そんなこといきなり言われても困りますわー!?
裏庭の木陰に、ローゼリアの悲鳴が轟く。
「あ、あなた、いえ、貴方様は何故王子という身分を隠して執事などをなさっていらっしゃるのですか!?」
「あ、いつも通りで結構ですよ。私は王子と言っても第三王子ですし、王位継承権はアレクシュタイン家に来た時に消滅しています。今はただのアレクシュタイン家の養子です」
「あなた、やっぱり養子だったのね!?」
「ええ」
「なぜ今まで言わなかったの!」
「だって私が来た時のお嬢様の気の乱し様を見たら、私がアレクシュタイン家を継がせるために隣国からもらい受けた養子だなどとは言えませんよ」
「あっ……」
ローゼリアは思い出す。エンデに初めて出会ったあの日、泣きじゃくるローゼリアに対してエンデは言った。「私は執事です」と。
まさかあれのせいでエンデにずっと秘密を背負わせてしまったなんて……
「まぁ、そういうわけで、これで堂々と言えますね」
「な、何を、ですの……」
エンデはローゼリアの足元に跪き、ローゼリアの手を取り、甲に軽く口づける。
「お嬢様が望んでおられる、悪役令嬢の理想の婚約者とやらに、私も立候補してよろしいでしょうか」
蒼玉のような瞳が木漏れ日に反射して、水面のように揺れる。
(ああ、これは、異国の輝きだったのね……)
「本当は次期お嬢様の婿となるべく養子になったのですが。その機が来るよりも先にお嬢様がラスティ様を婚約者に望まれたものですから……」
「む、婿!?」
「ええ、お嬢様が。ラスティ様こそ悪役令嬢の理想の婚約者ですわ!などと言い出さなければ、私がお嬢様と婚約しておりました」
「こここ、婚約!?私とエンデが!?」
「そうですよ。私は王子なのですから別に構わないでしょう。お嬢様の理想の悪役令嬢への道も邪魔しないですし」
「あっあっあっ、あなた何もわかっていませんわ!悪役令嬢の婚約者は婚約破棄イベントを起こして悪役令嬢と破局し、最終的にヒロインと結ばれる運命にありましてよ!それでよろしくて!?」
「おっとそれはいけませんね、じゃ、ラスティ様に婚約破棄されるように仕向けて、最後は私がお迎えに上がりましょう」
「悪役令嬢は悪さをしなければ婚約破棄されないのよ!?どうするおつもりなの」
頬を膨らませ、目を見開くとエンデを見上げる。
するとエンデは不敵な笑みを浮かべ、黒髪を風になびかせる。
「そうですか、しかしお嬢様、その言い分ですと、お嬢様も私に気があるように聞こえますよ?」
ローゼリアの顔を覗き込むように顔を近づけると、エンデはローゼリアを改めて愛おしそうに見つめる。
改めて見ると、繊細なきめの細かい肌、蒼玉の瞳、艶やかな黒髪……
(あれ、エンデってこんなに素敵でしたのー……!?)
今まで近くにいすぎてよく見ていなかったエンデの容姿に、ローゼリアは一歩後ずさる。
顔を背けるローゼリアに、エンデは従者のように傅く。
「今はまだ、ラスティ殿下の婚約者ですから手出しは致しません。しかしもし貴方が誰のものでもなくなったら、その時は……私が」
真剣に見上げるエンデの瞳から目が離せない。
ローゼリアの震える指先をそっと手に取ると、エンデはふっと笑って、その指先を離し、立ち上がり、背を向けた。
「仕方ありませんね、お嬢様と私の夢を叶えるために、是非、その婚約破棄イベントとやらを起こしてみせましょうか」
エンデは振り返り、少年のように無邪気に笑う。
(こんな表情、初めて見ましたわ……)
それは、ローゼリアが初めて目にした、ありのままのエンデの姿だった。




