理想の悪役令嬢に出会ってしまいましたわー!?
舞台上に次々と衣装を着ていない俳優たちが集まり、演技を始める。
冒頭は定番の婚約破棄イベント。主人公マーガレットは王子に手を引かれ、学園の卒業パーティーに現れる。悪役令嬢フリージアは苦虫を噛み潰したように顔を歪める
(すごいですわ、あの女優様……ドレスを着ていなくとも気品と美しさがあふれ出ている……)
「まさか、アレクシア嬢を女優として起用するとはな……」
「アレクシア嬢……?」
「ヴァーガンディ子爵家のご令嬢だ。昨年学園をご卒業されたのだが、在学中の素行について悪い噂があってな、婚約が破談になった後は何をしているかと思っていたが……」
「悪い噂とは?」
「庶民出身の者をいじめたり、自身の美貌や知性をひけらかしたりしていたと聞く。まぁ私やエンデとは学年が違うから実際のところはわからないが」
「それにしても美しいですねぇ……本当にご婚約されていないとは思えませんね」
アイレリアが唸りながらじっと舞台を見ると、舞台上のアレクシアはこちらを向き、アイレリアに厳しい目を向ける。その目に驚き、アイレリアが体を強張らせる。
「……でも、万が一噂が本当だとしたら、適役にもほどがありますわ……」
ローゼリアはじっとアレクシアを見つめる。すっと伸びた背丈、切れ長で涼やかな目元、長いまつげ、庶民の多い俳優たちの中でひと際目立つ。それに、所作の一つ一つに無駄がなく美しい。
「……リシリュー様はなぜ彼女をフリージア役に選んだのかしら……」
俳優は庶民出身の者が大半だ。貴族の彼女が舞台に立つには厳しい道のりがあっただろう。
おそらくリシリューがキャスティングに関係しているであろう、とローゼリアは確信した。
*****
「この度は稽古に呼んでいただきありがとうございます」
ローゼリアが深々と頭を下げると、楽屋にいた俳優たちは皆慌てふためく。
「いえこちらこそ王子様とその婚約者様に来ていただくなんて……」
俳優たちは皆顔を見合わせ、騒めく。浮足立つ俳優陣の中、一人だけ直立不動でじっとローゼリアを見つめている者がいた。アレクシアだ。
「アレクシア様。とても素晴らしい演技でした。是非本番も」
「どういう意図でこの役にご指名されたのか、お聞かせ願えますか、リシリュー宰相」
アレクシアはローゼリアの言葉を遮り、リシリューに視線を向ける。
「どういう意図?別に、適役だと思って声をかけただけですよ」
「私は俳優ではございません。なのになぜ声をかけたのか、と聞いております。それにこの役……」
「私は在学中の貴方について存じております。フリージアを演じられるのはあなたしかいない、と思ったのですよ」
「私が悪役令嬢に相応しい、とでも……?」
ローゼリアは鋭い視線を向けるアレクシアの前に立ち塞がると、目を輝かせてアレクシアをじっと見つめる。
「アレクシア様、あなた様の演技、素晴らしかったですわ!」
「な、なに……」
「悪役令嬢とは、ただヒロインをいじめる存在ではございません。才色兼備、家柄もよく、全てに優れていなければなりません!あなたの演技はそれが表現されていました!」
「……はぁ……?私はただ、普通に演技をしただけですわ」
「素晴らしい……演技をしなくともそのままで悪役令嬢だとは……」
「あなた……本当にラスティ殿下の婚約者ですの……?人のことを悪役などと失礼極まりないですわよ」
「とんでもない!悪役令嬢こそ私の理想、つまりあなたは私の理想なのですわ」
顔色を悪くするアレクシアに、エンデは「お嬢様」とローゼリアの妄想を止め、自分の元へ引き戻した。
「失礼をいたしましたアレクシア様。ローゼリアお嬢様は少し変わった嗜好をお持ちでして」
「……そ、そう、みたいですわね」
エンデに微笑まれ、アレクシアは視線を外し頬を染める。
「さ、俳優様たちも打ち合わせで忙しいでしょうから、私たちはこの辺でお暇いたしましょう」
エンデはローゼリアの背中に手を回し、ぐっと抱き寄せるように腕を掴む。
(アレクシア様……理想の悪役令嬢ですわ……そう、私よりも……)
ローゼリアは顔を曇らせて楽屋を出る。
楽屋の入り口に飾られたマーガレットとフリージアの花を見つめ、深いため息をついた。




