79話 討伐
無策でもう一度飛ぶわけにもいかないので、ショップで耳栓を探して、1番安いのを買った。
説明文はなんの変哲もないただの耳栓だった。
どうせ今しか使わないしこれでいいだろ。ついでだし奈那さんに同じものを渡しておく。
そして体制を立て直し、タイミングを測って本日何度目かのジャンプをした。
やはりまた叫ばれたが、耳栓のおかげかさっきよりはマシだった。それでもうるさかったけど、さっきみたいにフラフラになるほどではないし、石も割れていない。
今までと同じく攻撃は全部奈那さん任せで、俺はドラゴンからの突進攻撃を避ける事に専念した。隠遁者スキルを使っているのだが、やはり流石に目の前まで来られると俺らの居場所がわかるらしい。
今度は左側の羽を重点的に狙って攻撃をしていたが、ドラゴンはまだ飛んでいる。ただ、あの咆哮から炎を吐いていないところをみるに、毒瓶の効果はあったんだろう。
俺が飛んで奈那さんが攻撃を与え、下に降りたら次の場所に移動する。途中回復薬で魔力を回復させつつ、それを何度か繰り返すうちにドラゴンはついに飛べなくなって、大きな音を立てながら地面に落ちた。
ドラゴンは羽をバタつかせていて、まだ元気そうな様子だ。
「羽の薄い部分には氷の槍が突き刺さってますけど、胴体の方は傷が少しついた程度……奈那さんが撃ってたのって上級スキルですよね?」
「ああ。これ以上威力が強いスキルは持っていない。柔らかそうなところを狙い続けるか、それとも……先ほどからヤツは炎を吐いていない。飲ませた毒が効いていると考えて毒で責めるかのどちらかだな」
「腹側は鱗がないのでダメージは通りそうですね。毒で責めるなら俺が毒瓶を出しまくる……いや、いっそのことポイズンスライムを召喚しまくってみます?」
なんて冗談ですけどって続けて言おうとしたらそれはいいなと全力で肯定されてしまった。
「モンスターとモンスターが戦っている姿をぜひ見てみたい!蒼斗くんが良ければやってみてはくれないか?」
いやまぁいいけどさ。ただのポイズンスライムの毒がドラゴンに効くとは思えない。人間相手でも攻撃されたところで即死ではないからさ。
だったら一個上の猛毒スライム……それより上の神経毒スライムの方がいいか?うーん……少なくともさっき投げ入れた腐食毒は効いていたような雰囲気感じるし、そっちの毒を持つスライムにするか……1匹だけではどうにも出来ないだろうからいっそのこと色んな種類をたくさん出そうかな。
ただ、スライムは足が遅い。ドラゴンの近くで出現させないと、攻撃が届くまで時間がかかってしまう。
尻尾をびたんびたん動かして建物の瓦礫を撒き散らしているあそこにはあんまり近づきたくないなぁ……
「スライム出すのはいいんですけど、戦わせるならあのドラゴンの動きを少しでもいいから止めたいですね。近づきたいので」
「拘束スキルでは止められないのかね?」
「あれはそもそも近づかないと発動しないし、発動しても向こうの方が強すぎたらまともに効力を発揮しないんですよ」
「なるほど……なら私がドラゴンの気を引こう。その隙に近づいてくれ。動きを止められずとも多少は安全に近づけるだろう。」
「そこまでしてスライムと戦わせてみたいんですか?ダメージ与えにくくても遠くからスキル撃っていればいつかは倒せると思うんですけど」
「それじゃつまらないだろう?それに、倒すまでに時間がかかっても良い事はない。自衛隊が来たら獲物を奪われるからな」
ドラゴンを取られる方の心配か……確かに前ダンジョンからモンスターが溢れ出した時は1時間以内には各ダンジョンに自衛隊が派遣されていた筈だ。ダンジョン出現からぴったり1年の日だからいつも以上に警戒していたのだろう。
今回のドラゴンは元日じゃないから誰も予想していなかったし、警戒していなかった。とはいえこれだけの被害があるのに国の人間がまだ見えないのはなんでなんだろうな。もう結構時間経ってるのに。あの遠くで飛んでるヘリは報道ヘリっぽいし。
予想通りドラゴンの出現に特殊建造物対策局の奴らが関わっていて、国はそれを隠蔽しようとしているのか?
なんにせよ頑張ってドラゴンを地に落としたのは俺らなのに、今から国に取られるのは確かに癪だ。
「わかりました。やりましょう」
「ではやろう。ここからは別行動だな。今から5分後に攻撃を開始するから、その間に飛んでくる瓦礫には気をつけながら、いい感じの場所に移動しておいてくれ。」
「別行動だとスキル使えなくなりますが」
「攻撃手段がスキルだけだと?問題ないから任せてほしい」
スキルもなくなればステータスもただの人に戻るんだけど。問題ないって言ってるからには何かしらの攻撃手段を持っているんだろうけどさ。
「……わかりました。こっちの心配はしなくていいので、気を引くのよろしくお願いします。少しでも危ないと感じたら逃げてくださいね」
「ふふ。善処しよう」
善処しようって断り文句だろ。
俺が止められるものでもないけどさ。
とにかく、俺と奈那さんはここで別れて、俺は大回りをしてドラゴンの後方に向かう。
ドラゴンは建物に突撃してさらに被害を広げているが、火を吹いている様子がないので、まじで毒が効いているのかもしれない。
少しすると、奈那さんがドラゴンに攻撃を始めた。何かを投げて、大きい音がしている。閃光弾の音バージョン的なやつだろうか。
完全に気を取られている。
これならいけるか。
「10秒後、2万以下の毒を持つスライムを50万ポイント分召喚してくれ。色んな種類が均等な数になるようにな。あ、一番弱いポイズンスライムは除いてくれ。召喚場所は俺の足元で」
『承知しました』
AIが俺の足元にスライムを出す前に、ドラゴンに近づく。地面は瓦礫ばかりで走りづらいな……飛翔スキルで軽くジャンプして一気に近づくか。
今のところドラゴンは奈那さんに夢中だ。
これならいける。
ドラゴンに手が届きそうな距離まで来たところで、俺の足元から色んな色のスライムが溢れ出した。
毒持ちだからかどのスライムも基本的に濁った色をしている。
ドラゴンはスライムの存在に気づいたが、奈那さんからは目を離せないでいる。
自身を地に落とした相手と新しく発生した脅威のどちらを優先させるか迷っているのだろうか。
その間にスライムはどんどん召喚されていって、召喚されたスライムはドラゴンに向かって飛びついている。
何匹かは踏み潰されて死んで、羽に吹き飛ばされた先で死んだ。けど、召喚されるスライムの数が多すぎて、ドラゴンの胴体にスライムがそれはもうたくさんくっついている。くっつけなかった子達はドラゴンに向かって毒を吐いている。
30万ポイント分で充分だったかな、これ。
いっぱいスライムが居すぎて気持ち悪い。
『完了しました』
あ、これで全部なんだ。
ドラゴンはもがいている。
瓦礫と化した建物に体当たりしてまとわりついたスライムをなんとかしようとしているけど、毒系のスライムって本体が毒でできてるから、死んだところで毒は残るんだよな。しばらくしたら他のモンスターと同じように消えるけど。
ドラゴンがこっちに向かってきたので、飛翔で飛んで空に逃げる。
あの様子じゃもう飛べないだろうから、空が一番安全かもしれない。
数秒滞空して、奈那さんが居る方に向かって滑空して降りた。
「怪我が無さそうでよかったです。スライムが全部消されるまで様子を見てましょうか」
「お互いにな。あの様子をスマホで撮っていいだろうか?」
「ご自由にどうぞ」
撮られて困るものはない。
暴れ回ってるドラゴンに気をつけながら様子を伺った。
だんだん突進するスピードが遅くなって、ふらふらになりながらも地面にいるスライムを潰して、最後は力が尽きたように倒れた。そのまま待っていると、ドラゴンの体が光になって消えていく。
どうやら無事に倒せたらしい。




