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八節

それから数度、デミジャイアントと戦った。


このモンスターは本来、体長50cmほど。肌は紫色であそこまでの素早さは無いらしい。

これはリスナーの話であるが、ミラによる裏付けも済ませているので、信憑性は高い。


「となると、何かのイベントが発生している……のか?」


「その可能性が高いです。ただ、RFOでその様な突発的イベントは観測されていません。また、運営からの告知に該当するものもありませんでした」


つまり。


「バグ……なのか?」


どうしてこうも俺ばかり巻き込まれるのか。運が良いやら悪いやら。

そうなら一度引き返すべきか。

判断に迷うところだ。答えを求めてリスナーの言葉に視線を向ける。


『突発的なイベントっぽいけど……』

『バグではありませんよ』

『運営のイベント告知見たけどそれっぽいのないよ』


いつも通りの反応。

やはりコメントを参考にし過ぎるのは良くないな。


「ミラ、これがバグだったとして、俺が処罰対象になる事はあるかな?」


「その可能性は低いかと。

 あくまでこの事象を悪用しない事が前提ですが」


そうか。BANされる可能性は低いのか。


──デミジャイアント、強い。

──このバグ、楽しそう。


何ならこの異変は、イベントの可能性すらある。世界で初めての異変イベントを攻略する俺。

良い。とても良いぞ。とても配信映えする上に、かっこいい良いじゃないか。


「ミラ! 予定変更だ!

 このダンジョンをくまなく探索するぞ!」


「オーナー・チリアクタ。この頻度での戦闘を繰り返すと回復薬のストックが……」


「いや、問題ない。

 エリアボスにとっておこうと思ったが、ゴブリンナイトやスカーベアを出す。それで俺たちの消耗は避けられるはずだ。最悪、テイムしたばかりで回復していないモンスターも戦闘に出せばリサイクルが効いて戦力が枯渇する事はない。

 あと、もしも俺たちが倒されても街に戻るかダンジョンの入り口に戻されるだけだ。行くぞ」


「……申し訳ありません。オーナー(・・・・)チリアクタ(・・・・・)の口調が早すぎて聞き取れませんでした。再度ご指示を──」


「あー、とにかく探索だ」


そんな事よりも。


「俺の呼び方、何とかならないか?

 ミラも呼びづらいだろ」


「私を気遣っての事でしたら問題ありません」


「いや、そうじゃなくて……。もっとラフな感じに呼んで欲しいんだよ」


「承知しました。候補をピックアップしましたので、以降からお選びください。

 マスター、チリアクタ様、アクタ様、マスターアクタ、主様、主、ご主人様、旦那様、お師匠様……」


「あぁ、もう! 適当に呼んでくれ!」


「承知しました」


ともかく、鉄の森をくまなく探索する事が決まった。これで配信が盛り上がるぞ。



*****



──1時間後。


結論から言おう。何も無かった。

マップをくまなく探し回ったが、驚くほどに何もなく、マップ通りのダンジョンだけが広がっていた。


変わった物があったとすれば、回復薬のストックくらいな物だ。


現在、俺たちは洞穴の中で身を休めている。

ここはいわゆるセーフティーゾーンだ。モンスターがポップする事も、侵入してくる事も無い場所。

安心して身体を休められるが、状況が好転する事は無い。


さてどうしたものか。


頭で現状を考えてみる。が、何も浮かばない。


洞穴の壁を見つめると、そこには古代人の落書きのような絵が描かれていた。


大きな木と、たくさんの人

戦う人と巨人、燃える木

灰にまみれた人と、残った世界


絵の下にはルーン文字がある。

ミラから考察勢のうんちくを聞いた後なら何となく分かる。アレがこの世界の歴史とやらなのだろう。

今はこんな物を見ている場合では無い。


「八方塞がりだな──」


その時、見慣れない通知が見えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

フリッグ@アース神族 さんから

スーパーチャットが届きました。

100,000JPY

『その洞穴の最奥に隠し扉があります。

 スイッチはその脇に。

 私からの贈り物(・・・)、喜んでいただけると幸いです』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


人生二度目のスーパーチャット。

こう応援してくれる人がいると嬉しいね。


えーっと、いち、じゅう、ひゃく……、十万円!?


「う、うぇえ!? フリッグさん、こんな額大丈夫ですか!?

 あ、あり、ありがとうございます!!」


『チリアクタ落ち着けw』

『子どもにポンと渡す額じゃない……』

『フリッグさん太っ腹!』


他のコメントを流し見しつつ、ミラへ声をかける。


「ミラ、奥にスイッチがあるらしいぞ!」


「解析します。

 ──そのような情報はどこにも……」


「行けばわかるだろ! 行くぞ!」


スーパーチャットに従って奥へと進む。

そこは自然にできた穴の終わりと言うより、人工的に作られた壁の様だった。


──その脇には、小さな凹み。


それに触れる。

すると大きな地響きを立てて、壁が開く。地下へ続く階段が露わになった。



*****



暗い空間。

足元はほんのりと明かりが灯っており、辛うじて歩く事には困らなかった。

ガシャリ、ガシャリと重たげなミラの足音だけが響いている。


『まじで隠しダンジョンじゃん』

『え、世界初?』

『フリッグさんすげえw』


暗い視界の中で、コメントの文字だけが異様なほどくっきりと見えた。

階段を下り切り、真っ直ぐと続く廊下に出る。それは狭かった階段とは異なり、とても広い空間だった。高さは10m以上。横幅も大型のトラックがすれ違えるほどだ。


「何だここ。通路……だよな?

 いや、地下水道とか──」


俺の言葉をミラが否定する。


「ご主人様、床の痕跡を見る限りどちらも違うようです。そもそも、この世界の文化レベルではこの空間を建築する事は不可能かと」


「ミラ、その呼び方はやめてくれ。

 ……とにかく、人には作れない建物って事だな」


つまり。

その答えをリスナーが綴る。


『隠しダンジョンどころの話じゃないぞ!』

『こんなマイナー配信でやっていいのかw』

『誰か考察勢に配信URL送れ!』

『ミラちゃんにご主人様って呼んでほしい』

『ツウィルターに載せておけ?』


コメント欄はお祭り騒ぎ。

これで何も無かったら、どうなるのだろう……。まあ、その時はその時だ。

真っ暗で広い廊下を進んでいく。


数分と経たない内に、状況に変化が現れた。廊下の最奥にたどり着いたのだ。そこは周りに比べ、ほんのりと明かりが灯っている。


「何だこれ……」


俺は視界の情報を処理し切れず、感情を漏らす事しかできなかった。


見上げるほどの大きな扉。

取っ手のついた立派な物。


──しかし、誰のための物だ?


そして何より。

扉をキャンパスに洞穴の絵とルーン文字が描かれていた。相変わらず内容は分からないが、描かれれている物が違う事だけは理解できる。


『何これ?』

『ヤバそうなのは分かる』

『誰かルーン文字読んでよ』


扉の絵を見つめていると、静かなその場に声が響き始めた。鈴の音が鳴るような、清流が小川を流れるような、心地よい声。

ミラだ。


「戦利品の運用について」


彼女は一切の躊躇無く続ける。


「はじめに。これは勇者の御霊(エインヘリヤル)計画の基礎を作る物である。完遂するまで一切の不備なく運用することとする」


「一つ、無垢の民を彼女に捧げること」


「二つ、必ず胎内に埋め込むこと」


「三つ、生成された魔物を適切な環境に放つこと」


「四つ、魔物の定着を見守ること」


「これを以て、新たな英雄の礎とする」


鈴の音は止んだ。

再び静寂が訪れる。

コメントも一切流れない。


「……は?」


【視聴者298】

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