もしかして私、悪役令嬢ではない……?
「アレクシア様は、婚約者がいないと聞き及んでおりますが」
エンデが冷静に尋ねると、アレクシアはため息をつき、リシリューを睨む。
「学園在学中、悪評の立っていた私との婚約を公にするのは憚られたのでしょうね。ですから、私とリシリュー様が婚約していることは、二家のみしか知りません。まぁ、婚約者と言っても特段交流することもございませんので、あくまで形式上の婚約者でしかないのですが」
アレクシアのツンとした態度に、したり顔のリシリュー
ローゼリアは首を傾げる。
「リ、リシリュー様、悪役令嬢の概念をご存じないとことでしたが……」
「ええ、だってアレクシアのことを悪役令嬢と思ったことはありませんから」
「……私は悪役令嬢でしてよ」
「ほら、ご本人もこう言って……え?」
(今……アレクシア様の口から、悪役令嬢、と……)
「アレクシア様、今、なんとおっしゃって……」
「ですから、私は悪役令嬢です。と申し上げました」
「え……ええええええ!?」
ローゼリアは驚き慌てふためき後ろへ二、三歩後退りし、エンデに抱えられた。
凛としたアレクシアに、動じないリシリュー。
(い、一体どういうことですの)
*****
混乱する中、衣装を着ての通し稽古が始まった。ローゼリアは変わらず目を回したまま座席に座る。
相変わらずアレクシアの演技は凛々しく、力強く、そして心の繊細なところが表現されていた。
(確か、アレクシア様は、学園在学中に悪役令嬢ムーブされてらっしゃったのよね……それに悪役令嬢を知っていた……)
「……アレクシア様に確認しなければ」
通し稽古が終わると、劇場に三つの拍手が響く。
アレクシアは一息つくと、座席にいるローゼリアを睨み、踵を返す。
「……睨んでいるわけではないのですよ、あれは」
リシリューは嬉しそうに話す。この男、本当に食えない。
「勘違いされやすいだけ、というわけですね。ということは、学園内での噂は……」
「いえ、あれは本当です。庶民出身の者を厳しく叱責したり、自分を誇ったような発言をしたり」
「なぜ、そんなことを……」
「悪役令嬢、だからですわ」
ヒールが絨毯に突き刺さる音が聞こえる。ローゼリアはアレクシアが近づいてくると体を強張らせ、ぎゅっと身を縮こまらせる。
「私が、悪役令嬢としてこの世に生を受けたからですわ」
アレクシアは堂々たる出で立ちでローゼリアを見下す。
(い、一体どういうことですの……アレクシア様が自称、悪役令嬢……???)
「ア、アレクシア様……そ、それは一体どういうことですの」
「あなたは悪役令嬢というものを知ってらっしゃいますね、ローゼリア様」
「え、ええ……」
「私はこの世界の悪役令嬢なのです。おそらく。ですので、私は学園在学中、悪役令嬢として相応しいふるまいをしただけなのです」
淡々と話すアレクシアに対し、ローゼリアはついていけず、目を白黒させる。
「ローゼリア嬢、あなたも確か自称悪役令嬢でしたね。どうやらアレクシア嬢も自称悪役令嬢のようですよ」
リシリューがそう茶化すと、アレクシアは再び突き刺すような目線を向ける。
「アレクシア嬢は、ただ少し目つきが悪いだけなのです。そうですよね、アレクシア」
優しい声でリシリューが尋ねると、アレクシアは恥ずかしそうに顔を赤らめて、小さく「……まぁ」と返事をする。
「勘違いされやすいだけなのです。本当は優しいのに、顔が少し美しいが故に、悪い方に勘違いされてしまうのです」
「いいえ、勘違いではございません。私は本当に悪役令嬢で……」
「私は知っていますよ、あなたが最初、学園の皆さんに優しく接していたのに、勘違いされて傷つき、開き直って周りに厳しく接し始めたことを」
リシリューはアレクシアの肩に手を置くと、顔を覗き込む。
「いいえ、本当に私は悪役令嬢なのです。小さい頃からずっと自分を悪役令嬢だと思って過ごしておりました。しかし、抗えると思っていたのです……悪役令嬢という役目に」
耳元のイヤリングを撫でると、アレクシアは寂し気な表情を見せる。
(アレクシア様も……悪役令嬢……?)
「アレクシア様は、何故ご自分を悪役令嬢だと」
「だって、こんな吊り上がった目、人より恵まれた才能、美貌。そして自分にも他人にも厳しい性格。どうしても自分を悪役令嬢だと思わざるを得ないのですわ!」
エンデもローゼリアも絶句した……。
「まるでお嬢……」
エンデが言いかけるとローゼリアはその口を閉じた。
(私は喜んで悪役令嬢をしていたのですが、まさか役目に苦しめられているお方がいらっしゃるとは……)
ローゼリアはアレクシアを目の当たりにし、自分がこの世界の悪役令嬢ではないのでは?という疑念が脳裏に浮かんだ。




