ろに倒れ、エンデに支えられる。
「うっうっ……アレクシアがこんなに笑ったのは幼少期以来かもしれません……」
「リシリュー様」
リシリューが泣き真似をすると、アレクシアはすんっ……っと表情を戻し、冷徹な視線をリシリューに向ける。
「アレクシア、あなたにフリージア役を任せてよかったです。あなたの新たな一面を見れて本当に良かった」
「……少し癪に障りますが、私は一度、演技をしてみたいと思っていたのですよ。しかし貴族の身であるため、諦めておりました。このような機会を与えていただき感謝しております、リシリュー」
「……宰相がない」
「え、あっ、申し訳ございませんでしたわ。リシリュー宰相」
「いい。つけなくていい。呼び捨てでいい。私たちは婚約しているのですから」
「いえ、私はこの舞台が終わったら婚約破棄するつもりでおりましたが」
「えええええ!なぜそんなことを!言いたしません!絶対にいたしませんから!むしろ千秋楽で結婚発表でしょう!」
「ええ……?」
(もしかしてリシリュー様、アレクシア様のためにこの舞台を……)
微笑ましい二人のやり取りを見ていると、後ろからエンデに手を引かれる。
「お嬢様、帰りますよ」
「え、いえ……私はリシリュー様とアレクシア様とこれから悪役令嬢談義を……」
「そんなもの、あとででも構わないでしょう。もう日も暮れます」
「でも……」
リシリューとアレクシアを横目で見る。
(もっとお話ししたかったけど、お二人を邪魔したくもございませんし……今日のところは退散いたしますわ……)
仲睦まじい二人を楽屋に残し、ローゼリアはしょんぼりしながらエンデに手を引かれて劇場を後にした。




