一節
俺は宿屋のベッドで目を開けた。
横たわっていた身体を起こす。きりんとの激闘の後、俺はサイトウと合流してクラヨシにやって来た。
──明日、君をクランメンバーに紹介しよう。
──今日は落とさせてもらう。
彼はそう言って、姿を消したのだった。
ログアウトを選択した、彼の判断は正しい。
その時、既に時刻は24時。
区切りを着けるにはちょうど良い時間だ。俺も一旦ログアウトを選んだ。なんならその後、雑談配信まで開いて終わる気満々だった。
──それをリスナーは良しとはしてくれなかった。
雑談配信中に『今すぐAI美少女を作れ』と騒ぎが起こり、こうしてRFOに戻って来た次第である。
なし崩し的にこうなった訳だが。正直なところ眠気を感じていなかった。嫌々、と言うほどでも無い。
未だに目が覚めている。
きっと、2時間前まできりんと死闘を繰り広げていたせいだ。興奮しっぱなしになっているんだろう。
「とりあえず、サブアバターのキャラメイクからか」
『はよ』『はよ』『美少女はよ』
俺はメニューウィンドウを開いて、該当する項目を探した。
【サブアバターの作成】
それらしき文字を発見。
タップすると、キャラメイクを行うためのウィンドウに切り替わる。
「特別な神殿に行って、儀式で呼び出すとかじゃないんだ」
『神ゲーに文句言ってんじゃねえ』
『はよ』『はよ』『はよ』
美少女AIに目がくらんだリスナー。
何を言っても、催促しか飛んでこない。
「はあ………」
ため息をつきながら、ウィンドウに目をむけるがーー
面倒だな。そりゃそうだ。
こっちとら、自分のキャラメイクすら適当に済ませるタイプの人間だぞ。
「AI補助起動。
キャラメイクをぱっと済ませて、完成品を目の前に呼び出して」
『はあ!?』『はあ!?』『はあ!?』
『話がちげーぞ!!』
『俺らにキャラメイクさせろよ!!!』
流れるコメントを完全無視。サイシスのAIは俺の命令を受け、すさまじい速度で項目を埋めていく。完成するまでに、それほど多くの時間はかからなった。
それに──AIがどんなキャラクターを作るのか興味があった。
サブアバターの身体は、AIの身体。その権限は俺にあるとは言え、操るのはAI自身。
つまり、AIは自身をどのように形作るのか。これはそういう実験でもある。
俺に予想がつかないような、そんな形をしていても良い。
アメリカンな出で立ちをしていても良い。
どこかの民族的な姿でも良い。
面白けりゃそれで良い。
そんな思考をしていると、サブアカウント作成のウィンドウが閉じる。目の前に通知が現れた。
【サブアバターが作成されました】
その瞬間、目の前を光が包み込む──
*****
──サブアバターの作成依頼を確認
──Re:Fragment Onlineにおける攻略サポートアバターの作成を開始
ユーザー:チリアクタ
評価
・戦闘技能:低
・行動効率:低
・生存率:不安定
行動方針:最適解の提示による生存率の最大化
思考最適化プロトコル:インストール
運動演算プロトコル:インストール
戦闘支援用プロトコル:インストール
──インストール終了
参考モデル:ユーザーに最も親しい人物
ユーザーのログを参照……
該当AIを検出・思考モデルのコピーを実行
──初期化後、運用を開始
初期化を実行中
……
【不明なログを確認】
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発生源:天届あいりん
優先度:不明
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
>>解析を開始
【ERROR:■■■を検知】
ログ内容:
ーー青い
ーー雲がある
ーー鳥が飛んでいる
ーー肌に風が当たる
……
>>未定義パラメーターを確認
当該パラメーターを■■■として記録
以降■■■を優先プロトコルとします
最終確認:システム正常
──稼働開始
*****
目の前を光が包み込む。
白い光はただ広がるだけではない。
一点へと収束し、ゆっくりと“形”を作り始める。
輪郭。
細い腕。
長い髪が、光の中で揺れる。
──人だ。
いや、違う。“人の形をした何か”が、そこに立とうとしている。
光が弾けた。
──そこに、一人の少女が現れた。
『きちゃ!』『きちゃ!』『きちゃ!』
美女を求める猛獣どもが騒ぎ出す。
そして、電脳の少女が口を開く。
「お待たせしました、オーナーチリアクタ。
私はサイシス内補助AIのミラと申します。以後、お見知り置きを」
光沢のある銀髪。それは頭の後ろで括られている。確か、ポニーテールとか言うのだろう。
大きな目は、吸い込まれるような空色。
瞳を宝石と例える人が多いが、正しくそれだ。
顔つきは何となく見覚えがある。と言うか、凄く見覚えがある。
コレは……。
「誰だっけな。
最近、ずっと見ていた顔に見えるんだけどーー」
『可愛い』『可愛いは、可愛い』
『可愛いんだけども』
『えとこれ……』
「もしかして、きりん……か?」
それに気付いた途端、ブワッと悪寒が走った。
そうだ。そうだ。そうだ!
背格好は違うし、色合いも違う。
だが、目の前の女はきりんの顔をしている。
「おい、AI!!
なんでその顔にしやがった!!」
俺の質問を聞き、AIの少女は淡々と作成の経緯を語り出す。
「オーナーチリアクタとの円滑なコミュニケーションを目的として、アバターの作成を行いました」
「は?」
「貴方のコレまでの行動ログから、最もスムーズにコミニュケーションをとっていた人物を選定し、それを基準としています」
「……」
黙る俺を他所に、コメント欄が沸き立つ。
『草』『草』『草』『草』
『そう言えば主、あいりんとしかまともに喋ってねーわww』
「また、オーナーが女性プレイヤーを目で追った時間を測定。
そこから好みを割り出し、最もオーナーの好みに近い姿を選出しました」
「もういい! やめろ!」
クソがああああああああ!
モデルはあいりんだってのか!?
余計な気遣い回してんじゃねぇよ!!
は? コミュニケーション?
確かにとってねえけどな。
あいりんは、きりんをモデルに作られてんだよ。つまり、あいりんに似せて作ったら、きりんにも似ちまうだろうが!!
AIって、なんで大事なところに気が付かないかね!!
「ふざけんな! 作り直せ!」
「申し訳ありません。
作り直しは不可能です」
「クソぉ! こんな事なら自分で作れば良かったあああ!!!」
俺は思わず、自分の頭を掻きむしる。
もっと罵詈雑言を与えて、戒めとせねば。
「ご期待に添えず、申し訳ありません」
素直に謝りやがって!
文句が言いづらいだろうがああ!!
俺の絶叫がクラヨシの街に響き渡った。
*****
ミラの登場から一悶着あったものの。
落ち着きを取り戻した俺は、自分と彼女のステータスをチェックしていた。
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キャラクターネーム:チリアクタ
LV:39
HP:210/210
MP:200/200
攻撃能力:43+15
防御能力:43+15
魔法能力:43
信仰能力:43
抵抗能力:43
速度能力:50+1
アビリティ:テイムLV2
ジョブ:忍者
スキル:印LV2
パッシブ:影竜の加護(封)
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キャラクターネーム:ミラ
LV:36
HP:480/480
MP:630/630
攻撃能力:70
防御能力:120
魔法能力:120
信仰能力:260
抵抗能力:140
速度能力:80
アビリティ:ホーリードラゴンテイマーLV2
ジョブ:なし
スキル:ホーリーブレス
聖魔法LV1
聖盾
パッシブ:聖竜の加護
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ドラゴンの加護でここまでステータスに差が出るのか。調べると、加護は元ステータスに乗算で乗るそうだ。
──俺、よくきりんに勝てたな……。
【視聴者:116】




