作って布教……それが二次創作の基本ですわー!
「私は十年ほど前、この体に転生した。前世は兼業作家をしていた」
安心したのか、食前酒を口に運ぶと、表情をほころばせる。
「まぁ、そうでしたの」
「あの聖女のため息は実は私が書いた作品だ。前世でちょうど聖女ものが流行っていたからな、それだけを頼りに書いてみたんだが」
リシリューは首を傾げ、肉をフォークで切った。
「実は私は聖女ものも読んだことはないし、乙女ゲームもしたことがないのだ」
聖女のため息を見ていてローゼリアが感じたのは、これはライトノベルの体をした一般文芸であるということ。でなければ最後に執事と駆け落ちなどさせない。
「……なるほど、腑に落ちましたわ」
ジュースを口に含むと、ローゼリアはサラダを一口食べ、カトラリーを置いた。
「リシリュー様は、悪役令嬢、というものをご存じかしら?」
「悪役令嬢……ああ、昔アニメ化されたものを少し見たことがある程度、だが……」
「ご存じなのね!」
ローゼリアは立ち上がり、清らかな涙を流すと神に感謝した。
「その、悪役令嬢がどうしたんだ」
「リシリュー様、この世界には、悪役令嬢というものが存在しないみたいなのです」
「そりゃそうだろう。そもそも悪役令嬢など乙女ゲームに存在しないという話も聞くぞ」
「いいえ、概念としては存在しております。そして、実際に悪役令嬢物は世の中に広まっていた。……以前は」
「確かに、最近はあまり見なくなったような……」
「そう!悪役令嬢ものは最近の若者には好まれなくなってしまったのです!なるべく手軽に!楽しめる!そんな……作品が最近の流行りですわ……」
ローゼリアはハンカチを片手に嘆くと、リシリューの戸惑う表情をよそにつづけた。
「ですから、私はこの世界の悪役令嬢になろうと努力をしているのです……」
「……何故君はそんなに悪役令嬢になりたいんだ、なるなら聖女とかの方がよくないか」
テーブルを強く叩くとグラスが跳ね上がる。ローゼリアは目を見開き、口角を上げる。
「悪役令嬢とは、全てに優れていなければあなりません。知性、品性、身分、容姿、武芸、教養……しかし、ヒロインに嫉妬が故に悪さしてしまう。そこが悪役令嬢の唯一の欠点なのです」
「は、はぁ……」
「ですから、ヒロインに悪ささえしなければ、最強のご令嬢が出来上がるとは思いませんか?」
自信満々と胸を張るローゼリアに、リシリューは呆れ、パンにバターを塗りながら話半分に聞いていた。
「……いや、それはもはや最強の令嬢であって、悪役ではないのではないか……?」
パンをちぎり、口に運ぶと食前酒で流し込む。
(そ、それは禁句ですわー……!)
「そんな元も子もないことを言わないでくださいまし!私は、ただの完璧なご令嬢ではなく、悪役令嬢の香りを漂わせた、気高く気品に溢れた令嬢を目指しておりますの!」
機嫌を損ねると、ローゼリアは黙々と食事に手を付け始める。味付けが前世の食事に似ており、流石リシリューの行きつけなだけある、と感心した。
「……で、リシリュー様にお願いがありますの」
「何だ」
「悪役令嬢が出てくる作品を書いていただきたいんですの」
「は……?」
「そして、歌劇を通じて庶民に布教し……悪役令嬢という概念を広め、私がその悪役令嬢であるということを世に知らしめるのですわー!」
フォークから肉を落とすと、リシリューははねたソースのついた服を拭った。
「この世界に悪役令嬢の概念がないなら、作り出せばいい、布教すればいい!そうだと思いません事!?」
高らかに笑い声をあげると、ローゼリアは心が満たされていくのを感じた。
(そうですわ、ないなら作ればいい、流行っていないなら布教すればいい……二次創作の基本ですわー!)




