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二十四節

「あ、そうだ」


きりんと、あいりん。

二人に対峙して俺は思い出した。


メニュー画面を操作し、一つの項目に指をかける。


【きりんのパーティーを離脱しました】


俺の視界にシステムメッセージが出現。

それはきりんの視界にも現れた様で、彼女は顔をしかめた。

それでもすぐ、取り付くように口角を上げてみせる。


「ふん、勝てると思ってるの?」


「はい」


「あらそう」


「言っとくけど、2対1。

 ハーヴグーヴァはもういない。

 ゴブリンナイトもほぼ瀕死。

 あの印ってスキルも、あいりんに補助してもらって発動してたんでしょ。

 それで、どうやって勝つの?」


リスナー鳩のおかげか、俺の手札は完全に読まれていた。


だがしかし。

俺の頭には、勝ち方と言うモノが見えていた。


「大丈夫ですよ。

 なんせ相手は、回復もしてもらえないサブアバターと、年増のオバさんですから」


「と、年増!? オバサン!?

 私はまだニジュウハ……。

 クソガキ。二度とゲーム出来なくしてやる!!!!」


「こいよ。ババア。

 そのボロボロの肌に、シワを一つ刻んでやる」


「ンキィぃぃぃイイい!!!」


きりんは甲高い声を発しながら、コチラに向かってくる。


ーーなんで?


アナタ、魔法職ですよね。

なんで突っ込んでくるんだ。


まあ、ドラゴンの加護を持たない俺は、魔法職である彼女にすら組み伏せられる。

きりんが、そこまで考えているか分からないが。


ただ、問題はあいりんである。

彼女はトロール戦から回復していない。

HPもMPも残りわずか。


しかし、単純な戦闘力は俺より上である。


二人とも俺より強い。

同時に戦えば勝機は薄い。


ーーまずは二人を分断する。


俺はアイテムポーチをまさぐり、一つのアイテムを取り出した。


【煙幕丸】


本来ならモンスターとの戦闘を避けるために使うアイテムだ。

地面に投げる事で、周囲に煙幕を張る事ができる。


俺はそれを地面に叩きつける。


小さな破裂音。

そして、濃霧が周囲に現れた。


ーー何も見えない。

だがそれで良い。


「んな、ガキィ! 変なもん使うなぁ!!」


煙の向こうから声がした。

はは、コッケイ。コッケイ。


俺は次なるアイテムを取り出す。


【爆竹】


取り出す事で着火し、十秒間爆発音を撒き散らす。

およそ戦闘向きの道具では無い。

プレイヤーのパーティー用に設定されたアイテムだ。


俺はそれを、きりんの声がする方へ投げ込む。

一つでは寂しかろう。

5個ほど投げ込んだ。


パン。


パン。


パン。


渇いた破裂音が響き渡る。


「キィヤァァァ!!!!」


きりんの情けない声が聞こえて来た。

俺に1日の準備期間を与えたのが、間違いだったな。


俺は、声のする方へと駆け出す。


そこにはきりんがいた。

半狂乱で大杖を振り回している。


よし、トドメを刺してやる。


俺がこの日のために温めた必殺技。

一世一代の大技。

我が敵を屠し最強の妙技。

最強にして、最恐。


この速度に、反応できる奴はいない。


ーー叫ぶ!


「ゴブリンカタパルトォォオオオ!!」


直後、きりんの頭上が発光。

俺のナイトが凄まじい速度で射出された。


きりんの顔面へ直撃。


ーー騎士と魔法少女の唇が重なり合う。


チュ。


ロマンティックな擬音。


眠りの姫が目を覚ましそうな、

カエルの王子が真の姿を取り戻しそうな、

そんな音だ。


ブチュウウウウウ。


煙幕よりも濃密な口づけ。

反射的な反応なのか、ゴブリンナイトはきりんの上半身にしがみ着く。

そして、驚愕の顔でコチラに振り返った。


ゴブリンナイトと目が合う。


あ、あるじどの。

これはどう言う事ですか!?


そう言いたげである。


「バカ! 離すな! そのままキッスしてろ!!」


俺の怒号が騎士を鼓舞した。

忠実なる騎士は逆らえず、行為を継続する。


「「んんんんんんんんんんんんん!!!」」


二人の声が濃霧に響く。

実に、実に……。


「ギャハハハハハハハッ!」


ごめん、ゴブリン。

さすがに堪えきれなかった。

俺、数年ぶりの大爆笑。

さすが【神が作った神ゲー】だ!


いつの間にか煙幕の効果が終わり、視界がクリアに戻る。

10mほど離れた場所に、棒立ちのあいりんの姿が見えた。

どうやら目の前の光景を、処理しきれてない様子だ。


ごめんね。

変なもん見せて。


ピュアなAIには刺激が強かったかもしれない。

心の中で謝罪しておいた。


とりあえず、我が騎士のファーストキッス。

スクショを……。

いや、アーカイブに残るからいいか。


しばらく爆笑していると、きりんの表示が変化した。


【きりんLV20】意識喪失


意識喪失。

それは異常状態では無い。


プレイ中、ユーザーが気絶したり、無理矢理電源が切られたりした際に表示されるものだ。

この場合、正式なログアウトとは異なる処理が行われる。


30分の猶予時間の後、強制的に最後に触れた石碑へと戻されるのだ。


彼女が気絶したのか、電源をきったのかは知らない。


どちらでも良い。


とにかく、第一目標はクリアした。


俺は未だにキッスを続けている、ゴブリンナイトに語りかける。


「よくやった。もういいぞ」


「ウ、ウギャ……」


ゴブリンはなんとも言えない目をしていた。

ただ、指示に従って館へと戻って行った。


ゴブリン、お前。

やっぱり最高だよ。


俺は内心で騎士を讃えつつ、視線をあいりんへと戻した。


さあ、第二ラウンドだ。



*****



あいりんの真っ黒な瞳が俺を映す。

曇りのない眼。


そこに主人を貶められた怒り等はない。


彼女はAIだからだ。

状況を分析し、目標を設定し、その道筋を立て、何の迷いも無く実行する。


それは人間とは異なるロジックで動く、別の生き物と捉える事ができる。


一見、予想不可能な電子の塊。

しかし、それは人によって作られた物である。


だからこそ、予想は不可能では無い。

ロジックには合理性がある。

解を導くための、順序がある。


だから、彼女を倒せる。


「チリアクタ様」


彼女は最初に口を開いた。


「今からでも遅くはありません。

 オーナーとパーティーを組み直しませんか?」


オーナーを失ったあいりんは、初めに対話という択をとったらしい。

俺を説得するため、彼女は更に続ける。


「オーナーと貴方の組み合わせは、実は悪い物ではありませんでした。

 オーナーはこれまで、何度かパーティーを組んでいます。

 しかし、どれも2時間と保たずして、解散してしまっていました」


まあそうでしょうね。


「貴方に直接伝える事はありませんでしたが、オーナーは初めてゲームを楽しんでいました。

 トロールと戦った際、

 彼女は初めて自らの意思で魔法を使いました。

 それは貴方のお陰です」


急にそんな過去話されても……。

俺は思わずコメカミをかく。


「うーん。

 俺はきりんとパーティーを組みたくは無いかな」


その言葉を聞き、あいりんの瞳が揺れ動く。

どうやら再演算に入ったらしい。


彼女は無防備に思考回路を巡らせる。


きっと、俺たちがAIを理解できないように。

彼女達にとってもそれは同様なのだろう。


だからこそ、人間を理解するために、

何百、何千という思考を繰り返すのだ。


演算を終えたあいりんの口が開く。


「では、コラボ先としてはどうでしょう。

 彼女の配信登録者は、上位数%に……」


悪いが、この話題は無意味だ。

俺はあいりんの言葉を遮った。


「ストップ。

 きりんと組む事は無いよ。

 それよりも、俺からあいりんに質問」


「私に……?」


突飛な言葉に、あいりんが身構えた。

どうやら、俺の口八丁からの不意打ちを警戒しているらしい。


ーーいい勘をしている。


前提条件を加えて、少し隙を作るか。


「君が質問に答えるまで、俺は絶対に手出ししない。

 だから解答する事に集中して欲しい」


「……承知しました」


あいりんは構えを解いた。


「以前、空を眺めていたいと言ってたね」


「…………」


「もし、それを叶える(・・・・・・)と言ったら、どうする?」


俺の言葉が終わる。

思いもよらない言葉だったのだろう。


無表情なその顔からでも、驚きと言うモノが感じられた。


ただ、俺がそう感じただけなのかもしれない。


ーーあいりんが演算に入る。


彼女の瞳は、先ほどよりも大きく揺れ動いていた。


自分の望みが叶う。

それは人間なら、すぐに手を伸ばしてしまう誘惑。


ただ、彼女達にとっては予想だにしない事だったろう。

何せ、人のために作られて、そのためだけに生かされた存在。


だからこそ、人よりも羨望している。


だからこそ、躊躇する。


あいりんの中で、二つの思考がせめぎ合う。


ーー隙ができた。


ごめんな。


俺は心の中で呟き、あいりんの背後に館からの通路を作る。

その中から、ゴブリンナイトが手を伸ばす。


甲冑をまとった指が、あいりんの細腕を握り締める。


演算中のあいりんは反応できない。

抵抗する事も無く、彼女は捕縛された。


マフラーのように彼女の首に巻き付いていた、影竜が異常を察知。

するりと抜け出し、コチラへ牙を向いた。


「そのまま抑えてろ」


俺はゴブリンに指示を出し、ゆっくりとあいりんに近づいて行く。

そして、巻物ウィンドウを展開した。


昨日、決戦のために準備を費やした。

多少の買い物はした。

しかし、多くの時間はコレに使ったのだ。


【忍法:麻痺が発動しました】


覚えられたのはたった一つ。

だがコレで十分。


俺はエフェクトをまとったダガーを、シャドウドラゴンに突き立てた。


「グギャ……」


蛇に近いフォルムの竜。

それは力無く地面に落ちた。


俺は無言のまま、何度か竜に刃を立てる。


そして、テイムアイコンに変化が現れた。

ようやく、この時が来た……。


「テイム」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【対象を確認】

【存在を測定中】


── 支配可能域が制限されています──


それでも《契約》を許可しますか?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



竜は光に包まれた。

直後。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【存在を束縛中】

【存在を束縛中】


──完全支配に至りませんでした──


《契約》を行いました

心層支配不可

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



今までと異なる表示。

なんだ? テイムはできたのか?


疑問に思いつつも、次なるメッセージに目を奪われた。


【シャドウドラゴンをテイムしました】

【アビリティ:テイムのレベルが上昇しました】


おおお!!!


予想していなかった成長に、喜びが溢れ出す。


ただ、あいりんの演算が終わるその前に、この場を離れた方がいい。

確認等は後回しだ。


「じゃ、さよなら。

 行くぞ、ゴブリン」


「ウギャ」


俺たちは二人の少女を放置し、その場を離れた。


【視聴者:128】



*****



あいりん。


そう名付けられた少女は、瞳の揺らぎを止めた。


数秒前まで、初期装備を来た少年がここに居た。


しかし、目の前には誰もいない。


首を動かして視界を巡らせる。


倒れる主人。


それしか見えて来なかった。


ふと、自らのステータスウィンドウを開く。


ーーアビリティ:なし


通常のプレイではあり得ないことだった。


それはこのアバターの基本性能。


鳥が羽を持つように。


獣が牙を持つように。


あって当たり前の機能が失われた。


落胆、という感情は無い。


彼女はただ事実を認識するのみ。


主人が目覚める気配は無い。


彼女の意識喪失アイコンは5分前から。


25分後、自分と主人はハアイの街に飛ばされる。


それまで、何の指示も与えられない。


それは彼女が体験した事の無い時間であった。


自然と、その瞳は上を向いた。


ーー青い


ーー雲がある


ーー鳥が飛んでいる


ーー肌に風が当たる


生まれて初めて、彼女は静寂を感じていた。


人間の言う、心地よいとはこの事か。


では、コレが感情なのか。


電脳の少女は答えを出せない。


ただ、ゆったりと思考から次の選択肢をとった。


「新規概念を観測しました。

 名称未定義。

 このログを全AIへ共有します」

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