二十節
海辺の洞窟を攻略してから二日後。
俺はハアイの門の前にいた。前回と同じく、約束の時間になっても、きりんの姿は見えない。まあ予想はできていた事だ。
特に言うこともあるまい。
それから10分ほどの時間が経過してから、魔法少女がやってきた。
「おはようございます」
眠そうにしている彼女へ、声をかけた。
「ん……はい」
いや挨拶を返せ。喉から出かかった言葉を飲み込み、俺は話題を振る。
「とりあえず、クラヨシに向けて出発しましょうか。
今が13時なので、30分後にはクラヨシ前のエリアボスにたどり着くはずです」
「そう……ね。行きましょうか」
「配信は始めなくて大丈夫ですか?」
「……うるさいわね。さっさと歩きなさい」
「OKです」
俺は促されるまま門をくぐった。
*****
ハアイの街を出てから数度。
モンスターとの戦闘を行った。
海辺の洞窟での戦闘と同じく、きりんは戦うそぶりを見せない。大杖もアイテムポーチに入れたまま。彼女は、何が楽しくてRFOをしているのだろう。
疑問が浮かんでくる。
ただ、わざわざ聞こうという気は起きなかった。
ーーあと数分の付き合いなのだから。
そんな風に考えていると、前方の景色に変化が現れた。鬱蒼としていた木々が無くなり、広い草原に出る。
地平線すら見えてきそうな草原の先、遠くともはっきりと見える城壁。
きっと、高さは10m以上あるだろう。
そしてその先にはもっと大きな建築物があるようで、
城門の先から屋根が飛び出ていた。
「あれがクラヨシか……」
遠く離れた場所からでもわかる街の壮大さに、思わず感嘆の声が漏れる。そして俺の呟きで目的地が近いこと悟ったのか、きりんが声をかけてきた。
「ちょっと待って。
配信を始めるわ」
彼女がサイシスの配信ウィンドウを立ち上げて、準備を始めた。
「きりんりんりん♩
ハロー、こんにちは、こんばんは!
バーチャルライバーの天届きりんです!今日も配信を見てくれてありがとう!」
あい変わらずの変容ぶり。関心すら湧いてきそうである。
いつの間にか、しまい込んでいた大杖すら携えている。
「私たちはハアイの森を抜けたところですぅ!
ほら、ここからでもクラヨシの街が見えるねぇ! さあ、行くよ二人とも!」
そう告げたきりんが俺たちを追い抜いて行く。
「はい、行きましょうか」
俺はその後を着いていく。きりんはレンズに視線を向けながら、リスナーへ語り掛ける。
「クラヨシのエリアボスはトロール!
初心者はけっこうここで躓くみたいだから心配だよぉ」
軽快に話していたきりんの足が止まる。彼女の先を見ると、ずんぐりとした背中が見えた。
灰色の肌。
身長は4mほど。
身体の構造は人間に近い。
が、醜悪な顔つきが嫌悪感を抱かせる。
【-おおぐらい-トロールLV23】
エリアボスのご登場だ。武器を構えて臨戦態勢をとる。
メインデッシュの前の前菜だ。ここは軽くクリアをーー
そこで一つの異常に気付く。きりんが全く動かない。
「なにしてる!
早く下がって!」
思わず叫んだ。しかし、彼女からの反応が無い。
その隙をつき、トロールが拳を振り下ろす。
「ウヴォー」
ここできりんにやられては困る。俺は即座にゴブリンナイトを呼び出し、きりんとトロールの間に割り込ませる。
ズドン、と鈍い音が響き渡る。
「ウギャーギャ」
大丈夫かな、お嬢さん。と言っているのだろう。
さすがナイト。カッコいい。
トロールはゴブリンに任せ、俺はきりんのローブを引っ張っる。
「何してんですか!」
「え………、急にキモかったから……」
「はい?」
そこであいりんの注釈が入る。
「オーナーは、あの系統のモンスターが苦手です」
「私、ゴブリンとかネックみたいに気持ち悪い
モンスター苦手でぇー」
こいつ、なんでRFOしてんだ。まあ、戦力にならない事は分かった。
「あいりん、行こう」
「承知しました」
きりんはその場に残し、俺たちはトロールを囲い込む。俺たちの準備が整ったのをゴブリンに伝える。
瞬間。
「ウッギャー!!」
ゴブリンがトロールを吹き飛ばす。
灰色の巨体が大きく傾く。
「あいりん、今だ!」
俺の指示を聞き、あいりんからエフェクトが立ち上る。
なんらかのスキルを使ったようだ。
あいりんはトロールの胸に短刀を突き立てる。
「ヴォー」
トロールが地面に倒れた。
あいりんの攻撃は効いているようだ。
ただし、そこはエリアボス。
倒れながら、あいりんの足を掴んでいた。
寝転がったまま、トロールはあいりんを地面に叩きつける。
「っ!!」
執拗に。
何度も何度も地面に叩きつけられる。
あいりんのHPはみるみる減っていく。
その肩に乗っているシャドウドラゴンも同様に。
(お、いい感じ。いい感じ)
俺は内心でほくそ笑みつつ、その場に近づく。
仰向けのトロールの眼球にダガーを刺した。
あいりんを手放し、その場から立ち上がり、
灰色の巨人は顔を抑えて悶絶する。
「助かりました」
あいりんからの感謝の言葉。
それに頷きつつ、俺は問う。
「ポーションはある?」
「今のHPを全快させれば、手持ちは無くなります」
「……そう」
あいりんはポーチから回復をアイテムを取り出す。
それを使いつつ、話し始めた。
「トロールは物理耐性をもっているようです。
属性攻撃、特に火が弱点です」
「なるほど」
実は知っている。
「私が補助しますので、忍術で攻撃していただければと思います」
「OK。その作戦でいきましょう」
ふときりんに視線を向ける。
彼女が何をしているのか気になった。
「アクアボール!!」
一応、戦闘に参加している姿勢をしているが……。
アレは最弱魔法。トロールに当たってはいるが、ダメージになっているようには見えない。
配信向けに戦っている風を装っているらしい。
俺とあいりんは左右に分かれ、再度トロールを囲いこんだ。
【視聴者51】




