あなたいきなりキャラ変わりましたわね!?
「何んんですかこれは」
ローゼリアの部屋にエンデの呻き声が聞こえる。
眉間に皺を寄せ、エンデは今にも本を真っ二つに破きそうなほど手を震わせていた。
「あらエンデ、やめてくださる?それは私の世界で一番大切なものでしてよ!」
「……宰相殿からの贈り物が世界一大切、ですか」
エンデから本を取り上げると、厳しい目線を向けられ、ローゼリアはそそっと後退りし、わざとらしく咳払いをする。
「で、あなたの感想はいかがかしら」
「感想、とは」
「その御本のよ。この世界で唯一悪役令嬢が出てくる物語よ。悪役令嬢というものはこういうものなのだけれど、あなたはどう思ったかしら」
エンデに詰め寄り、隣に座る。するとエンデはローゼリアから拳一つ分横へ移動すると、深呼吸して考え始めた。
「そう、ですね……もしこの悪役令嬢とやらがお嬢様だとしたら……悪役令嬢が悪役になる前に私がお嬢様を奪ってしまいたいと思いますし、王子との婚約が決められていたとしても、そんな婚約こっそりと裏で破談にさせてしまいますが」
(なんか、そんな設定の悪役令嬢物の作品を見たことがあるような気がしますわ……)
「って、なんであなたが私と結ばれる結果になっていますの!?」
「だって、私はお嬢様のことが好きなので」
「あなたいきなりキャラ変わりましたわね!?」
「……キャラ?いや、まぁ……そりゃ正体がバレてしまったので、色々と隠す必要もなくなりましたからねぇ」
しれっと話すエンデに、ローゼリアは悶絶しながら混乱する。
(な、何なんですのこの男ー……!!?)
「だっ、大体、あなた、婚約者がいるのではなくって!?私がラスティ様に嫁いだら、あなたがアレクシュタイン家を継ぐのでしょう!?」
「お嬢様のご結婚が確定しておりませんので保留にさせていただいております」
「で、でも、お話などは」
「在学中は存在を秘匿するつもりでしたので」
「えっ、あっ」
戸惑い、次第に言葉を失う。
(き、気づけばエンデとはいえ、殿方と部屋に二人きり……これはまずいですわー!?)
ローゼリアはぴょいと後ろに飛びのくと、バランスを崩し、後ろへ倒れそうになる。
するとエンデはそっとローゼリアの背中に手を差し伸べ、体を支える。
その手はローゼリアが覚えていたエンデの手よりも大きく感じた。
「と、いうわけで、私の学園在学中までに、婚約破棄イベントとやらを起こしましょうね、お嬢様」
*****
「……と、いうわけですの」
ローゼリアは深く項垂れるとため息をついた。
最近、ローゼリアは学園の園庭のテーブルにティーセットを用意し、リシリューと放課後に茶会という名のオタ活を楽しんでいる。
「君には悪いことをしてしまったな……」
「いえっ、リシリュー様にはこんな素晴らしい御本を書いていただき感謝しておりますわ」
「まさかエンディミオン様が正体を隠して通学されているとは」
「そうですわ、私どころかラスティ様もご存じなかったとか」
「ラスティ様は幼少期に交流があったはずなのですが、もしかしたら、まさか第三王子が婚約者の執事をしているとは思わなかったのかもしれませんね」
紅茶を一口飲むと、リシリューはその香りを楽しむようにカップを一回しする。
最近では周りの目もはばからずにリシリューと会うようになった。流石にオタク仲間であることは隠しているが。
「リシリュー様は、何故エンデ……エンディミオン様のことをご存じで?」
「家の関係でね、まだ隣国にいらっしゃる頃に社交の場でお見かけしたことがあったのですよ」
「よくその程度で一回の執事にしか過ぎないエンデを王子だとわかりましたわね」
「なんというか……私、その人のオーラと言いますか、キャラクター?と言いますか。まぁ、つまりは人を覚えるのが得意なのですよ」
リシリューはティーポットに手を差し伸べ、ローゼリアのカップに紅茶を注ごうとする。
するとリシリューよりも先にティーポットを掴む手が入る。
「お嬢様、そろそろお帰りの時間ですよ」
「あらエンデ、もうお迎えに来てしまったの」
リシリューとのオタ活にエンデが賛成するわけもなく、しかしどうしてもオタ活をしたかったローゼリアは「必ずエンデが見える場所で会う」「リシリュー様とのお茶会を邪魔したら絶交」という約束を交わし、エンデは眉間に深い皺を作りながら了承した。
「残念ですが、ローゼリア嬢、また今度の機会に、いい知らせをお聞かせいたしましょう」
「あら、楽しみですわね」
「お嬢様!帰りますよ」
ローゼリアの手を強く引き、エンデはローゼリアを引きずりながら家路を急ぐ。
(あれほどリシリュー様とはお友達だと言っているのに、何故そんなにむきになるのかしら……)
ローゼリアは何もわかっていなかった。




