二十一節
俺、あいりん、ゴブリンナイト。
三名の中心にはトロール。
トロールの視線はゴブリンナイトに向いている。ただ、ヘイトタンカーを使わせていない。ターゲットは移りやすい状態だ。
俺よりも先に、あいりんが動く。
彼女は先ほどと同じスキルを使用。
エフェクトを纏いながら、トロールに突っ込む。
ズシリ。
その短刀がトロールの脇腹に深く刺さる。
「今だな」
俺はあいりんの立ち位置を確認し、印を発動させた。
目の前に巻物のウィンドウが出現。
それと同時に、システムからメッセージが届く。
【あいりんからメッセージが届きました】
【件名:・・----・】
俺は即座にそれを書き写す。
【忍法:火遁が発動しました】
近接戦闘職では珍しい、魔法攻撃を行う忍法。
なんでも屋の忍ならではのスキルだ。
俺はトロールめがけ、息を吹きかける。これが発動の合図となり、俺の口から巨大な炎が燃え上がった。
猛々しい炎が視界を包む。
それは目の前のトロールに襲い掛かった。
「ヴォー!!!」
今まで一番の怒号。
お、効いてる、効いてる!
「っ。息が続かん……」
俺の息が止まると、火遁も止まる。
炎の中からトロールが姿を現す。
その体は、あちこちが焼け焦げていた。
「たたみかけろ!」
俺の指示を聞いた、ゴブリンとあいりんが駆ける。
二人はトロールの身体を何度も攻撃する。
数度、あいりんが吹き飛ばされた。
しかし、彼女はすぐに立ち上がって攻撃に参加する。
なんと健気な。
うちのゴブリンくらい健気だ。
そう内心で呟きつつ、俺もヘイトをもらわない程度に攻撃を繰り返す。
始めの作戦らしい戦いはどこへやら。
ほとんど乱戦に近い戦いとなった。
そして、最後の最後。
ほとんど虫の息となったトロールの顔に、小さな水の玉がぶつかった。
シャボン玉のような水玉。
それがバチンと弾けた瞬間。
【トロールを倒しました】
【経験値1130を獲得しました】
【ドロップアイテム:灰巨人の皮×4、灰巨人の大骨】
リザルト画面が表示された。
*****
ラストアタックは、きりんにもっていかれたようだ。
「みんな、やったよー!
これでクラヨシに行けるねー!」
本人もとても喜んでいる様子。
「やりましたね」
俺は笑顔を浮かべながら歩いていく。
「え、チリアクタさん。
ちょっと待っててくださいねぇ」
「いえ、もう待ちません」
「え?」
俺の言葉が予想外だったのか、
きりんが一瞬だけ眉をひそめる。
だが、すぐに表情を作り始めた。
「もう~、チリアクタさんはせっかちさんですねぇ」
周囲を霧が漂い始める。
きりんに気付いた様子は無い。
「きりんさん、エリアボスを倒した後、
必ずしないといけない事って知ってますか?」
「クイズですか~。
リスナーのみんな、分かりますかぁ?」
霧は段々と濃くなる。
クラヨシの街が見えないほどに。
「正解は、次の街の石碑に触れる、です。
これをせずにデスポーンすると
エリアボスからやり直しですから」
「……」
きりんの表情が硬くなる。
何が言いたいの? と言いたげだ。
「つまり、ここでサヨナラって事ですよ」
俺がそう告げた瞬間。
あいりんが武器を抜き、きりんを守るように立ちはだかる。
この後の展開を予想したのだろう。
そこでようやく違和感を感じ始めたきりん。
きょろきょろと周りを確認し始めた。
「クォオオーン」
濃霧の中を、鯨の声が響き渡る。
きりんの視線が上空で止まる。
どうやらアレを見つけたようだ。
ーー四体のハーヴグーヴァが、空を泳いでいた。
「では、第二ラウンドを始めましょうか」
俺は静かに告げる。
ここからがメインデッシュだ。
「チ、チリアクタさん何を言って……」
「なにって。
あいりんさんのシャドウドラゴンが欲しいんで」
「だからどういう……」
「はあ」
察しの悪いやつだ。
これ以上の会話は意味がない。
俺は右手を上げる。
それを合図に、きりんとあいりんの周囲が霧が動く。
手のような形に変化し、二人を握った。
ハーヴグーヴァのスキル【霧の手】。
あいりんは拘束を逃れようと、もがく。
しかし、LV差による暴力はそれを許さない。
念願のシャドウドラゴン。やっと手に入る。
これで俺の戦闘力も人並み。テイムを合わせれば人並み以上。
あふれ出す脳汁が、止まらなくなってきたぜ!
俺はシャドウドラゴンを手に入れるため、二人へと近づいていく。
ここまできりんの態度に我慢してきたのは、この時のため。そうやく解放される。
「さあ、シャドウドラゴンを……」
そこで、予想していなかった事が起きた。
バチイ!
耳を切り裂くような高音が響いた。
霧の中を、蒼い雷が駆け抜ける。
直後。
ドオン
大地が揺れるような轟音が響く。
音の方向を見るとーー
ハーヴグーヴァが一体、地面に伏していた。
腹の部分には、大きな火傷の後があった。
は?
何が起こった?
【ハーヴグーヴァLV34の魂が消失しました】
無情に届く通知。
俺は半分パニックを起こしながら、周囲を見渡す。
すると、いつの間にか霧の手から解放された、きりんとあいりんの姿が見えた。
そして、その横には見知らぬ男の姿。
男ときりんは会話を始める。
「ちょっと遅いじゃない!!」
「いーや、これでも早く着いた方だし。
文句言うなよ」
「は? 私やられかけたんだけど」
「俺、助けてやったんだけど?」
ゲーム友達というには距離が近い。
恋人というには遠い。
まるで家族のような距離感。
わめき散らすきりんを他所に、男はこちらを向いた。
「あれ【ためしの遺跡】のボスでしょ?
俺も一回だけ倒したんですよ」
目の前の出来事を飲み込めない俺に、男は続ける。
「てか凄いっすね。
ほんとにダンジョンボスを仲間にできんだ」
軽装の鎧を身にまとい、
肩には蒼雷をまとう竜。ライトニングドラゴン。
手には2m近い大槍。
「はじめまして。
俺は攻略クラン【Fianna】所属。
夜叉マルです。一応、それの弟です……。
噂のエクストラさん手合わせ願います」
【夜叉マルLV75】
おい、嘘だろ。
【視聴者60】




