静かにオタ活させてくださいまし!
アイレリアを連れて下町に出ると、町中に貼られたポスターの数に驚く。
町中がリシリューの書いた悪役令嬢物の小説に彩られており、
「この悪役令嬢……なんか、ローゼリア様に少し似ていますわね。もちろんローゼリア様の方が人相がよろしいですけれれども」
「……そうね」
(リ、リシリュー様……やってくださいましたわね……!)
金髪の巻き髪、碧い瞳、どう見てもローゼリアをモデルにしたであろう悪役令嬢と、おそらくラスティ様をモデルにしたであろう王子が描かれている。
「王子も金髪でたれ目で……ラスティ様にどことなく似ているような」
「ききき気のせいですわ!ささっ、劇場へ向かいますわよ」
まだ会場前の劇場へ向かうと、顔パスで中へ通される。
悪役令嬢が登場する小説『悪役令嬢に虐げられた私は王子様に溺愛される』はまだ上演されていない。しかし、劇場入り口にはもうすでにグッズ売り場が設けられており、そこには山のようにグッズが積まれていた。
「わあ!作中で主人公が食べているクッキーですって」
「まぁ……こんなものですわね」
「どうなさいましたか?」
「いいえ、何でもありませんわ」
ローゼリアはグッズ制作の内容についてもリシリューと妄想を語り合った。出来るだけ使いやすく、作中で実際に出てくるものやモチーフグッズなどを中心に、と語るローゼリアに対し、リシリューには「こんなものが売れるんですかぁ……?」と言っていたが、まさかその通り展開するとは。
「これが君と私がモデルと言われている作品か」
「ラスティ様!?」
いつの間にか背後に控えていたラスティに驚き、アイレリアとローゼリアは左右に捌ける。
「ラスティ様、どうなさったのですか」
「最近君と話せていないから、教室へ行ったんだ。そしたら二人で劇場へ向かっていったから、こっそり後ろをつけてきたんだが」
「まぁっ、つけてこられたのですか」
「……君は自分の立場をよくわかっているのか」
ラスティはローゼリアの手を取り、指先を握る。
「わ、わかっていますとも」
「なら何故王子妃教育を拒み、エンディミオンやあまつさえリシリューとの逢瀬を重ねる!?私を差し置いて」
「あらラスティ様、嫉妬ですの?王子様だというのに器が小さいんですね!」
アイレリアの一言にラスティは感情を露わにする。
「君がいつもそばにいるせいで教室へ行ってもローゼリアと話せないんだろ!大体からして君と出会ってからローゼリアはおかしくなったんだ」
「お嬢様は昔からおかしかったですよ」
喧嘩を始めるアイレリアとラスティから引き離すようにローゼリアの手を取り、エンデはため息をつく。
「エンディミオン!なぜお前がここに」
「ラスティ様、表向きはエンデとお呼びくださいとあれほど……」
エンデはラスティに冷たい視線を向けるとため息をついた。
「貴様、アレクシュタイン家の養子だからと言ってローゼリアに近づきすぎではないか」
「ただの養子ではありません”婿養子”候補です」
「そんなもの、私との婚約があれば何の意味もないだろう!」
「この小説のように婚約が破棄されなければ、ですけれども、ねぇお嬢様」
ローゼリアは身を震わせ、拳を握った。
「皆さまお黙りなさいまし!!私の神聖なオタ活を邪魔しないで下さいませ!」
そう一喝すると、ロビー奥の階段下にいるリシリューを見つけ駆けて行く。
全員それを茫然と眺めると、ラスティはぽつりと呟いた。
「……伏兵は意外なところにいるものだな」
*****
舞台は架空の国、アレキサンドリア王国。庶民のマーガレットはシンドラー伯爵の隠し子であり、前妻が亡くなった後、伯爵に引き取られた。シンドラー伯爵にはもう一人娘がいた。それが悪役令嬢フリージアである。フリージアは才色兼備、王子のレイヴィンとも幼馴染で婚約済。しかしレイヴィンは庶民出身のマーガレットの感覚に刺激を受け、恋に落ちる。しかしそれをよく思わないフリージアはマーガレットに嫌がらせを仕掛ける……
「……私も読んだが、自分が王子であることを恥じたくなるような内容であった……」
「そうですよ!婚約者がありながら他のご令嬢に現を抜かすなんて」
「はぁ……お嬢様が可哀そうです」
劇場の席に並んで座り次々と本の感想を話す三人の後ろの席に一人で座ると、ローゼリアは頷きながら悦に入っていた。
(そう、その通りでございますわ……ってお嬢様!?)
「ちょっとエンデ、何故そこで私が出てくるの」
「だって、フリージア様のモデルはお嬢様でしょう」
「ローゼリアは誰かにこんな嫌がらせをしているのか?」
「いいえローゼリア様は悪役令嬢なんかではありませんわ!」
(は、早くリシリュー様と二人きりで作品について語りたいですわ……)
ローゼリアはぐったりと背を椅子にもたれながら天井のシャンデリアを仰いだ。




