優勝しまし……え、よく聞こえませんでしたわ
「さぁ、レーゼンベルク王立学園主催、武闘大会もいよいよ大詰めです!決勝は二年、エンデ・マクロウィルと期待の神聖、ローゼリア・アレクシュタインの対決。お二人は主従関係と聞いておりますが、果たして下克上を果たすのか、運命の一戦です!」
生徒会長のアズレリオの実況に熱が入る。ローゼリアはその紹介に少し恥じらいつつも、闘技場の中央部へ進む。すると反対側からため息を吐きながらローゼリアを見つめるエンデが見える。
(残念ながら、私は負けませんことよ。たとえあなたが相手でも。私はヒロインと王子の、最高の運命の出会いを完璧に演出いたしますわ……!)
高笑いをこらえ、目を見開くローゼリアの顔を見て、エンデは呆れたように目を細めた。
「礼っ!それでは始め!」
号令と共に剣先が火花を散らす。
「お嬢様、力任せの剣技は私には通じないと先ほど申し上げたでしょう。おとなしくしてくだされば優しく片を付けて差し上げるというのに」
「この戦いで私の今後が決まると言っても過言ではありませんわ。私のために成敗されなさい!」
剣の動きが見えないほどに2人の動きは素早く、観客は歓声を上げる。
「おおっと、あまりにも素早すぎて実況も付いていけません!」
などと実況があおる。ローゼリアが恥ずかしさにほんの少し身を縮こまらせると、その隙にエンデがローゼリアの剣を弾く。身をよじったローゼリアが後退りすると、エンデは更に深く踏み込んだ。
「お嬢様は、お嬢様に興味を持たれないラスティ様だからこそっ、ご婚約を申し込まれたのではありません、かっ!」
するとローゼリアは素早い身のこなしで横に転がり、エンデの剣を交わすと、すぐさま弾かれた自分の剣を取った。
「その通りよっ、私はこの武闘大会で優勝を果たし、ラスティ様に……ヒロインとの運命の出会いを果たしていただくのよ!」
その言葉に、エンデは戸惑い、剣先を浮かす。
「ヒロイン、と……?」
瞬間、ローゼリアはエンデの剣を弾き、すぐさま喉元に切先を突き付けた。
エンデは剣を追うことが出来ず、ローゼリアを見上げる。
「優勝は、ローゼリア・アレクシュタイン公爵令嬢!素晴らしい戦いぶりでした!」
実況が勝利を告げると、観客席は歓声にあふれ、ローゼリアの名を呼ぶ声が闘技場に木霊した。
ローゼリアは観客に手を振り、理想の令嬢をふるまって見せる。
「お嬢様、まさかあなたに負けるとは……私の腕も鈍りましたかね」
「いいえ、あなたはなにも鈍っていないわ。私が優れていただけよ」
鼻高々と誇らしげに胸を張ると、待機席にいるアイレリアに視線を向け、微笑む。
(ヒロインの力でもぎ取った勝利でヒロインと王子の運命の邂逅を演出する……最高ですわ)
「お嬢様、もしや、何らかの不正を働きましたね」
エンデが追及の目を向けると、ローゼリアは背筋を強張らせる。
「な、何のことかしら」
あからさまに視線を逸らすと、ローゼリアはぎこちないステップを踏んでアイレリアの元へ駆けていく。
「ローゼリア様、おめでとうございます!これで、ラスティ様とのご婚約も確固たるものとなりましたね!」
ローゼリアは固まった。
「アイレリア、何をおっしゃっているのかしら」
アイレリアが不思議そうに首を傾げると、後ろからエンデの深いため息が聞こえてくる。
「エンデ、どういうことかしら」
ローゼリアが問うと、闘技場の中心にしゃしゃり出てきたアズレリオが高らかに宣言する。
「武闘大会初の女性優勝者です!今までの優勝者は男性だったので、褒賞は王家の方に一つお願いごとを叶えていただける、というのが慣例となっておりましたが、実は優勝者が女性だった場合の褒賞は、別にご用意されております!それは、なんと……」
観客は息をのみ、ローゼリアは目を輝かせる。
「王家の方とのご婚約です!ただし、ローゼリア様はもうすでに第一王子ラスティ様とご婚約済とのことですので、これからローゼリア様はラスティ様とのご成婚に向けた準備に進まれることとなりました!おめでとうございます!」
闘技場が地響きを立てて揺れ動く。
ローゼリアは足元が揺らめき、ふらふらとエンデの方へよろめいた。
「私と、ラスティ様が、ご成婚……?」
「やはり、知らずにご研鑽されておりましたか……」
エンデはローゼリアの体を支えると、ため息をつく。消えゆく意識の中、王子様のような姿のエンデが映った。




