見つからないように脱出いたしますわ
魔法学の授業中、ローゼリアは指先に火を灯しながら考える。
(リシリュー様……あなたはもしかして)
あの概念コーデ、独特な言葉遣い、そしてあの怪しい挙動……
(あなたは……まごうことなき……オタク……!)
「……ローゼリア様……ローゼリア様……!ローゼリア様!?」
「えっ」
アイレリアの声に振り向くと、アイレリアはローゼリアを指差す。
首を戻すと、目の前の火が激しい轟音を立てて燃え上っていた。
「きゃあああああああ」
動揺するも、すぐさま反対の手で水を出し消火した。
(わ、私としたことが……これでは完璧な悪役令嬢として失格ですわ……)
*****
「ローゼリア・アレクシュタイン、王宮から手紙が届いている」
教師から手渡された手紙を受け取ると、見慣れぬ封印に首を傾げる。
(王家のものではありませんわ……ということは、王家以外の……王宮で働いている方から、の……)
「あああああああ!!!」
ローゼリアは激しい叫び声を上げると慌てて教室を出ていく。
「ローゼリア様、どうなさったのですか」
「アイレリア、私は所用がございまして、早退させていただきますわ!」
ローゼリアは光の速度で教室を出ていくと、急いで屋敷へ走って行った。
*****
部屋へ戻ると、封印を破り、手紙を取り出す。
(何だか、前世で憧れ推しにメッセージを送って返ってきたときのようですわ……)
高鳴る鼓動を深呼吸で整えると、封筒から手紙を取り出す。
そこには、王宮内部で使われている便箋が入っていた。
”次の満月の夜、劇場前で待つ。噂を立てられぬよう、必ず変装してくるように”
リシリュー・リンクター
「やっぱり……リシリュー様ですわ……」
流れるように書かれた綺麗な文字、そして意味深な言葉……
「変装、って……どうしたらいいのかしら……」
ローゼリアはクローゼットの扉を開ける。
次の満月は明日。明日までにローゼリアは貴族とバレないような恰好をして夜に出かけなければならない。
「これは難題でしてよ、リシリュー様……」
変装までならまだしも、貴族の娘が夜に出ていくなど難しい。ましてやエンデが常にそばにいる。どうやって誤魔化そう……。
(そういえば、アイレリアは寮住みでしたわよね……)
ローゼリアは手を叩くと、クローゼットからなるべく地味なワンピースを探し出し、レースやコサージュを外した。そして狩り用に使っている帽子を被ると鏡を見た。
「これで大分誤魔化せますわね……」
窓に映る、満足には足らない月を見て、ローゼリアは口角を上げた。
*****
「お嬢様、また何かを企んでいらっしゃるのですか」
背後からエンデに声をかけられ、ローゼリアは体をびくつかせる。
「あ、あらエンデ、ごきげんよう」
「……やはり、何か企んでいらっしゃるのですね」
引きつり笑いをするローゼリアに詰め寄ると、エンデは足元にある大きなカバンをひょいと持ち上げた。
「どこかにお出かけになるのですか」
かばんのチャックを閉めておいてよかった、とため息をつくと、ローゼリアは毅然とした態度でエンデに立ち向かう。
「ア、アイレリアの部屋に泊めていただくことになっておりますの!お父様には話を通しておりますわ」
「アイレリア様は寮住まいでは」
「でっ、ですから、寮にお邪魔するのですわ」
「一人部屋ではないでしょうに、お邪魔なのでは」
「ア、アイレリアは大丈夫だっておっしゃっておりましたわ」
「では、同室の方のお名前を教えていただけますか。私の方で御礼を申し上げに向かいます」
「いいわ、あなたには関係なくってよ!」
カバンを奪い、胸に大事に抱えると、エンデは目を細め、ローゼリアを見つめる。
「やはり、怪しいですね……」
ローゼリアは怪しむエンデの制止を振り切り、学園へ走って行った。
(絶対に……エンデに見つからないようにいたしますわよ……!)




