こんなことで動揺する私ではありませんわ
武闘大会はつつがなく進行し、ローゼリアは順当に高学年の選手たちを倒していった。
「ローゼリア様、流石です!」
アイレリアの声が控室に響く。
「こほんっ、アイレリア、他の方もいらっしゃいますのでお静かに」
「すっ、すみません!」
アイレリアは反省した様子で、ローゼリアの足元にちょこんと座った。
「それにしても、まさか決勝の相手がエンデ様だとは……」
「そうなのよね……」
(まさか、決勝戦の相手がエンデだなんて……)
深いため息をつくと、ローゼリアの背中に影が落ちる。
「一体、ラスティ様に何をお願いしたいのかしら……」
エンデはローゼリアが悪役令嬢になりたいことや、ヒロインの存在を知っている。
(もしかしたら……私が悪役令嬢になることを阻止しようとしている……!?)
だとしたら考えられるのは、ローゼリアとラスティの早期結婚、ヒロイン潰し……どれもローゼリアを悶絶させるものばかりだった。
「四の五の言っている場合ではなくてよ!アイレリア、私の手を取りなさい!」
「はいっ!」
アイレリアは目を瞑って、ローゼリアの両手を握り、瞑想を始めた。
「何を小賢しいことをしていらっしゃるのですか」
「エンデ!」
「そんな弱小な光魔法では、今まで負った傷など癒えないでしょうに」
ローゼリアの全身を見渡すと、エンデは鼻でため息をつく。
「私はお嬢様に傷一つつけるつもりはございませんが、手加減するつもりもありませんよ」
あからさまに「自分の方がはるかに実力が上なのだ」と示されたようで、ローゼリアは理解しつつも反撃した。
「ええ、知っていますとも。あなたとは訓練で剣を交え、魔術を共に鍛えた仲。しかし、今日の私はあなたの想像する私ではなくってよ」
大見得を張ると、エンデは寂しそうに顔を曇らせた。
「……先ほどの試合、見ておりました。……途中、試合に割り込んで、あなたの手を引いて逃げようかと思いました」
「えっ」
「あまりにも稚拙な剣捌き、力では男性に勝てぬというのに力技のごり押し、魔術も考えなしでとにかく魔力を注げばいいと思っている。お嬢様、あなたはもう少し頭を使って戦うべきです」
情緒的な台詞から突如として普段通り嫌味を放つエンデにローゼリアは呆れてしまった。
「エンデ、あなたって人は……」
「でないと、玉のような肌に傷を作ることになる」
エンデはローゼリアの手を取ると、指先の傷に口づけた。
「……ローゼリア様が何を考えてラスティ様との仲を深めようとなさっているのかはわかりませんが、私はあなた様に勝利いたします。早めの辞退を願います」
「わ、私は辞退などしなくってよ」
たじろぐローゼリアに、エンデは小悪魔のように笑いかけた。
「ならば、今まで通りの素直な戦い方をなさって下さい。それだと、私もあなたに傷一つつけることなく倒せます」
そう言うと、エンデは背中を向けて去って行った。
馬鹿にされていることは理解していたが、それ以上に、エンデに口づけられた指先が熱く、今はもう、それしか考えられなかった。




