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二節

きりんとの激闘。

シャドウドラゴンの入手。

クラヨシへの到着。

そんな目まぐるしい1日を超え、新しい朝がやってきた。燃える様な朝だ。いやむしろ、寝て起きたら燃えていた。

バーニング&モーニングだ。


「うん、空気が美味い! 美味いぞ! 快晴だ!

 今日はきっと良い日になる!」


俺は自分を納得させるように叫んだ。周りの視線が突き刺さるが、今の状況に比べれば些細な事だった。


『きりんに謝罪しろ』

『ドラゴンを返せ』


コメントがいつもより刺々しいのを感じる。今朝からこれである。

昨日、全ての問題は解決した。そのはずだった。

にも関わらず、新たな問題が、いくつも(・・・・)発生したのだ。そしてその問題の一つが、俺の呟きを拾う。


「オーナー・チリアクタ。

 本日のRFOは1日を通して曇り。現在の天候から演算し、ところにより雨の予測が立てられます。

 お望みならば、傘を持って……」


「違う! 今のはそう言うのじゃない!」


「承知いたしました。

 会話ログから認識を抽出。以降のコミュニケーションへ適応させます」


『噛み合って無いね』

『こいつ何できりん顔でサブアバター作ってんのw 煽ってるだろw』


俺は深くため息をついた。昨日から連れているAIのミラ、彼女はどうも冗談が通じない。俺は基本的に冗談を言っていないと呼吸が出来ないタイプだ。つまり、馬が合わない。これならゴブリンの方が……。


思考にしこりを感じた。ゴブリンもAIで動いてるんだよな? それにしてはどうも……。

一人考えていると、一つの足音が近づいてくる。


「すまない……待たせたか」


──くたびれた初期装備を着た男。

昨日のMVP、サイトウだ。


「いえ、俺も今着いたところですよ」


俺は爽やかに返した。しかし、横のAIが横槍を入れてくる。


「いいえ、オーナー・チリアクタは30分前からコチラに……」


『ミラちゃんにバラされてて草』

『謝罪配信のご予定は?』

『さすがにドラゴン強奪はやり過ぎです』


「あぁもう、やめてくれ!」


ミラにもコメントにもうんざりだ。

俺の前で歩みを止めたサイトウは、ミラを一瞥する。


「サブアバターのAI……か?」


「その問いを肯定します。

 私はサイシス搭載型補助AI、プレイヤーネームをミラと申します」


「ほう……。最近のAIは賢いものだな」


今日はクランメンバーとの顔合わせ予定日。サイトウと共にクランホームを訪れるため、ここで待ち合わせをしていたのだ。


「彼女も連れて行くのか?」


「なんか、俺から離れられないらしくて……。

 クランホールの外で待機してもらおうかとは思うんですが」


「……問題無いだろう。

 むしろ、ここまで上等なAIを積んでいるのは珍しい。アイツらも面白がってくれると思うが……」


「いえ、余計な火種は持ち込みたく無いので」


「……まあそうだな」


俺の言葉からサイトウは察してくれたみたいだ。

今の俺は炎上中。配信者の集まりにAIを連れて行って、余計に燃料を投下する危険は避けたかった。

気を遣ったサイトウが話題を変える。


「ところで、彼女は全くラグが無いな。

 かなり上等な機器を使っているだろう」


「上等、なんですかね」


比喩のひの字も理解できてない様子ですが……。まあサイトウが言うなら、そうなのだろう。


「搭載型のAIは、使い手に馴染みやすいようにある程度の余白を持たせて出荷されている。

 君とのやりとりを経験させれば、気の合う相棒になるだろうさ」


「サイトウさん、詳しいですね」


「まあ、この手の分野で飯を食ってるからな。ある程度は詳しくなるさ」


実に頼りになる男である。



*****



俺とサイトウは、クランホームが立ち並ぶ区画へとやって来た。高級住宅街、そんな雰囲気だ。


「着いたな」


「ここが仁義必果会ですか……」


真っ黒な外壁。四角い形。クラン名の割に、現代建築をモチーフとした建物だった。

ここに、反社的名前を付け、サイトウを監獄に入れた、クランメンバーがいる。そう考えると足が竦む。


『さすが配信クラン、オシャレだね』

『ここ住みたいわ』

『きりんさんに謝られては?』


しかしサイトウに迷いは無い。

彼は躊躇いなくドアを開けた。


「え、ちょっとま……」


真っ黒なドアの先から光が差し込む。

瞬間。


パン。

──爆竹を鳴らした様な、乾いた破裂音が響いた。


「「ようこそ、仁義必果会へ!!!!」」


紙吹雪が宙を舞う。

色とりどりの装飾が壁を覆う。

何よりも目を引くのは、垂れ幕の文字だった。

【祝!! 新メンバー!!】

驚き呆然とする俺に、サイトウは口を開く。


「な、気の良い奴らだと言ったろ?」


それを皮切りに、クラッカーを握ったクラメンが一斉に話しかけてきた。


「初めまして! 星ななです!」

「よろしくぅ! サーシャ・ヴァレンティンだヨン! サーシャって呼んデネ!」

「また若そうなのが入ってきたねぇ。

 我は芽吹ショー、楽しくやろうや」

「君が噂のエクストラ? スッゲェ炎上してるけど大丈夫そ?」


それは線を抜いた水のように、一気に俺へと浴びせられた。

人見知りな俺は当然。


「え、えと……その……」


『い・つ・も・の』

『出たコミュ芸w』

『自分が悪い事したって自覚ある?』


誰に何と答えれば良いのやら。君達、落ち着きたまえよ。そう言いたいが、口が回らない。流れるコメントも相まって、脳の処理が追いつかない。

収拾のつかない状況に、助け舟がやって来る。


「はーい、みんな。一旦落ち着こうね。新人君も困ってるし」


柔和な顔立ちの美男子だ。

それでいてカリスマ性が滲み出ており、リーダーと言う言葉を背負うに相応しい人だと感じる。

きっと彼がクランマスターなのだろう。

サイトウが続けて話す。


「相変わらず賑やかだな。

 一応サブマスターの帰還でもあるだが……。ツカサ、俺の存在を忘れてはないか?」


「いやあ、伝えてはいたんですが、皆んな話題の人と会えるのが楽しみだったようでして」


「まあ仕方がないか」


二人の瞳が俺に向く。話題の人? あー、炎上している事についてだろうか。

とにかく場は収まり、一同は大広間に並べれられたソファへと腰掛ける。それは大小様々、デザインもバラバラ、統一感を全く感じないもの。ただ綺麗な扇状に並べられており、それはクランのまとまりを示しているようだった。


各々が着席したのを確認し、柔和美男子さんが口を開く。


「えー改めまして、チリアクタさん。

 仁義必果会にようこそ。クラン参謀の宮使ツカサです」


マスターでは無かったらしい。いや、その役職はむしろ彼の魅力を引き立てているだろう。参謀の優男。裏がありそうでカッコいい。


「今日から仁義必果会に正式な加入をしていただく事になります。それにあたり、細やかながら歓迎会をさせていただくことになりました。

 では、クランマスター。挨拶を」


「え、あ、俺?」


顔を布で覆った男。

服装は……和服? 平安時代の貴族が着ていそうな白い服。

獣耳と柔らかそうな狐の尻尾。

謎に満ちた人物が、驚いた口調で返事をした。

少しの間を置き、漢は立ち上がる。


「すーっ……。クランマスターの転狐シンです。クランマスターをやらせてもらってます。

 まあ、こんな感じなんで、よろしく」


雑だ。誠に雑。

責任感とか、誇りとか、そう言う類いの感情を一切感じない挨拶。よくゲーム配信者は社会に不適合な人物が、と言われるが、その典型的なタイプが出てきたな。

そんな感想を抱いた。しかし、コメントの反応は意外なものであった。


『て、転狐シン!?』

『ここのクランマスターだったのか!』

『シン様登場!!』

『えぐいえぐいえぐい』


朝から大荒れしていた配信が、いつの間にかその影すら無い。熱狂とも言える盛り上がりを見せていた。


『男配信者の頂点!』

『配信の天才!!!』


転狐シン。

その名前を反復してみる。……あ、知ってるかも。

ゲームの宣伝、カップラーメンとのコラボ。果ては化粧品の広告まで。この国で彼の姿を見ない日は無い、そう言うレベルの有名人だ。それに気付かない俺もなかなかだな。


──どうやら俺は、とんでも無い所へ来てしまったらしい。


【視聴者:156】

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