これは……喧嘩ップルの誕生ですわー!
「ごきげんよう、ローゼリア」
エンデを携え、久しぶりに登園すると、校門でラスティが待ち構えていた。
ローゼリアは初めての出来事に足を止める。
「ごきげんようございます、ラスティ様。いかがなさいましたか……?」
「いかが、とは」
ラスティの真面目な表情に、ローゼリアは表情を凍らせる。
周囲には慣習が出来ており、ひそひそと噂話を始める者もいた。
「どなたかをお待ちで……」
「ローゼリア、君を待っていた」
そう言ってラスティが手を差し伸べると、ローゼリアは左右上下確認し、自らを指差した。
「君以外誰がいると思っているんだ」
「え、えええええ!?」
驚くローゼリアをよそに、ラスティはその手を取る。するとエンデは眉間に皺を寄せて呟く。
「これもお嬢様の言う、悪役令嬢のセオリーなのですか」
(ち、違いますわー!)
ローゼリアは心の中で絶叫しながら目を白黒させた。
*****
授業が始まってからも、ラスティは休み時間の度にローゼリアの教室をのぞき込み
「ローゼリア、体調はどうだ」
「ローゼリア、クラスメイトとは仲良くやれているか」
「ローゼリア、花壇に咲いている花を摘んできた」
「ローゼリア」
「ローゼリア」
「ロー……」
(いい加減にして下さいまし……!)
ラスティが来ない女子更衣室に逃げ込むと、ようやく息を整えた。
「ど、どうしてラスティ様がいきなり私に構いだしたのかしら……」
ローゼリアがラスティを婚約者に、と選んだのは、第一に王子だからではあるものの、ローゼリアのことが好きにならなさそうな冷徹さが気に入ったからだ。
「と、とんだ計算違いですわ……」
ローゼリアは腰を抜かすと、天井を仰ぐ。
今ローゼリアを悩ませているのは急に自分に興味を持ったラスティだけではない。
「エンデ……」
ラスティの後ろで控えているエンデの表情が常に殺気立ち、ローゼリアの身を射抜いていた。
その表情を思い出すだけで身の毛がよだつ。
「私、一体これからどうすればよいのかしら……」
深いため息をつくと、これではいつものエンデの真似ね、と思い、くすっと笑った。
教室へ戻ると、入口で行われている口論の光景に、ローゼリアは釘付けになる。
「いくら第一王子様とはいえど、ローゼリア様を苦しめる方は許しません!」
「君は一体誰なんだ。私はローゼリアを苦しめたことなどない」
「アイレリアです!アイレリア・バーンスタイン」
「バーンスタイン……?聞いたことがないな。君、爵位は何だ」
「庶民です!」
そう自信満々と胸を張るアイレリアに、ラスティは理解が追い付かない、と言った様子で目をしかめる。
そして、その後ろでローゼリアは目を輝かせていた。
「……ローゼリア!?」
「ローゼリア様!?」
二人が振り返ると、ローゼリアは目を見開いたまま、相反する二つの感情に思考が支配されていた。
(これは……夢にも見た王子とヒロインの出会い……!喧嘩ップルの誕生……!しかし、これは……)
(私の理想の出会いではありませんわーーー!)
ローゼリアは膝を崩し、その場に倒れこんだ。アイレリアとラスティはすぐさま駆け寄るが、ローゼリアの身を起こしたのは、どこからともなく現れたエンデだった。




