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二十三節

それは、正しく業火。

熱風が本能的恐怖を煽り、眩い光は、直視する事すらままならない。

そんな激しい火の中から、人影が現れた。


「アクタ……。久しぶり……だな」


「一週間も経ってないですよ! サイトウさん!!」


これが俺の秘策。ためしの遺跡の囚人、サイトウである。俺の唯一のフレンドにして、大物配信者。

彼から届いたメッセージは、こうだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

送り人:psy10

件 名:勤めを全うした


件名の通りだ。

俺はようやくLV上限を叩く事ができた。

予定よりも少し早めに終わったのは、君が神ゲーと言った世界を、早く歩いてみたいと思たからだ。

年甲斐も無くはしゃぐ、馬鹿な大人と笑ってほしい。

とにかく、昨日から寝ていないので今から寝る。


明後日には君に追いつこうと思うので、合流場所を教えてほしい

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


サイトウがくれば百人力。

まあ、サイトウが夜叉マルに勝てるかは分からん。確かに二人ともレベルは上限に達しているが、装備に差があり過ぎる。

洗練された夜叉マルの装備に対して、サイトウはーー。

最初のダンジョンからやって来た彼に、多くは言うまい。


「とにかく……アレを倒せば良いんだな」


「そうです! その通りです!」


「任せておけ、戦友(トモ)よ。

 PvPは初めてだが……。やってみよう」


会話を終えると、炎が消える。

槍兵が再び視界の中に現れた。

いつの間にかきりん、あいりんもその横に立っている。

ただ、夜叉マルの様子がおかしい。


「アンタ……。いえ貴方は。

 もしかして、プロゲーマーのpsy10さんっすか?」


夜叉マルの捻り出す様な言葉。

サイトウはそれに応える。


「いや……正確には元プロだ。

 今はただのゲーム好きに過ぎん」


それを聞いた瞬間、夜叉マルは栓を抜かれた様に話し始めた。


「俺! 貴方の試合は全部観てました!

 WDOの第3回世界リーグ! 最終戦はシビれました!

 こんなところでお会いできるなんて!!」


槍兵の青年が、ただの熱狂的なファンの眼になっていた。

なんだ、サイトウって有名なのか?

俺と同じ疑問を頂いたのか、きりんが会話に割り込んだ。


「え? あの人そんなに有名なの?」


「当たり前だ、クソ姉貴。

 日本のeスポーツは人気があるけど弱い。そんな世界からの評価を塗り替えたお方だぞ。無駄のないプレイスキル、緻密な戦術、予知とまで言われた先読み。

 あの人を知らないゲーマーはモグリだ!!!!」


弟の熱気に追われて、呆然とするきりん。

大丈夫だ。俺も今初めて知ったぞ。


「悪い。アンタとの約束とかどうでも良いわ。

 “ワールドオーダー”と言われた、サイトウさんとやり合える機会なんて、最後かも知れない」


夜叉マルの言葉に、きりんが動揺を示す。


「は? ふざけんじゃないわよ! ちゃんと……」


「黙れブス」


そう言い、彼は姉との会話を打ち切った。


「サイトウさん! あっちで一対一でやり合いましょう!

 是非手合わせお願いします!!」


「……良いだろう。その方がコチラとしても都合が……良い。問題無いな、アクタ」


「えと……。はい」


「心配するな、役割(ロール)は全うする」


カッケェな、おい。

これが大人の魅力ってやつか。

サイトウはそれだけを告げ、夜叉マルと共に茂みの奥へと姿を消していった。


残されたのは、俺、きりん、あいりんのみ。


「……」


「……」


「……」


「はは」


「あはは」


「「あはははははははははははははは!!」」


不幸な女と、天運に愛された男。

二人の狂気じみた笑いが平原を駆け抜ける。


さあ、エンディングは見えて来た!

後はきりんを拘束、あいりんを麻痺、シャドウドラゴンを痛めつける!

それでゲームセットだ!!!


勝利への道は、完全に見えた。

俺は興奮を隠す事も無く、叫んだ。


「コレで終いにしようや!

 おねーーーちゃん!!!!」


「テメェがその呼び方してんじゃネェ!!!

 クソガキがあああああ!!!」


ラストバトルが始まる。


【視聴者:101】



*****



アクタ、きらんから500mほど離れた場所。


槍を携えた青年と、くたびれた男が対峙していた。

両者の出立ちは対照的であった。


青年のまとう服、防具、アクセサリー、どれもが一級品。どれも手入れが行き届いており、若いながらに戦いと言うものを熟知していた。


それもそのはず。

夜叉マルと言う青年は、RFOリリース当初から最前線を走り抜けて来た。そして今もなお、戦場の一番前に立ち続けている。


それに対して、サイトウの装備はボロ布も同然であった。

くたびれたシャツ。泥だらけのズボン。

剣すら持っていない。ただし、その眼光は爛々と輝いていた。

その瞳を見つめながら、夜叉マルが口を開いた。


「どうして……」


彼は戦う前に、聞いておきたい事があったのだ。


「どうして引退しちゃったんですか?」


「……。

 コメントも出さず、身を引いてすまなかった。

 ファンには申し訳無い事をしたと……思っている」


「確かにeスポーツ業界じゃ高齢かも知れません。

 それでも、貴方に敵うプレイヤーはいないです」


「ふん、嬉しい事を言ってくれる。そうだな……」


サイトウはもったいぶった様子で口を紡いでーー


「この後、雑談配信をするから観に来てくれ」


悪ガキの様に笑った。


「はい! お邪魔します!!!」


そのやり取りを皮切りに、両者の姿がブレる。

二人の間にあった距離は、瞬く間に消え去る。


ドン!!


直後、地響きを思わせるような衝突音が鳴る。

サイトウが拳を、夜叉マルが槍を、打ち付けた衝突音であった。

鍔迫り合いが始まる。拳と槍が違いを押し合う。

力は互角、互いに押しも引も出来ない。

夜叉マルが先に動いた。


「ライトニングブレス!」


夜叉マルがスキルを発動。

彼の肩に留まる雷の龍から、蒼雷が発射された。

それを見越していたかの様に、サイトウは身を屈め、躱す。


その体制のまま、サイトウは拳を振るった。

ーーアッパーカット

その時、夜叉マルは疑問を感じた。

なぜなら、リーチが足りないからだ。


それもそのはず。

槍と素手では長さが違う。

その差を埋めるための、踏み込みすら無い。

ーーこの拳は当たらない。

夜叉マルの疑問に、ワールドオーダーと言われた男が解を示す。


「テュール……制裁の息吹」


サイトウの拳から、先刻の炎が噴き出す。

爆発と形容できる炎が、夜叉マルを包み込む。

彼は身を焦がしながら、後方へ下がって距離をとった。


不意打ちの攻撃をモロに受けた。

夜叉マルのHPは大きく削られた。

しかし、彼は何とも嬉しそうであった。


「はは!! 出た!! 技返し!!

 ブレスをブレスで返したんですか!!」


それはサイトウの得意とする技。

相手の技を、そのまま返す。

別のゲームでは、何度も観客を沸かせて来た妙技。


通常なら相手にプレッシャーをかけるその技は、この時はむしろ興奮の火種となった。


「君は……楽しそうにゲームをする」


「当たり前っす!! ドーパミン、ドバドバなんで!!!!」


サイトウの口角が上がる。

そして、夜叉マル(ファン)へと語りかける。


「今は……この時を楽しもう」


「イェッサー!!!!」


奇しくも、これもファンには堪らない言葉であった。

夜叉マルのテンションと共に、戦闘のボルテージが高まる。


二人は何度もぶつかり合う。

炎が立ち上り、蒼雷が大地を駆け抜ける。

刃がボロ着を掠め、拳が青年の体を打ち付ける。

ぶつかり合うだけ、両者のHPは削られていく。


夜叉マルのアイテムポーチには、回復薬など幾らでもあった。

しかし、それを使う事は無かった。

サイトウと同じ土俵で戦いたい。

その幼い憧れが、戦術的タクティクスを失わせていた。


数十分にも及ぶ戦闘。

その決着は少しずつ近づいていた。

両者の動きが止まる。

気付けば、残存HPは二割を切っていた。


ーー次で最後。

二人の脳裏にその言葉が浮かんだ。


夜叉マルは考える。

楽しい時間だった。

こんなに楽しいゲームは初めてだ。

さすが【神が作った神ゲー】。


彼はこのゲームの開発者に心から感謝した。

そして、だからこそ勝ちたい、と願った。


「これで終わりにします……!!」


「良いだろう。受けて立つ」


夜叉マルは目を瞑り、詠唱を始めた。


「其は天を駆ける者。

 山羊の引く戦車。地を割る雷撃。

 戦と農耕の神に誓う。

 この一刺は全てを貫く」


身体を蒼雷が包み込む。

サイトウは確信した。夜叉マルの最大火力が来る、と。

夜叉マルが駆け出す。

今までで最も早い。


それに対し、サイトウは一歩も踏み出さない。

完璧なタイミングを掴むため、どっしりと構える。


「蒼雷一閃!!!!!!」


雷をまとった夜叉マルが槍を突き出す。

リキャストタイム30分の大技。

並の相手なら一撃で屠る威力をほこる。

それに対し、サイトウは右手を突き出した。


直後。

ーーサイトウの右手は吹き飛んだ。

自分の視界情報から、夜叉マルは確信する。

ーー勝った!


しかし、サイトウの顔に焦りは無い。

むしろ笑っている様にさえ感じた。


「対戦、お疲れ様でした」


サイトウは告げた。

それを合図として、吹き飛んだ右腕が炎に包まれる。

そして剣へと形状を変えた。


サイトウのアビリティ、テュールは二つの性質を持つ。

テュールというドラゴンを武器に変化させる事ができる。

所持者は隻腕となる。


北欧神話の戦神をモチーフとしたアビリティ。

彼はその特性を戦術として利用する。

テュールを右腕に擬態させていたのだ。


炎から現れた剣は、夜叉マル目掛けて飛んでいく。

そして。

ーー夜叉マルの背中を突き刺した。


彼は何故負けたのか理解していなかった。

ただ、自分のHPが無くなった事だけは、理解できた。


青年の脳裏で、走馬灯が走り抜ける。


ああ、後でアーカイブを確認してーー


その前に雑談配信をーー


負けたはずなのに、その心は軽かった。

さすが“ワールドオーダー”だ。


「対戦、ありがとうございました……」


そう呟き、夜叉マルはポリゴンとなって散っていった。

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