第5章 深まる影 ― 末松の嘘と、掴まれた糸口 ―
■ 会議室 ― 3人の情報整理
環が聞いてきた内容を中心に、
ホワイトボードに情報が整理されていく。
柊が書きながら呟く。
「末松学……
徳山の部下で、情報システム課の一員……」
凪が腕を組む。
「夜のサーバー室、
徳山にだけ呼び出される……
美乃さんのIDにアクセスできる位置……」
環は手帳を持ちながら少し震える声で続けた。
「深見さんたち……本当に怒ってました。
“美乃さんを陥れるなんて許せない”って……
それと……末松さんが、
“なにか消そうとしていたかもしれない”って」
柊が環を見て静かに頷いた。
「よく聞いてくれた。助かったよ」
凪も笑った。
「やっぱり環さん……すごいですよ。
僕らだけじゃ絶対拾えない情報ですからね〜」
環は少し照れつつも、
「役に立ててよかった……」と小さく言った。
◇◇◇
■ 末松の“決定的な矛盾”
凪がPCを操作しながら、
あるログを指差した。
「先輩、これ……見てください」
柊が覗き込む。
「美乃さんのログ……の時間帯……」
凪がタップして拡大する。
「はい。この時間帯──
美乃さん、実際は“会議室で部長と打合せ中”なんですよ。
長岡部長にも確認取れました」
環が目を見開く。
「じゃあ……どうやって……?」
凪の声が静かに低くなる。
「“誰かが、課長のIDを使った”……
それしかありません」
柊が腕を組む。
「だとすると……
IDを使える立場にあった人間が怪しい」
凪が短く頷く。
「末松です。
特権IDも、サーバー室の物理キーも持っていますから」
環が手帳を握りしめる。
「じゃあ……やっぱり……
末松さんが……?」
◇◇◇
■ 証拠を追おうとした矢先
会議室のドアがノックされる。
ドアが開くと──
坂井謙吾が立っていた。
反対派のひとりだ。
「アークシステムズさん……
ちょっと、確認したいことがあります」
柊が表情を引き締める。
「なんでしょうか?」
坂井は室内をひと巡り見て、
あからさまに環へ視線を止めた。
「事務員の方も……調査に参加しているんですか?」
環の手がわずかに硬くなる。
凪がその前に一歩出て、
笑顔のような笑顔じゃない顔で言う。
「はい。“事務員の方”は、
うちの立派なプロジェクトメンバーです」
坂井の眉がわずかに動いた。
「……ふぅん。
まぁ……結論を急ぎすぎないほうがいいですよ。
犯人探しなんて──
下手をすると、もっと問題が大きくなる」
環の胸がどきりとする。
柊の目が鋭くなる。
「脅しですか?」
坂井は笑う。
「まさか。ただの……忠告ですよ」
ドアが閉まった瞬間、
室内は一気に静まり返った。
環がそっと言う。
「……怖かった……」
柊は環の近くに来て、
肩に優しく触れた。
「環、平気だ。
あいつらが焦ってる証拠だよ」
凪が椅子を回転させ、
クルッと環の方へ向く。
「そうですよ〜環さん。
僕らは正しいことしてるんです。
だから、ぜんっぜんビビらなくて平気です」
環は少し安心したように笑った。
◇◇◇
■ そして──凪が“決定的な糸口”を掴む
凪が再びPCを操作し始める。
「……あれ……?」
柊が覗き込む。
「どうした?」
凪は画面を指しながら言った。
「このログ……
“末松が触った痕跡”が……残ってますね」
環が息を飲む。
「本当に……!?」
凪の声が少しだけ強くなる。
「末松は……“消したつもり”なんですよ。
でもね……
僕が見ると“消してる形跡が残ってる”んです。
浅い……浅すぎる」
柊が笑った。
「……出たな、凪の領域」
環も思わず小さく笑う。
「やっぱり……すごい……」
凪は照れたようにメガネを押し上げた。
「ええ、僕……こういうときだけカッコいいんです」
そして──
3人はついに“ひとつの答え”に辿り着く。
末松学。
彼が、美乃のIDを使って不正アクセスを仕掛けた。
ここから事件は大きく動き出す。




