あなたの力は誰かのためにあるのですわ!
ローゼリアは授業の合間の休み時間さえも研鑽を惜しまなかった。エンデにバレたら、また鋭い眼光が飛んでくるのは明白だったため、校舎裏や軒端の陰で剣を振るい、魔力を高める瞑想を行っていた。
「ローゼリア様、こんな所にいらっしゃったのですね」
アイレリアはパンを咥えながら、ローゼリアのいる校舎裏へたどり着く。
「あらアイレリア様、口に物を入れて走るのははしたなくてよ」
「すっ、すみません!」
慌ててパンを口の中に押し込むと一気に飲み込む。まるで蛇が卵を飲み込む姿に似ている、とローゼリアは血の気が引いた。
「訓練のお邪魔でしたでしょうか……」
「いえ、ちょうど集中力に欠けてしまっていた所でしたわ……ところであなた、気になる殿方とはどのような出会いを求めていらっしゃるのかしら?」
ヒロインと王子の運命的な出会いのパターンが、ローゼリアの頭の中に無限に沸いて訓練に集中できずにいた。アイレリアは様子のおかしいローゼリアの姿に首を傾げる。
「気になる殿方、とは……気になる時点でもう出会っているのではないですか?」
(た、確かに……!そうですわ……!)
ローゼリアは小さく咳をする。
「き、気になると言いますか、理想の殿方と言いますか、そういう方との運命的な出会いといいますか、ありますでしょう?」
「えー、私はご飯をいっぱい食べさせてくれる方が理想なので、そうですね、食堂で大盛定食をおごってくれるとか?」
(な、何ですの、その色気のない出会いは……!)
あまりの価値観の違いに、ローゼリアは開いた口がふさがらず、固まってしまった。
「ですから、ローゼリア様はある意味理想ですね、殿方ではありませんが」
満面の笑みを浮かべるアイレリアに、ローゼリアは満更でもなさそうに赤面した。
「とっ、とにかく、もっと優美で!情緒的で!運命的な出会いを考えておいてくださいませ。武闘大会が終わるまでに」
「はい……?わ、かりました……?」
理解できていないアイレリアをよそに、ローゼリアは立ち上がり、再び剣を取る。
「あっ、ローゼリア様、手の甲に傷が」
アイレリアはローゼリアの手を取ると、静かに祈りを捧げる。以前見た光の球が、少し大きくなっていた。
「あなた、やればできるじゃない」
「こないだはなんでできなかったのかな~……」
「でも、別に完全に傷が癒せるわけではないのね」
傷は止血したものの、完全に治癒したわけではなかった。まだ魔力が少ないからだろうか。
「う~ん、まだまだですねぇ。こないだより成長したと思ったんだけどなぁ」
アイレリアは胡坐をかくとため息をついた。ローゼリアはアイレリアの膝を叩き、礼儀をただすと、剣を振り始める。
「……これは」
剣が雲のように軽い。試しに空を切ると、風を切る音が鋭い。舞い散る花びらを剣先で射ると、あまりの体の軽さにローゼリアは感嘆の声を漏らした。
「ローゼリア様、すごいです!」
その麗しい動きに、アイレリアも歓声を上げた。
ローゼリアは思わず、アイレリアの両手を握る。
「あなたが何故、検査の場で能力を発動できなかったのか、ようやくわかったわ」
「えっ」
ローゼリアはまっすぐアイレリアの瞳を見つめ、その温かな手を握った。
「あなたの力は、誰かのためにあるのね」




