まさか、宰相様はオタ……そんなはずありませんわー!
「……あなた、まさか宰相の……」
「あーばばばば、ちょっとこっち来い!」
突然腕を強く引かれて路地裏へ連れ込まれる。
(もしかして、宰相様ではなかったのーーー!?)
目を回していると、男はフードを外し、その姿を露わにする。
「やっぱり……あなたは、宰相のリシリュー様……」
「……君は、ラスティ王子の婚約者のローゼリア・アレクシュタイン嬢だな」
名前を呼ばれると、ローゼリアは疑問を感じながらも頷いた。
「何故、私の名前を」
「王子の婚約者殿だ、当然知っている。それに公爵令嬢の名前を知らぬなど貴族の端くれにも置けないだろう」
それもそうだ。とローゼリアは間の抜けた返事をした。
「宰相様のようなお方が、何故あのような場所に」
リシリューは上からローゼリアを見下ろすと、冷たい視線を向ける。身長の違いのせい、とわかっていてもつい息をのむ。
「私はあの公演の後援をしている。あの場に居合わせてもおかしくないだろう」
それもそうだ。ローゼリアは小さく頷いた。
「って、違いますわー!私が聞きたいのはあなたのその服装のことですわ!何故執事の概念コーデをしていらっしゃるの!」
緊張してつい現世の言葉を口走る。
「概念コーデ……」
「はっ……!」
まずい、と視線を逸らすと、リシリューは顔を近づけ、ローゼリアの顔をまじまじと見る。
「君は、聖女の概念コーデをしているな」
その時、ローゼリアの縮こまった心が一気に解放した。
(仲、間……)
「わかりますのー!?」
「わかるとも。最後、舞踏会で王子と踊る時の白いドレスに、執事からもらったコサージュというコーディネートに似せているのだろう。しかしどう見てもバレバレだぞ」
「あ、あなた様こそ……」
ローゼリアは言葉を詰まらせる。しかし涼しい顔をしたリシリューを見て、つい言葉が飛び出す。
「初見の私ですら気付くような執事概念コーデじゃありませんかー!」
強く言い放つと、ローゼリアは息を切らし、肩で息をする。
「……やはり、君は……」
リシリューの声が一段冷たくなる。
そしてローゼリアの頬に手を伸ばそうとすると、強い力で叩かれる。
「お嬢様に何用ですか、リシリュー宰相」
「エンデ……」
エンデはローゼリアの手を強く引き、その身を胸に抱えた。
「おや、君はエンディ……おっと、今は学生のエンデ君でしたか」
「ローゼリア様の執事のエンデです」
「おっ、執事ですか。いいですね、そそられる……あ、いや、うん、その、ちょっと、そういうわけでは」
突如慌て始めるリシリューに、二人は困惑した。
「お嬢様をこんな路地裏に連れ込んで、何をされるおつもりで」
瞼が凹む程にエンデがにらみつけると、リシリューは両手を上げて降参する。
「別に、ちょっと”仲間”として話がしたかっただけですよ。しかし、番犬君が来たのでは今日のところは退散する他あるまい。ローゼリア嬢、また機会があれば、作品語り、いたしましょうね」
リシリューは再びフードを深くかぶり、街へ戻っていった。
「お嬢様、お怪我はありませんか」
エンデがローゼリアの両腕を掴むと、その必死さに、つい固まってしまう。
「え、ええ、別に、何も……」
ぎこちない様子のローゼリアに、エンデは正気に戻り、掴んだ腕を離した。
「……申し訳ございませんでした」
顔を背け、小さく呟く。
路地裏に吐き捨てられた言葉が、野良猫の餌になり、どこかへ運ばれていく。
「いいえ!あなたは私の番犬としてとっても優秀でしてよ!聖女のため息に出てくる執事のように、私をずっと守ってくださいまし!」
(……あれ、そうなると、エンデと私は……)
エンデは少し小馬鹿にしたように笑うと、ローゼリアの前に跪き、再び手を取った。
「かしこまりました、お嬢様」




